2002.12.06 高円寺 稲生座 報告者 K.T.
出演 渡辺勝(vo.g.) 竹岡隆(Eb.)
高円寺北口の稲生座に行くときには、赤羽から出ている高円寺行きのKKKバス(ぶっそうな名前である)に乗って環七の渋滞の中をのろのろと移動するのが通例であるが、今回は午後立川に行く用事があったので、その帰りに高円寺に寄ることにした。それでKKKバスには乗れなかった。
立川から中央線で高円寺に行く途中、吉祥寺で下りる。下りた勢いで、東急百貨店の前にある Planet K というライブハウスに行って、年末の27日に開かれる“喫茶ロック 吉祥寺ミーティング”というイベントの前売券を買ってしまった。これに野澤享司が出演するのである。整理番号は00001番であった。金2,200円也。Planet K の発券所にも、酉の市の熊手が取りつけてあった。郊外にもおとりさま信仰が蔓延しているらしい。ほほえましい傾向であるといえよう。
吉祥寺からは、中央線の電車にくらべると圧倒的に空いている地下鉄東西線の電車に乗って高円寺まで行く。
稲生座のステージ上にはアップライトピアノが鎮座しているが、渡辺勝はそれは使用せず、すべての曲でガットギターを使用した。竹岡隆のエレクトリックベースはフレットレスで、さりげなくうねりをきかせる渋いプレイを聞かせてくれた。当夜の演奏曲名は、以下のとおりである。
1.立ち止まった夏
2.OLD FRIEND
3.あの頃
4.君と空と道と僕と
5.赤い自転車
6.帰り道
7.truth
8.巨大な屍
9.アムステルダム
10.東京
11.夕焼地帯
12.Long Long Ago
13.冬のバラ
14.春三月
15.道草
16.君をウーと呼ぶ
17.草原情歌
18.白粉
19.八月
20.別れ来る
21.斜岩病院(エンディングテーマ)
■アンコール■
22.夜は静か通り静か
休憩なしで全22曲、曲間ではメガネを外し、汗をふきながらの熱演であった。
“OLD FRIEND”は、エンディングに入ると Joni Mitchell の“Coyote”のようになってしまった。こうなるとベースはフレットレスでなければいかんという感じになる。
“アムステルダム”は、このところよく歌われるこわい曲である。渡辺勝が歌ってるのではなくて、何物かが取り憑いて渡辺勝に歌わせているのではないかとも思われる。突然説経浄瑠璃みたいな節に変わって声が地の底から聞こえてくるような箇所に遭遇すると、ぞくぞく寒気がしてくる。
“夕焼地帯”は、休みの国(高橋照幸)の曲で、サビ抜きバージョンだそうである。休みの国のアルバム“トーチカ”におさめられている曲ではないかと思われるが、残念ながらその盤は未聴。
“冬のバラ”は、11月9日に宇都宮の Melody House におけるクラスメイトライヴでも歌われた、かしぶち哲郎の曲(1983年に発表された、かしぶち哲郎のソロアルバム“リラのホテル”におさめられている)と同じタイトルではあるがまったく別の曲で、渡辺勝のオリジナル。1994年のアルバム“FADELES
S”におさめられている。“FADELES S”では Instrumental であったが、今回は唄入りで演奏された。清冽な印象の佳曲である。
“春三月”は、泉鏡花でいうたら『春晝』だろうか。うらうらとのどかにおそろしい。
“八月”も、このところのライヴではラスト近くの定番となっているリキの入った曲である。原子爆弾でも落ちてきそうなぽかんと青い空の下、美しい少女が庭で遊んでいるという情景は、この世のものとは思われない。聞けば聞くほど不安感がつのるおそろしい曲である。
稲生座は、2月の野澤享司のライヴ以来しばらくごぶさたしていた。今回再訪してみて、能書きどおり娯楽の殿堂というべきか、はたまた奈落の伏魔殿というべきか、改めて判断に苦しんでいる。こんな怪しげなスペースがレンタルビデオ店の2階にのっかっているということ自体すでに異常である。なってるハウスのある合羽橋は、あたり一帯の土地の霊気がゾクゾクとこわいが、稲生座は店の空間の霊気がこわい。こわい所でこわい歌を聞く。なんて贅沢なことをしているんだろうと思う。
●付記●
休みの国の“トーチカ”は、2003年1月にCD盤を入手した。“夕焼地帯”を聞いてみると、たしかにサビの部分は幾分だれるような感じがする。そういう単純な理由で、サビ抜きを支持することをここに表明するものである。