2003.06.29  高円寺 稲生座   報告者 K.T.

出演  野澤享司

 梅雨のさなかの野澤享司稲生座ライヴということになれば、誰が考えても降水確率100%である。ところが、当日は曇り空で気温が高く、湿度もべたべたに高かったもののいっこうに降る気配はなく、それどころか夕刻には晴れ間も見えてくるという不穏な天候であった。そのため、備えあれば憂いなし、という先人の教えを忠実に守り、折りたたみ傘をふところに忍ばせ、まだ明るさの残る中、KKKバスを駆って高円寺におもむく。日曜日の環七はがらがらに空いていて、バスは推定時速50マイルで突っ走った。
 稲生座は、出足は遅かったが、開演前にはほぼ客席が埋まる盛況であった。当日の演奏曲目は以下のとおりである。

1.万川集海
2.I walk with my brothers & sisters
3.悲しみは Blues で
4.Over The Rainbow
5.アルバートが唄ってる 2003
6.空中に遊ぶ空想家の夢(笛吹童子のバラード)
7.たどりつく港を今日も
8.夢の続きでも
9.大地の鼓動
 ◆中入り◆
10.目覚めと喧噪
11.Keep on Travelin'
12.築地の唄
13.Whiskey River Blues
14.あの日のままで
15.Everyday
16.上を向いて歩こう
17.迷走
18.遥かな海へ
 ◆アンコール◆
19.Fender Bender Locomotion
20.Come Together 〜 それでも Lucy は空に

 ほぼ一か月ぶりのライヴということで、最初からパワー全開というわけにはいかなかったようだが、ライヴ前半では、どのように収拾されるのかまったく予測がつかないスリリングなMCで客席を眩惑しまくり、ライヴ後半では、ほとんどMCをはさまずに場内の集中力を高めつつ徐々に加速して行って、“Everyday”でついにパワー全開となったように見えた。そしてそのまま一気に突き進み、アンコールの“Fender Bender Locomotion”からほとんど間を置かずに“Come Together 〜 それでも Lucy は空に”になだれこむという荒技、これにはただただシビレるばかりであった。
 なお、“築地の唄”は、リクエストにこたえて演奏された曲である。アルバム“白昼夢”のヴァージョンよりは軽めのアレンジでさらりと歌いおさめたあとに、
  ほろ苦い思い出さ まだ若かったあのころ
  遠い日の唄さ 曇り空に浮んでる

 という歌詞が付け加えられていた。
 このように加工して“額縁”の中におさめることによって、“曇り空”という言葉に象徴されていたあの時代の若者の閉塞感などというものには一定の距離を置く。これが野澤流のアップデートなのであろう。同様に、“アルバートが唄ってる 2003”も、“白昼夢”のヴァージョンにくらべるとさまざまな加工がほどこされていたが、この新規に付与された部分もまた一種の“額縁”なのであって、いきなりはげしい不安感に襲われる“白昼夢”版の“アルバートが唄ってる”よりもよほど安心して聞くことができる。聴衆の高齢化が進みつつある今、過度の刺戟が命取りになりかねないという状況を考えると、このような配慮が必要であるということは改めて論ずるまでもないであろう。


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