2003.04.05  高円寺 稲生座   報告者 K.T.

出演  野澤享司

 前日の夜から降り出した雨が昼の間もずっと降り続いていてしかも気温は上がらず真冬並みの寒さであった。夕刻になっても雨は止まず、外出には最も適さない天候であったが、ライヴのある日には東京に豪雨をもたらすと一部で神格化されて語られている野澤享司が稲生座に出演する夜であるから、こういう天候のほうがむしろあたりまえのようにも思われる。稲生座には雨が降ろうがミサイルが降ろうが知ったことではないという面構えの頼もしい人々が全国から参集し、ほぼ満席の盛況であった。当日の演奏曲目は以下のとおりである。

1.迷走
2.I walk with my brothers & sisters
3.上を向いて歩こう
4.悲しみは Blues で
5.あの日のままで
6.大地の鼓動
7.夢の続きでも
8.アルバートが唄ってる
9.セントトーマスから胎内回帰への旅
10.Over The Rainbow
11.君想い唄おう
 ◆中入り◆
12.だりだりでぃんどん
13.万川集海
14.Come Together 〜 それでも Lucy は空に
15.時はいつも静かに
16.Everyday
17.Fender Bender Locomotion
18.遥かな海へ
19.Whistle Blues
 ◆アンコール◆
20.君が気がかり

 “迷走”からはじまった前半は、ライヴではおなじみの曲に加えて、新曲“あの日のままで”、そして“夢の続きでも”や“アルバートが唄ってる”といったニューアレンジをほどこした自作リニューアル曲などを交えてのバラエティ豊かな展開であった。
 後半の冒頭では、客席のリクエストにこたえて、“だりだりでぃんどん”が演奏された。説明的な歌詞は加えず、また挿入曲も入れず、“白昼夢”の世界をそのまま持ってきたようなシンプルなアレンジで、聞く者に大いなる不安感を与えた。
 “Everyday”は、今回は over forty version で演奏された。子供ばかりがヤケにデカくなる、という焦燥感を表現するならば、50過ぎよりも40代という設定のほうがリアルであろうと思われる。という理由で、over forty version を支持する。
 アンコールの“君が気がかり”は、客席からのコーラスつき。なごやかな雰囲気の中で稲生座史上初の野澤享司ソロライヴはめでたく幕を下ろしたのであった。
 なお、今回のライヴは、対バンなしでチャージが2,000円であった。稲生座における過去のライヴ記録を検索すれば、2001年8月の生田敬太郎とのジョイント(チャージ2,000円)を除けば、野澤享司の前に別のバンドが上がるという形態で、チャージは各回とも1,500円となっている。それより500円高くなったということになるが、野澤享司の演奏がたっぷり聞けるようになったのであるから、これは喜ぶべき事態である。それに野澤享司の曲だけに絞ってカウントすれば、1曲あたりの単価は逆に安くなっている(今回は1曲あたり100円)わけで、これは値上げには当たらないと前向きに考えるべきであろう。ちなみに、稲生座においてチャージ2,000円の単独ライヴを打つミュージシャンは、南正人、渡辺勝などごく少数であり、ついに野澤享司もこれら超人たちと同格であると認定されるに至ったかと思うと感慨無量である。

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