2002.12.17 合羽橋 なってるハウス 報告者 K.T.
出演 渡辺勝(vo.g.pf.) 川下直広(Ts.)
12月17日は浅草寺の羽子板市だという話を聞いて、ライヴの前に行くつもりでいたのだが、このところ諸事ことごとくはかどらず、ぐずぐずしているうちに日が暮れてしまい、羽子板市は断念した。残念なれど、周縁事態の本意は下町観光案内ではないのだからと自分に言い聞かせて、合羽橋なってるハウスに直行する。
開演前のなってるハウスの店内には、怪しげな音楽が流れていた。三弦の響きにブラス隊がからんでヘンなリズムを刻んでいる。ノコギリの音がうらめしげにクネクネ悶えている。ブンブンと鳴るTubaが関島岳郎だということはすぐにわかった。それならvo.は大工哲弘だ、というわけで、それはやはり大工哲弘のうわさの2枚組CD“蓬莱行”(off
note ON-43 2003年)なのであった。沖縄では先行発売されていて、本土では来年2月に発売される予定なのだそうである。“琉米親善の唄”“一坪たりとも渡すまい”“標準語励行の唄”などといった、タイトルだけでもクラクラする唄に続いて、“国民の煙草
新生”に大脱力してしまう。関節が外れそうになる。そしてとどめをさされたのは、橿渕哲郎の訳詞による“トラベシア”であった。ムーンライダーズやアート・ポートの演奏でおなじみの例のあの曲だが、三弦入り女声ユニゾンコーラス隊入りのウチナーテイストアレンジ(アレンジ担当渡辺勝)に乗って大工哲弘がこぶしを自在にまわして歌うのである。その歌唱に全身の筋力がスカッと抜け落ちた。それで、たちまち呼吸困難となり、食べかけの柿ピーがのどにつかえて、絶息寸前、あぶないところであった。
当夜のライヴの演奏曲名は、以下のとおりである。曲名のあとに、渡辺勝の担当楽器を記しておいた。pf.はグランドピアノ、g.はガットギターである。川下直広は、今回はステージ上にSs.を用意していたものの、結局すべての曲でTs.を吹いた。
1.冬の朝 pf.
2.夢 pf.
3.土埃 pf.
4.アムステルダム g.
5.東京 g.
6.さくらんぼの実る頃 pf.
7.僕の倖せ pf.
8.チャーリーのバー g.
9.星が生まれたよ g.
10.帰り道 pf.
11.道草 pf.
12.truth pf.
13.埋葬 pf.
14.君をウーと呼ぶ g.
15.白粉 pf.
16.いつも一緒に g.
17.八月 pf.
18.斜岩病院(エンディングテーマ) g.
19.花嫁御寮 pf.
20.別れ来る pf.
“埋葬”は早川義夫のURC盤“かっこいいことはなんてかっこ惡いんだろう”におさめられている曲。この曲で渡辺勝がピアノの低音域のkeyをガンガン叩いた結果、弦が1本ジャラーンとブチ切れた。
“花嫁御寮”は渡辺勝の新曲で、今回が初演だということであった。佳曲である。一語一語のイメージは鮮烈でありながら、全体を通して聞くと漠としていてなんだかよくわからなくて、それでも確実に伝わってくるものがある、という印象の曲。情景が断片的に目に浮かぶ。長いストーリーがあって、その果てにようやくたどりついたところから歌っているといったような感じで、映画のラスト近くあたりの味わいがある。このあたりのおもむきは“SIL,BALLAD”や“COTT,BALLAD”の中のいくつかの曲にも共通していると思う。
川下直広は曲間のつなぎのフレーズがいよいよ冴えに冴えて、こわいくらいであった。この二人のデュオ、絶品である。また聞きに行きたい。