2004.12.22  青山 月見ル君想フ   報告者 K.T.

出演  モノノフルーツ(Opening Act)  アーリータイムスストリングスバンド  マーガレットズロース   

 アーリータイムスストリングスバンドの5人(渡辺勝、竹田裕美子、村上律、松田幸一、今井忍)そろってのライヴということなので、千駄ヶ谷の現場の仕事を終えた後、寒風吹きすさぶ外苑西通りをトボトボ歩いて、青山まで行ったのだった。本日はオールスタンディングであると入口のところに記してあったが、うしろの壁際のミキサー卓の並びに6人ほど坐れるところがあり、そこの座席を確保する。なにしろ年寄りじゃけん、ステージがろくに見えなくても坐っていたいのじゃ。アーリーのライヴは1997年7月5日に吉祥寺のマンダラ2で聞いたのが最初で、今回が2回目である。出席率は良いほうではない。しかしこの“月見ル君想フ”という店名には言葉を失ってしまった。意味がわからない、というか、いろんな意味に取ることが可能なので、脳がパニックを起こしそうになる。それに歴史的かなづかいが用いられていることについてはそのことに必然性が感じられず、どうにも始末に困るということになった。今世紀はこういうキモチ悪いものがはやるのだろうか。あるいはそのうちに“君想ヒ唄ハウ”とか“君ヲうート呼ブ”などという名前の店ができるのかもしれない。今ノウチカラ覚悟シテオイタハウガヨササウダ。
 この日のアーリーの演奏曲名は以下のとおりである。担当楽器についてはチェックしきれなかった。例のごとくとっかえひっかえ種々の楽器を使用していたと述べるにとどめておく。

1.鐘が鳴る丘待ちぼうけ
2.雨
3.キングコング
4.僕のメリールー
5.あなたの船
6.僕の家
7.花から人へ 人から花へ
8.灼熱砂漠
 
●アンコール●
9.ライオンは寝ている

 “鐘が鳴る丘待ちぼうけ”は渡辺勝がヴォーカルを担当した。その歌声が流れると、ざわついていた店内がとたんに静かになった。声の力畏るべし。しかし1曲目にこの曲というのはもったいないような気もする。ところで、この曲は渡辺勝のふだんのライヴでは聞いたことがない。ひょっとしたらアーリーの時だけに限定してご開帳してくださる曲なのかもしれない。村上律のバンジョーや竹田裕美子のピアノ(特に4分の3拍子のところ)があってはじめて成立するということも考えられる。なお、渡辺勝はガットギターを弾きながら歌った。
 “あなたの船”は竹田裕美子がヴォーカルを担当した。渡辺勝はキーボード担当であった。この曲はもともとは竹田裕美子が歌うことを想定して作られたものなので、これが本家本元の“あなたの船”なのである。竹田裕美子のヴォーカルは、愛憎執着心といったナマの感情が削ぎ落とされて、物狂いの境地に入っているように聞こえる。これもまた絶品である。控え目に入る村上律のラップスチールギターと松田幸一のハーモニカは、熟練の技でしっかりとヴォーカルを引き立てていた。
 “僕の家”は、アーリーのシングル盤では今井忍が歌っているが、今回は渡辺勝がガットギターを弾きながら歌う。この曲は渡辺勝のふだんのライヴでもしばしば歌われる。しかしアーリーだと、“すてたも〜のなど なんに〜もな〜い〜”というところで竹田裕美子のコーラスが重なるのである。このハーモニーの美しさには落涙を禁じ得なかった。
 “灼熱砂漠”や“ライオンは寝ている”は、祝祭的雰囲気に満ちた演奏であった。しかし、底抜けに明るいように聞こえても、どこか寂しいのである。明るくにぎやかに葬列を見送って演奏している、といった印象を受けた。この演奏には、すぐ近くの青山霊園に眠る数多くの霊も慰められたにちがいない。



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