2003.03.15  狛江 add 9th   報告者 K.T.

出演  野澤享司

 日本の地名は振り仮名がないと読めないのが多くて閉口である。狛江も難しいな。大体“狛”なんて字は常用漢字表に載ってないぞ。ぶうぶう。“狛”という字はケモノヘンに“白”であるからおそらく動物の一種なのだろうが、そんなケモノ見たことがない。神社にいるのが狛犬[こまいぬ]だからその手のものだろうということにとりあえずしておいて、地名の狛江は[こまえ]と読むのだそうである。その狛江にある add 9th という店の名前もまたややこしい。これはギターのコードにこんなのがあったような気がする。たぶん[あど・ないんす]と読んでおけばいいのだと思う。add 9th は、新宿から小田急電車の各駅停車に乗ってじっと辛抱しているうちにいずれ到着する狛江駅から徒歩3分、狛江市役所前に位置する洒落た内装のブルースとジャズとリキュールのお店で、金曜土曜の夜にはライヴが開かれる。2003年の野澤享司の東京都内初ライヴは、この add 9th で挙行された。当日の演奏曲目は以下のとおりである。

1.目覚めと喧噪
2.旅の季節
3.たどりつく港を今日も
4.空中に遊ぶ空想家の夢(笛吹童子のバラード)
5.アルバートが唄ってる
6.時はいつも静かに
7.セントトーマスから胎内回帰への旅
8.夢の続きでも
9.勝手気ままな女
10.あの日のままで
11.君想い唄おう
 ◆中入り◆
12.迷走
13.I walk with my brothers & sisters
14.悲しみは Blues で
15.Over The Rainbow
16.Everyday
17.上を向いて歩こう
18.Whiskey River Blues
 ◆マジックショー◆
19.大地の鼓動
20.Come Together 〜 それでも Lucy は空に
21.Fender Bender Locomotion

 “旅の季節”は、当館付属BBS“BENDER LAND”で、うすあげさんがリクエストした曲である。冬の終わりから春の初めにかけてのちょうど今ごろの季節を歌っている。うすあげさんはBBSで、“野澤氏の曲は、タイトルでも歌詞でも季節を表わす言葉はほとんどでてきません”と鋭く指摘していたが、たしかに野澤享司の作った曲で、このように季節が特定できるというのはきわめてまれである。アルバム“Kyoji-Travelin'”では、この曲の音域の広さにいささか苦しんでいるようなところがあったが、今回はそのあたりは巧みに処理していた。
 “夢の続きでも”もまた、“Kyoji-Travelin'”に入っている曲のニューヴァージョン。朝のものうい感じが伝わってくる演奏であった。ところで、朝になっても起きたくない、フトンの中でぐずぐずしていたい、という内容からするとこれも春の歌か。唐土は孟浩然の五言絶句、“春暁”の冒頭二句、“春眠暁を覚えず 処処に啼鳥を聞く”の境地に通ずるところがあるような気がする。
 “空中に遊ぶ空想家の夢(笛吹童子のバラード)”と“アルバートが唄ってる”は、いずれも先日復刻されたばかりの1972年URC盤“白昼夢”所収の曲だが、それぞれ新しいアレンジがほどこされていて、挿入曲入りである。このあたりの改変については、賛否両論いろいろ出てくるところであろう。
 “あの日のままで”は、過ぎ去った愛の日々のなごりをずるずるとひきずって生きている男を、一人称を用いて歌った歌。新曲である。なさけない内容と野澤享司の歌唱がみごとにマッチしていて、しみじみと深い趣を覚えた。
 中入り後は、ライヴではおなじみの曲が続いた。サイケデリック・コラージュの傑作“Everyday”の導入部に、今回は“A Hard Day's Night”が使われていたことと、“Come Together 〜 それでも Lucy は空に”において、PA担当のトミー氏が大活躍して、狂ったコンピュータHALをコーラスで参加させた、といったあたりが特筆すべきところであろう。
 途中に中入りとマジックショーをはさんでの、2時間半を優に越えた野澤享司ワンマンライヴ、もうすっかり堪能してしまった。春の曲も、“旅の季節”と“夢の続きでも”、さらには“Come Together 〜 それでも Lucy は空に”と、じつに3曲も聞けたのであった。“Come Together 〜 それでも Lucy は空に”については、表記は“HAL”だけど、まあいいではないか。大目に見てやってくだされ。


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