2005.07.06  合羽橋 なってるハウス   報告者 K.T.

出演  渡辺勝(vo.pf.)  川下直広(Ts.)  

 下町に夏を告げる浅草の三社祭が終わったのでもう下町は夏なのだと思って油断していたら今度は下町に夏を告げる入谷鬼子母神の朝顔市がはじまったという。そして今回の渡辺勝 with 川下直広なってるハウス月例ライヴもゲストなしでたっぷりやるというふれこみなので、東京郊外の住人ではあってもふつふつと血が騒ぎ、JR鶯谷駅から朝顔市の雑踏を突き抜け、しこたま夏を告げられた体でなってるハウスにころがりこんだ。これでもう下町はどこからも文句をつけられることのない正真正銘の夏であると素人目にはそう見えるのだが、こういうことは念には念を入れておくものらしく、朝顔市が終わるとその翌日には下町に夏を告げる浅草寺のほおずき市がはじまり、さらには下町に夏を告げる隅田川の川開きなどの行事がメジロ押しだそうである。 
 当夜の演奏曲名は、以下のとおりである。曲名のあとには渡辺勝の担当楽器を記すのが通例だが、今回も6月20日のライヴに続いて全曲ピアノを使用したため、記載は省略する。また、川下直広はすべての曲でTs.を吹いた。

1.闇に浮かんだ50の音
2.土埃
3.鉄橋
4.OLD FRIEND
5.少年少女のブルース
6.赤い自転車
7.夏のスケッチブック
8.夏の終りのラプソディー
9.あなたの船
10.僕の倖せ
11.アムステルダム
12.東京
13.白粉
14.ベアトリ姐ちゃん
15.君をウーと呼ぶ
16.八月
17.truth
18.友よ (川下直広 solo)
19.亡命

 1曲目の“闇に浮かんだ50の音”に入る前に、今回もまた映画“とどかずの町で”で使われた曲の短い演奏があった。
 7曲目の“夏のスケッチブック”から、“夏の終りのラプソディー”、“あなたの船”と続く三曲は、なってるハウスに夏を告げる堂々の夏物三連発であった。とはいえ、この三曲は、とちぎポップ資料館篇の“マサル歳時記”ではいずれも“晩夏”の部に分類されている。したがって夏の終りを告げる夏物一掃クリアランスに一気に突入したという空気もただよった。これはフライングではないかという気もしないではないが、いずれも湿度の高い曲であるから、高温多湿の梅雨末期にも適合しているようで、聞いていてべたべたと心地よい肌ざわりであった。
 “ベアトリ姐ちゃん”のイントロでは、川下直広が珍妙なフレーズを吹き、会場が一瞬なごんだ。
 “友よ”は川下直広のソロで演奏された。2003年にしばしば演奏された曲である。川下直広の“友よ”は、2003年に発売された off note の2枚組CD“GLOBE IN THE BOTTLE”(off note/on-45)に収められている。
 “友よ”の最後の音がまだかすかに響いている中で、ピアノがぽつりぽつりと鳴りはじめて、“亡命”に移って行った。この動から静への展開の妙には息をのむばかりであった。“亡命”のすばらしさについては改めて述べるまでもないだろう。
 前回6月20日のライヴでは、渡辺勝のピアノのタッチがやたらと丁寧で、これは新境地か、はたまた竹田裕美子調か、などと考えさせられてしまった。そして今回もまた繊細なタッチではじまったので、その流れでずっと行くのかと思ったら、後半に入って、パワー全開低音部ガンガン弾きまくり状態に突入している。自分の安易な予測が外れるのはたまらなくキモチいい。枠にはめようとしてもムダだということに、いまさらながら気づかされる。自己模倣に安住しているミュージシャンのライヴでは味わうことのできないスリリングな演奏を、ヒイヒイいいながら堪能しまくった一夜であった。



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