2003.03.14  合羽橋 なってるハウス   報告者 K.T.

出演  渡辺勝(vo.g.pf.)  川下直広(Ts.)

 合羽橋なってるハウスの3月13日のライヴは、三上寛がヴォーカルと轟音セミアコギター、それに渡辺勝がエレキギターとピアノ、川下直広がテナーサックスとソプラノサックスで加わるという豪華版で、モウヤメテクダサイヨオなんていいながらヒイヒイ喜んで轟音にひたっていたのである。もちろん轟音ばかりではない。なんてすさまじい歌詞なんだろう。一語一語を拾い上げてみれば、特に物珍しい語彙を使っているわけではない。ところがそれらの言葉が統合されて歌詞となり、激情を付与されて三上寛の咽喉から飛び出してくると、聞き手の脳の中にボコボコと鮮烈なイメージが浮かび上がる。これはたまらない快感である。三上寛の詞には感情の核をつきうごかす力がある。そして渡辺勝の作る歌詞にも魂を震撼させられることがしばしばあるが、こちらはいったいどういう力のはたらきによるものなのかな、などと考えながら、次の日もなってるハウスに足を運んだ。
 その3月14日のライヴの演奏曲名は、以下のとおりである。曲名のあとに、渡辺勝の担当楽器を記しておいた。pf.はグランドピアノ、g.はガットギターである。川下直広は、すべての曲でTs.を吹いた。

1.冬の朝 pf.
2.夢 pf.
3.土埃 pf.
4.君をウーと呼ぶ g.
5.OLD FRIEND g.
6.さくらんぼの実る頃 pf.
7.春三月 pf.
8.道草 pf.
9.僕の倖せ pf.
10.チャーリーのバー g.
11.東京 g.
12.アムステルダム g.
13.花嫁御寮 pf.
14.帰り道 pf.
15.草原情歌 pf.
16.白粉 pf.
17.いつも一緒に g.
18.八月 pf.
19.逢いみての pf.
20.truth pf.
21.別れ来る pf.
22.斜岩病院(エンディングテーマ) g.

 20時過ぎに始まって、22時少し前までの、2時間近くの演奏であった。前夜に三上寛がまきちらしていった音のかけらがまだいくらか残っていたのだろうか、このデュオではおさえ気味に吹くことの多い川下直広が最初からパワー全開で吹きまくり、渡辺勝は激しくキーを叩く。二人のテンションの高さ、これは尋常ではない。
 SIL,BALLAD UNIT ではおなじみの“春三月”は、渡辺勝がピアノを弾きながら歌うと、またいちだんとゆったりしたテンポになり、激しさを秘めた静けさに身をゆだねる心地よさは、この世のものとは思われない。甘美な毒酒が全身にまわって、ただ陶然とするばかりである。
 千年以上も前の短歌がオリジナルである“逢いみての”から、“truth”へと連続して歌われると、“truth”の説得力もさらに増すように思われる。俗世間においては“女々しい”の一言で切り捨てられてもしかたがないような感情でも、これだけリアルに表現されると、こちらのほうにこそ真実があるのだと確信してしまう。ふたつの歌の力、時空を超えてみごとに響きあった。


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