2003.09.20  新所沢 ブロックヘッズ   報告者 K.T.

出演  野澤享司  渡辺勝   

 南の海の上で雲がぐるぐる渦を巻いて、台風になった。そのいちばん外側の雲が関東地方にかかって、東京は朝から雨が降りはじめた。しかし雨が降るのは覚悟の上だ。野澤享司のライヴのある日はこれが常態である。何のためらうことがあろうか。肌寒い雨のそぼ降る秋の夕刻、西武線の電車を駆って彩の国は埼玉県所沢市に侵入する。ブロックヘッズは、西武新宿線の新所沢駅から歩いて5分ほど、プチロード商店街という小規模商店街の中ほどに位置するお店で、特筆すべきは内装がじつに美麗であるということである。しかも入口と出口が自動ドアだ。感動した。

●第1部 野澤享司ソロ●
1.目覚めと喧噪
2.君の笑顔は
3.Keep on Travelin'
4.悲しみは Blues で
5.Over The Rainbow
6.Whiskey River Blues
7.アルバートが唄ってる 2003
8.時はいつも静かに
9.あの日のままで
10.大地の鼓動
11.Come Together 〜 それでも Lucy は空に

●第2部 渡辺勝ソロ●
1.赤い自転車
2.土埃
3.OLD FRIEND
4.東京
5.アムステルダム
6.僕の倖せ
7.あなたの船
8.白粉
9.道草
10.いつも一緒に
11.八月
12.truth

●第3部 アンダーグラウンド・リサイクル大会●
1.悩み多き者よ  渡辺勝(vocal,guitar) 野澤享司(guitar,chorus,harmonica)
2.追放の歌     野澤享司(vocal,guitar) 渡辺勝(guitar,chorus)
 
◆アンコール◆
1.遥かな海へ   野澤享司(guitar,vocal,harmonica) 渡辺勝(guitar)


 野澤享司と渡辺勝のジョイント・ライヴは、昨年8月の横浜以来ということになる。二人とももっぱらギター弾き語りというスタイルで演奏した。
 第1部は野澤享司ソロ、1曲めの“目覚めと喧噪”がはじまると、チューニングがめちゃくちゃに狂っているように聞こえたが、それは私の耳の障害によるものらしく、別に問題はないようであった。よかったよかった。野澤享司は最初からすっと自分の世界に入って行けたようで、集中力の高い演奏を聞かせてくれた。最初の3曲はMCをはさまずに疾走した。“Keep on Travelin'”の流麗なピッキングにはトロトロにとろけたぜ。途中からは例のごとく力の抜けたMCをはさみながらの進行となる。ところで、野澤享司は“アルバートが唄ってる 2003”の前説において、“最近はこういうこと(男の子の母殺し)がしょっちゅう起きて……”といった発言をあちこちのライヴで繰り返しているが、実際にそういう事件は起きているのであろうか。ここしばらくの間、報道でそのような事件に接した記憶はないのだが。報道されずに闇から闇へと葬り去られているのだとしたら、こわいことである。さて、“Come Together 〜 それでも Lucy は空に”では、私の耳の中で HAL-200X が勝手にコーラスをつけた。聴神経がおかしくなったためにこういうことになるのであるが、おもしろいような邪魔くさいような、妙なものが耳の中に住みついてしまったものだ。
 第2部は渡辺勝のソロである。声がよく伸びて、太くて艶のあるヴォーカルを聞かせてくれた。最初からぐいぐいと引き込まれてしまった。また、今回はどういう風の吹き回しかやたらとMCが入る。これにはおどろいた。なんということか。ネット上のどこかの掲示板に“土埃”の内容を曲解した書き込みがあった、などという話を聞かせてくれた。少女を殺して埋めたという殺人死体遺棄の歌と取られたらしい。なんでやろ。後半はMCなしになる。ラスト3曲には大曲3曲を並べて、聴衆を圧倒する。この力業にはいつものことながら息をのむばかりである。
 第3部は二人並んでのステージとなる。まずは斉藤哲夫の“悩み多き者よ”から。オリジナルは斉藤哲夫のURC盤などで聞いているが、生硬な言葉がごちゃごちゃと並んでいるだけの観念的風な内容空疎な歌だと思っていた。社会に順応できない自分をいとおしむ一方でその社会に甘えているという私小説的自己愛と自己憐憫がどうにも鼻について、どちらといえばきらいな歌であった。しかし、これを渡辺勝が歌うと、おかしいじゃありませんか、たいそうな説得力を示すのであった。ただし、渡辺勝が“移りゆく社会に遅れてはいけない”などと本気で考えているとはとうてい思えないので、ここに示されている説得力とは、このカヴァー・ヴァージョンがこの歌およびこの歌の作者に対する批評たり得ていることによる。渡辺勝版の“悩み多き者よ”を聞くたびに、移りゆく社会に遅れてはいけないなどという強迫観念に脅かされる必要はさらさらないということを教えられるのだ。今回は、それに野澤享司のギターと渋いコーラス、それにブルージーなハーモニカがからみついて、この世のものとは思われないような凄絶な演奏となった。このハーモニカ、ヴォーカルにかぶさるのにちっともうるさくない。これは歴史的名演ではないかと思ったほどである。そして、休みの国の“追放の歌”に入る。オリジナルにくらべると、テンポが極端にゆったりしている。はじめのうちは野澤享司のヴォーカルで進んで行って、途中から渡辺勝のコーラスが入り、さらには二人の掛け合いになるのだが、このあたりも背筋ゾクゾク鳥肌ものの名演で、いつまでも続いてほしいと願いながら息を止めて聞き入っていた。




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