2005.04.02  青山 音楽室   報告者 K.T.

出演  野澤享司

 六本木の音楽室が青山に移転して、2回目の野澤享司のライヴであった。青山というからには港区にあるのかと思っていたら、そうではなくて音楽室は渋谷区にある。このあたりの地理には疎いので、青山と渋谷の境界線というのがわからない。渋谷の音楽室、といってもいいような気がするが、お店の側が青山だといっているのだから、それに従っておけばいいのだと思う。渋谷と青山の双方が音楽室の領有権を主張して、外交問題に発展するようなことはおそらくないはずである。
 野澤享司は、ここ数年の間常用していたエピフォンのギターを今回は使用せず、そのかわりに30年以上前に購入したというチャキのギター(70年代前半に激しく弾いたために再生不能と思われるほどに波打っていた指板を最近リペアしたという逸品)を使用し、また、常用のマーティンのギターは従来どおり使用するという態勢でライヴに突入した。開演は20時30分と告知されていたが、大幅にフライングして、20時10分過ぎにはスタートしてしまった。当夜の演奏曲目は下記のとおりである。なお、マーティンを使用した曲には印を附しておいた。無印の曲ではチャキを使用している。

1.万川集海
2.I walk with my brothers & sisters
3.追放の歌
4.心安らぐ家を求めて
5.悲しみは Blues で
6.上を向いて歩こう
7.Over The Rainbow
8.Whiskey River Blues
9.大地の鼓動
10.Come Together 〜 それでも Lucy は空に
11.君想い唄おう
12.ワルチング・マチルダ
 ◆中入り◆
13.セントトーマスから胎内回帰への旅
14.アコースティックなリズム&ブルース
15.陽気な港町
16.南へ遠く
17.南へ遠く
18.迷走
19.Fender Bender Locomotion
20.時の奏でる調べ
 ■アンコール■
21.君が気がかり
22.Everyday
23.Everybody need Somebody Everybody love Somebody
24.Whistle Blues
25.大地の鼓動

 このところの野澤享司のライヴでは通例になっていることであるが、あらかじめ曲順を決めておくということをせず、その時々の判断で曲を選ぶというかたちでライヴは進行した。
 PAによって多少の相違はあるものの、総じて野澤享司の弾くエピフォンは華やかで彩り豊かな音色であるといった印象がある。それにくらべると、今回使用したチャキは、質朴な音で、写真のフィルムでいうたらモノクロームのおもむきである。渋い音色だ。
 “追放の歌”は休みの国の曲である。野澤版“追放の歌”は、かなりのロング・ヴァージョンであった。
 “心安らぐ家を求めて”は、FOR LIFEから出たLP盤、“Kyoji-Travelin'” におさめられている。近年のライヴではほとんど演奏されていないのではないだろうか。LP盤を購入してはじめてこの曲を聞いたときには、野沢享司が安住や安定や定住を志向するなんて、と思ったが、かりに心安らぐ家がみつかってそこに住みついたとしても、ただちに居心地が悪くなってぶちこわしにかかるであろうから、なんら問題はない。
 “陽気な港町”もFOR LIFE期の曲で、現時点では野沢享司の最新のEP盤(1978年5月発売)の片面におさめられている。ちなみにもう片面は“セイル・オン”である。この“陽気な港町”に描かれた港町は実在する港町ではなく、“俺達”の夢想する港町なのだから、“小麦色の娘達”や“船乗りの陽気な唄”などといったものは、“俺達”の妄想の産物にすぎない。なお内陸部から遠くの海を幻視するという構造は、後の“遥かな海へ”や“万川集海”に通ずるところがある。
 “南へ遠く”もまたFOR LIFEから発売されたEP盤におさめられている曲で、このあたりはFOR LIFE大会のような様相を呈した。16曲目が“南へ遠く”で17曲目がまた“南へ遠く”というふうに書くと、かの BOB DYLAN が“PLANET WAVES”でカマした“Forever Young”2連発のようなことを野澤享司もやったのだというふうに理解されてしまうかもしれない。しかしこの“南へ遠く”2連発は、“Forever Young”のように曲想が大きく変わるということもなく、ほぼ同じ形態で演奏された。野澤享司の語るところによると、2回目のほうがノリがよかった、のだそうである。
 アンコールはたっぷり5曲もやって、全25曲になった。ミュージック・チャージが2,500円だから、1曲あたりの単価がちょうど100円ということになる。ライヴの終了は22時50分ごろにずれこんだ。今回のライヴでは、すべての曲でこれまでとは違うことをやろうとしていたのだそうだ。こういう実験精神が強く打ち出されたライヴは、いくら長くても体力の限界の範囲内でとことんつきあいたいと思うものである。


 

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