2005.08.07  合羽橋 なってるハウス   報告者 K.T.

出演  渡辺勝(vo.g.pf.)  川下直広(Ts.)  

 下町に秋の訪れを告げる立秋の8月7日、といっても秋とは名ばかりで、むしむしむしむしと高湿の東京の8月である。高湿を制するには硬質の叙情をもってするに如くはない。そこで合羽橋なってるハウスにおもむいたのであった。またニッパチの日曜日といったら興行界ではダントツの厄日であるから、こういう日にライヴに出席して自分の存在感を誇示しようという俗な思惑がなかったといったらウソになる。
 当夜の演奏曲名は、以下のとおりである。曲名のあとには例のごとく渡辺勝の担当楽器を記しておいた。pf.はグランドピアノ、g.はガットギターである。

1.立ち止まった夏 pf.
2.夢 pf.
3.土埃 pf.
4.鉄橋 pf.
5.大寒町 pf.
6.僕の倖せ pf.
7.あなたの船 pf.
8.酒が飲みたい夜は pf.
9.いつか pf.
10.チャーリーのバー g.
11.アムステルダム g.
12.東京 g. pf.
13.白粉 pf.
14.ベアトリ姐ちゃん pf.
15.君をウーと呼ぶ g.
16.八月 pf.
17.truth pf.
18.別れ来る pf.
19.亡命 pf.

 1曲目の“立ち止まった夏”に入る前に、今回もまた映画“とどかずの町で”で使われた曲の短い演奏があった。
 “大寒町”は、作詞作曲鈴木博文の曲で、1974年に発売されたあがた森魚のLP盤“噫無情”におさめられているから、すでに作られてから30年以上が経過していることになる。“噫無情”におけるこの“大寒町”には、“最后のダンス・ステップ”の後日譚という役割が付与されているようなので、“かわいいあの娘と踊った”のはそんな遠い過去のことではなく、“あの娘”もまだそんなにフケてはいない(生きているとするならば)という印象を受けるのだが、55歳の誕生日を迎えたばかりの渡辺勝が“大寒町”をうたうと、“かわいいあの娘”も、それ相応の年齢に達しているだろうと思えてならない。喉が烈しくヴァイブレイトするマサル節の“大寒町”、絶品であった。
 “大寒町”で“あの娘のしあわせ てらしだせ”とうたったら、次はもちろん“僕の倖せ”で、それから“あなたの船”になだれ込む。この苦くも甘美な回想モード三連発には泣けた泣けた大泣きした。
 “酒が飲みたい夜は”と“いつか”は、高田渡がうたっていたうたである。高田渡のうたのカヴァーを聞いていると、シンガーの個性が際立って聞こえるのでおもしろい。渡辺勝のヴァイブレイト唱法とか、野澤享司の膠着唱法とか。
 10曲目の“チャーリーのバー”からは、ガットギターとサックスのからみに突入する。なってるハウスで渡辺勝のギターを聞くのは久しぶりだ。渡辺勝は“東京”の途中(“ゆれるロウソク”)までギターを弾いて、そのあとさっとピアノに切り替えた。
 “ベアトリ姐ちゃん”のイントロでは、今回もまた川下直広が珍妙なフレーズを吹き、会場が一瞬なごんだ。どうやら確信犯らしい。しっかりウケをねらって吹いているものと思われる。



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