2004.02.21 高円寺 稲生座 報告者 K.T.
出演 野澤享司 (PA担当 山本達也)
いまだ完治しない聴覚に不安をかかえながらも、とちぎポップ資料館主任学芸員としての職責もあり、高円寺は稲生座、野澤享司の2004年都内初ライヴに赴いたのである。しかしいきなり困ったことになった。高円寺にはKKKバスを駆って行くとこれまで何度も書いてきたのだが、KKKバスの前面と側面にあったKKKのロゴマークが、いつの間にやら消えているではないか。うちの近くの環七には都バスも関東バスも走っているのだから、バスの前面のKKKマークがないと識別が困難である。まちがって都バスなんかに乗ってしまうと、バスジャックでもしないかぎり高円寺の駅前までは行ってくれない。それで慎重に目をこらして、元KKKバスの国際興業株式会社のバスに乗ったのだが、KKKのロゴマークのついていない国際興業株式会社のバスは、どうやって自分を identify
するんだろう。ロッキード事件のころには、ケンジ、コダマ、カクエイの3KでKKKなのだ、なんていっていたくらいで、由緒あるロゴマークなのに、なんのあいさつもなしに(こっそりあったのかもしれないが)消してしまうとは、ほんとうになさけない。それにしても、そんな世間では問題にもならなかったことを、なさけないなさけないなんていってなげいていると、ちょっとタナカ・コミマサのニセモノになったような気分になるが、たしかホンモノのタナカ・コミマサは、晩年になって練馬に越してきて、家の近所を走るKKKバスを見たり、また実際にKKKバスに乗ったりして、KKKがアメリカの人種差別団体の略称と同じなので、なさけなく思っていたのではなかったか。KKKのロゴマークがついていてもなさけなく、消したら消したでまたなさけないといわれるようでは、しょっちゅうKKKバスに乗っている乗客としても恥ずかしい。
開場予定時刻の19時30分を10分ほど過ぎて、稲生座についたら、野澤享司はまだリハーサル中であった。リハーサルは開演予定時刻の20時を過ぎても続き、本篇は20時20分過ぎにようやくはじまった。当日の演奏曲目は以下のとおりである。
1.悲しみは Blues で
2.君想い唄おう
3.Over The Rainbow
4.それでも明日は
5.大地の鼓動
6.迷走
7.上を向いて歩こう
8.Whiskey River Blues
9.時はいつも静かに
10.Come Together 〜 それでも Lucy は空に
11.遥かな海へ
★アンコール★
12.What a Wonderful World
“悲しみは Blues で”は、ブルース・ハープを使用しないニュー・アレンジで演奏された。少し物足りないような気もしたが、いつも同じでは演奏する側としては飽きてしまうのかもしれない。それに、ブルース・ハープを持ってくるのを忘れることがあっても、このアレンジなら安心である。危機管理という観点からすれば、うなずけなくもない。
“時はいつも静かに”と“Come Together 〜 それでも Lucy は空に”では、ヴォーカルがエフェクターを通って出てきたりして、面白い効果を上げていたようだった。発病する前の聴覚で聞いていたら、どんな感じに聞こえただろうか。
ラストの曲“遥かな海へ”には、稲生座のシバタ・エミがピアノで加わり、スリリングなデュオを聞かせてくれた。また、アンコールの“What
a Wonderful World”も、この両名による演奏であった。
稲生座の終演努力目標時刻は22時である。しかし、今回のライヴは短期集中型で、時間を計っていたひとの話では、アンコールを含めて87分だったそうである。終わっても、まだ22時までには間がある。客席には不穏な空気がただよった。野澤享司も、予定していた曲でやっていないのがある、などといいだした。そういう事情で、22時を過ぎてから、客席における完全アンプラグド・ライヴがはじまった。ヴォーカルもギターもPAを通さない生音である。こんな曲が演奏された。
★おまけ★
1.南へ遠く
2.きつい廻り道
3.時の奏でる調べ
4.追放の歌
5.口ずさむララバイ
6.夢の続きでも
7.静寂
8.だりだりでぃんどん
“南へ遠く”は、シングルのみの発売(1978年1月)で、アルバム未収録曲。シングル盤は、The
Band みたいな骨太ロックにピアノとオルガンのからみが男心を泣かせるという、ミッキー吉野(カップスのライヴでは“The
Weight”をやっていたらしい)の編曲で知られるが、今回のアンプラグドでは、軽快飄逸な“南へ遠く”を聞かせてくれた。シングル盤のほうが東北本線上り上野行き各駅停車の客車(電車ではなくて)といったおもむきなのに対して、アンプラグド版は、湘南新宿ライナー国府津行き電車といったところか。雰囲気的には、“Keep
on Travelin'”にちょっと近いような印象であった。
“追放の歌”は、ちょうど1週間前にひさびさのライヴがあったばかりの休みの国の曲。この曲は、2003年9月20日の、所沢ブロックヘッズにおける、野澤享司と渡辺勝の二人による10分近くにもおよぶ長尺版の演奏が印象深い。追放されるヤツはおおぜいいるかもしれないが、昨日は俺も一緒に歌ってた、という認識に達するひとはそうはいないだろう。所沢では、追放されてわが身の不運をなげくばかりのおマヌケ野郎に対する痛烈な批判が、二人の腹の底から吐きだされているように思えたのであった。
“静寂”は“白昼夢”に収められている曲で、ライヴでははじめて聞いた。
“だりだりでぃんどん”は、生の声で聞くと、節回しや息づかいがリアルに迫ってきて、圧倒的な説得力があった。ギターのアレンジは“白昼夢”のイメージをそのまま踏襲している感じで、違和感をおぼえることなく聞けた。
おまけの演奏は思わぬ余禄であったが、やはり本篇の充実が望まれるところである。