老後の安定収入を確保する
「老後はゴルフが楽しめる環境で暮らしたい」。内田文男さん(63)は2年前、退職を機に千葉県柏市から御宿町に移り住んだ。「戻る所がないのは不安」と元の自宅は手放していない。考えたのは「家の年金化」だ。

「稼ぐ我が家」


 空き家にはせず、人に貸して賃料収入を得る。利用したのは移住・住みかえ支援機構(東京・千代田)の「マイホーム借上げ制度」だ。50歳以上を対象に終身まで借り上げる。家の家賃は月約7万円と市価より安いが、入居者がなくても家賃保証がある。15年で1千万円以上の収入になる。
 旭化成ホームズでは家の一部を貸家にする賃貸併用住宅の受注が伸びている。2009年度に225棟だった受注が12年度は約500棟に膨らむ見通し。「賃料を老後の資金対策と考える人が増えている」
 引き渡しが間近に迫った祖父江陽子さん(73)の東京都内の新居は3階建て。1階は長男家族との二世帯住宅。2、3階の8部屋を貸し出す。建て替え費用は長男と30年のローンを組んだが、賃貸部分が埋まれば月15万円が手元に残る。
 「稼ぐ我が家」のニーズが膨らむのは長生きに伴うリスクへの危機感が高まっているからだ。
 65歳の高齢者があと何年生きるかを示す平均余命は男性19年、女性が24年(11年時点)。フィデリティ退職・投資教育研究所の調査では60~65歳の経済的不安のトップは「長生きで生活資金が足りなくなる」こと。
 公的年金の先細りは確実。長生きのリスクを見据え、退職金などまとまったお金を計画的に管理しようという動きも強まる。
 三菱UFJ信託銀行の「ずっと安心信託」はいわば公的年金に上乗せする「自分年金」だ。利回りは定期預金並みだが、元本保証型で自分で決めた金額を最大30年間定期的に受け取れる。

働く場を提供

 3月の発売から8カ月で契約件数が4300件を超え、残高は270億円に達した。低金利で財産運用への期待が縮むなか、「長期的に安心できる資金管理をしてほしいという要望が強い」。10月には最低預入金額を当初の500万円から200万円に引き下げた。
 高齢化率40%。65歳以上の割合で50年後の日本を先取りする人口6千人の街がある。
 東京五輪のあった1964年に入居が始まった千葉県柏市の豊四季台団地。建て替えを機に柏市と東京大学、都市再生機構(UR)が働く場や在宅医療サービスを一体で提供し、超高齢化社会でもシニアが安心して住める街づくりが進む。
 団地には13年度末までに子育て支援施設や在宅医療・介護の拠点、高齢者向け住宅が入る施設を建設。同時に近隣に住むシニアにも働ける場所を設け、自立した生活のための就労を支援する。
 この団地に約20年住む武田節子さん(70)は週4回、団地内の特別養護老人ホームで働く。11年10月の開所時に募集があり、手を挙げた。「入居者の方と話をするのが楽しみ。できる限り働き続けたい」と話す。
 老人ホームのほかにも近くの農園で研修生として働いたり、海外勤務を経験した人が塾で英語を教えたり。すでに百数十人のシニアがこのプロジェクトのもとで働く。
 消費のけん引役となったシニア。生きがいを持ち、安心して老いていける環境がなければ、その活力は保てない。