2003.10.27  江古田 BUDDY   報告者 K.T.

出演  第1部 ひがしのひとし 船戸博史 三上ゆうへい 小暮はな
     第2部 エミグラント(渡辺勝/イマイアキノブ/川下直広/関島岳郎/船戸博史/中尾勘二/松村孝之)   

 第1部は、ひがしのひとしを中心にしたユニットの演奏であった。当日は聴覚の状態がいいほう(音がほとんどダブらない)の日だったが、ひがしのひとしの歌は、ほとんど脳の中に入ってこなかった。神経系統にまだ問題があるのかもしれない。それでも、第1部の途中で若い“うたうたい”の三上ゆうへいと小暮はなが、それぞれソロでギター弾き語りで歌った際には、小暮はなの歌のほうに、脳がいささか反応を示している。特に、関島岳郎のチューバが伴奏に入った2曲めの“海のまんなか”(こんなタイトルだったと思う)は、ことばと声とメロディーが渾然となって脳の中に届き、それで気がついてみれば幸福感にひたっていたのだった。1時間20分ほど続いた第1部の中で特筆すべきことといったらこれくらいであろう。

 第2部のエミグラントは、約1時間という短い時間ではあったが、濃厚な演奏を展開した。当日のメンバーは、以下に記す7名であった。

 渡辺勝(vocal,piano)
 イマイアキノブ(vocal,electric guitar,acoustic guitar)
 川下直広(tenor saxophone)
 関島岳郎(tuba,recorder)
 船戸博史(contrabass)
 中尾勘二(drums)
 松村孝之(percussion)

 演奏曲目は下記の通りである。“ハレルヤ”と“石の花”ではイマイアキノブが vocal を担当した。それ以外の曲では、渡辺勝が vocal を担当した。

1.朝顔
2.夢
3.アムステルダム
4.東京
5.道草
6.ハレルヤ
7.石の花
8.砂とシャベルの日々
9.truth
10.白粉
11.八月

 1曲めは、“立ち止まった夏”でも“冬の朝”でもなくて、“朝顔”だった。ピアノだけで静かにはじまり、そのうちにそれぞれの楽器が音を重ねていって、しだいに烈しさを加えるヴォーカルをしっかりと支えつつ、クセのあるフレーズをぶつけあって、パワー全開の終局を迎える。第1部にくらべると、かなり音圧が高くなっている。次の日の朝に聴力検査をひかえている病身ゆえ、ここでかねてから用意しておいた耳栓を両耳に詰め込むことになる。なお、この“朝顔”は早川義夫の曲で、1969年の早川義夫のLP“かっこいいことはなんてかっこ惡いんだろう”(URCレコード/URL-1011)に収められている。渡辺勝は、この曲を2003年に“UNDERGROUND RECYCLE”(off note/on-44)でリサイクルしている。
 3曲めの“アムステルダム”と4曲めの“東京”でも、渡辺勝はギターを弾かず、ピアノを弾きながら歌った。これは10月17日のなってるハウスのライヴの時と同じで、おそらく江古田でもこうなるであろうと推測していたとおりであった、などといって威張るほどのことではあるまい。
 6曲めの“ハレルヤ”は、off note の2003年の問題作“GLOBE IN THE BOTTLE”(off note/on-45)に収められている Leonard Cohen の曲で、CD盤と同様イマイアキノブがヴォーカルをとった。佳曲である。語りからそのまま歌に移っていく絶妙の呼吸には、節談説教や浪花節を思わせるものがあり、聞いていて快感をおぼえた。
 7曲めの“石の花”は、イマイアキノブのオリジナル。これもイマイアキノブがヴォーカルをとった。CD盤では、2000年に発売されたイマイアキノブのソロ・アルバム“ノゾキカラクリ”(MIDI Creative/CXCA-1059)に収められている。
 9曲めの“truth”では、イマイアキノブがボトルネックを用いて electric guitar を弾くという荒技を繰り出した。エフェクターを通ってグニグニに歪んだその音は例えようもなくノイジーで美しい。曲の終盤で渡辺勝のエモーションが高まるとともに、ギターも炸裂し暴発し、ステージ上に大輪の打ち上げ花火が連続して花開くといった観を呈した。この演奏を聞いたら、鬼神も泣かずにはいられないであろう。

付記
翌10月28日の十条の帝大病院における聴力検査の結果は、低下していた左耳の低音域の聴力がほとんど正常値に戻ったため、あらゆる音域において聴力は正常値を示しているということであった。これはひとえにすぐれた音楽の功徳である。off note の神谷社長をはじめ、関係者の皆皆様に、心より御礼申し上ぐる次第にて候。



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