2005.06.20 合羽橋 なってるハウス 報告者 K.T.
出演 渡辺勝(vo.pf.) 川下直広(Ts.)
今回の渡辺勝 with 川下直広なってるハウス月例ライヴはゲストなしでたっぷりやるらしいという話を聞いて、行く気になった。べたべたと蒸し暑く、熱帯夜みたいな晩で、空にはぼやけた
grapefruit moon が出ていてライヴ気分を盛り上げている。例のごとく鶯谷駅からふらふら歩いて、なってるハウスの二重ドアを通り抜けたところで、ぴたっ、と、足、が、とまった。これまでは三ノ輪の浄閑寺のほうを向いていた客席の椅子が90度向きを変えて、浅草は金龍山浅草寺のほうを向いている。いろいろと問題をかかえた脳であるから、想定外の出来事にはうまく対応することができない。坐る席を決めるのに脳がはなはだ疲弊してしまった。ピアノの位置は以前と同じだが、これまでは浄閑寺を背にサックスを吹いていた川下直広が、今度は浅草寺を背負ってサックスを吹くことになったわけで、その肩の先には浅草寺の五重塔が見える。この90度の回転に体が対応しないうちにライヴがはじまってしまった。
当夜の演奏曲名は、以下のとおりである。曲名のあとには渡辺勝の担当楽器を記すのが通例だが、今回は全曲ピアノを使用したため、記載は省略する。また、川下直広はすべての曲でTs.を吹いた。
1.立ち止まった夏
2.夢
3.OLD FRIEND
4.鉄橋
5.夏のスケッチブック
6.アムステルダム
7.土埃
8.赤い自転車
9.窓の外は
10.ベアトリ姐ちゃん
11.君をウーと呼ぶ
12.道草
13.白粉
14.花嫁御寮
15.僕の倖せ
16.八月
17.別れ来る
18.東京
19.truth
1曲目の“立ち止まった夏”に入る前に2分ほどのピアノの独奏があった。OLD TIMES BRASS BAND によれば、これは映画“とどかずの町で”で使われた曲だということである。曲名はわからない。今回のライヴでは、キイのタッチがやたらと丁寧で、ピアノの奏法も枯淡の境地に数歩近づいたような印象を受けた。
“赤い自転車”は、イントロを聞いて“砂とシャベルの日々”だと思い、メモ用紙に“砂”と書いたら、“孤独な森を走るよ”ときたので、あわてて“砂”の字を消した。ピアノを弾きながらゆったりとうたう“赤い自転車”なんて聞いたことがない。稲生座で演奏される“赤い自転車”よりも2,3分長かったのではないか。終演後にうかがったら、この曲をピアノでうたうのは今回がはじめて、とのことであった。このドライヴしない“赤い自転車”も、また味わい深いものであった。
“窓の外は”の、“き〜み〜の〜む〜ね〜に〜”と1音節ごとに音が上がっていくところがキモチいい。ここはちょっと胸に迫るところでもある。
“ベアトリ姐ちゃん”に川下直広のサックスがからむと、猥雑感が増して、いよいよいかがわしくなる。
ピアノを弾きながらの“君をウーと呼ぶ”は、ギターのときよりもおさえ気味で、後半に入っても一歩引いているような印象である。いつもよりおとなしい死霊が憑依したみたいな感じだ。
“花嫁御寮”の間奏部分は、川下直広のサックスの聞かせどころである。今回もたっぷり聞かせていただいてヒイヒイいわせていただいたのであった。
さて、次回のなってるハウス月例ライヴは7月6日、ということは、入谷鬼子母神の朝顔市の初日ではないか。これはえらいことである。