2005.06.04 青山 音楽室 報告者 K.T.
出演 野澤享司
午後3時を過ぎたあたりから例のごとく外が暗くなり、東京は烈しい雨と雷に見舞われた。これは運動会の日の朝に花火をどかんどかんと鳴らすようなものであるから、いよいよ野澤享司のライヴがはじまるぞぉ、という気分が盛り上がればそれでいいのである。雷雨は午後7時過ぎにはおさまった。
今回のライヴで野澤享司が使用したギターは、常用のマーティンと、ライヴでは本邦初弾でありもちろん全宇宙初弾というサカタ(ヘッドには“Sakata”と記してあった)の2本であった。サカタのギターというのは、このところ毎年野澤享司ライヴが挙行されている甲府の“HARPER'S
MILL”のマスター坂田ひさし氏が作成した逸品だということであった。今回野澤享司がマーティンを使用した曲には*印を附しておいた。無印の曲ではサカタを使用している。
1.万川集海*
2.悲しみは Blues で
3.Over The Rainbow
4.Whiskey River Blues
5.夕暮れ
6.大地の鼓動*
7.上を向いて歩こう
◆中入り◆
8.明日への航海*
9.君想い唄おう
10.夢の続きでも
11.Everybody need Somebody Everybody love Somebody
12.セントトーマスから胎内回帰への旅
13.アルバートが唄ってる 2005
14.アコースティックなリズム&ブルース
15.Come Together 〜 それでも Lucy は空に*
16.迷走*
17.遥かな海へ
■アンコール■
18.Fender Bender Locomotion*
19.Whistle Blues
“夕暮れ”はこの4月に亡くなった高田渡のうた(詞 黒田三郎)である。ぼそぼそとつぶやくようにうたう高田渡の枯れたおもむきにくらべると、野澤享司はコブシがまわってべたべたとしていて、これは膠着唱法であるなあと思わせるうたいぶりであった。ニホン語は膠着語であるからもちろん野澤流でいいわけだし、こんなところで高田渡のモノマネをやってもしかたがないのだからこれで別に問題はない。野澤享司のオリジナル曲を聞くときには意識させられなかった野澤享司の膠着唱法に気づかされたというだけのことであった。しかしそうすると高田渡は屈折唱法ということになるのか。あるいは孤立唱法ということになるのだろうか。
“アルバートが唄ってる”は、新ヴァージョンになるたびに説明が過剰になる稀有な曲である。
今回のライヴは大入り満員で、聴衆の反応もよく、野澤享司は気合の入った演奏を展開したように思われる。アンコール曲“Fender
Bender Locomotion”では、客席から自然発生的に手拍子が起こり、これはいったいどういうことになるのだろうかと先行きを危ぶんではらはらしたが、その手拍子もすぐにフェイド・アウトして事無きを得た。自らを知るよき聴衆に恵まれたよいライヴであったということであろう。