2004.09.12  合羽橋 なってるハウス   報告者 K.T.(聴覚はほぼ正常)

出演  渡辺勝(vo.pf.)  竹岡隆(Eb.)   

 今月の渡辺勝のなってるハウスにおけるライヴは、エレクトリック・フレットレス・ベースの名手、竹岡隆とのデュオであった。このデュオは稲生座では数多くのライヴを重ねてきているが、ここなってるハウスには初登場ということである。ただし、稲生座ではピアノを弾かずにもっぱらギターを弾きながら歌う渡辺勝が、今回は逆にギターを弾かずにもっぱらピアノを弾きながら歌うという趣向なので、客席を埋めつくした聴衆は、いったいどういうことになるのやら、と固唾をのんで開演を待ちつつ柿ピーをポリポリかじっていたのであった。しかし固唾をのみながら柿ピーをかじるのはなかなかむずかしいよ。
 20時を10分ほど過ぎたあたりで渡辺勝はピアノの前に坐り、竹岡隆はステージ中央でベースを抱えた。この位置関係だと、メインの奏者は竹岡隆のように見える。竹岡隆のまわりがいやにだだっ広く感じられる。稲生座における竹岡隆のポジションはステージ上手の雑然とした得体の知れないモノの中にあって、えらく窮屈そうなところにはまりこんでいるなあという印象を見る者に与えるのであるが、ここではまわりには何もないのだ。道もなくて、誰もいなくて、菜の花だって咲いていない。なんだか不安な感じがただよってしまう。この日の演奏曲名は以下のとおりである。

1.冬の朝
2.夢
3.土埃
4.夕暮れ ふたりが 残る道
5.道草
6.舞台
7.草原情歌
8.ラスト・ヴァージン
9.アムステルダム
10.東京
11.夏の終りのラプソディー
12.夏のスケッチブック
13.あなたの船
14.旅する亀
15.花嫁御寮
16.僕の家
17.白粉
18.八月
19.truth
20.亡命

 竹岡隆のベースがフレットレスの威力を最大限に発揮し、うねうねとのびやかにうねりまくる曲はなんだろう、と記憶をさぐってみると、“赤い自転車”、“君をウーと呼ぶ(特に後半)”、“八月”、といった曲名が浮かんでくる。これらの曲では渡辺勝はいずれもガット・ギターをコード・ストロークで弾いていた。渡辺勝のコード・ストロークに竹岡隆のうねうねベースがからむというこのスタイルは、すでに確立しているといっていいだろう。しかし相手がピアノということになると、ベースは不利なのではないか。しかも今回は渡辺勝のヴォーカルがまことにキモチよく伸び、ピアノもガンガン弾きまくりで、低音部だって遠慮せずにキーを叩いていたから、竹岡隆苦戦という印象は否めなかったように思う。また後半に入ると、渡辺勝はさらに調子を上げ、一曲一曲の迫力がすさまじいものになった。こうなるともう渡辺勝のソロのようになってしまう。あるいは竹岡隆に対して、スキをみてかかって来い、この火を飛び越えて来い、とサディスティックに挑発していたと考えられなくもないが。しかしいずれにせよ、竹岡隆のベースが醸し出すのびやかさはちょっと伝わりにくい編成であるなあというのが正直な感想である。
 



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