部日誌20  『燃えよ!ゲーマー魂?』



32世紀。場所は地球の日本。
舞台は横浜関内の私立。

海央学園(かいおうがくえん)中等部。園芸部部室真向かい。
『目安箱』なんて箱が部室前に鎮座する『よろづ部』

海央の象徴たる王(キング)の名を与えられた二代目王の少年。
彼をサポートする面々が集う文字通りの『よろづ部』

受けた依頼は完全解決をモットーとする何でも屋である。

学年も上がり初代王も加えて賑やか?になったよろづ部。
データ処理に勤しむ初代王の目の前で、
「「その依頼絶対引き受けるべき!!」」
滅多にハモらない人物二人が声を揃えて力説。

よろづ部有志メンバー・セラフィス=ドゥン=ウィンチェスターは、処理しようとした依頼画面をPCに開いたまま。

目を丸くして自分に詰め寄る二人の部活仲間へ目線を送る。
「責任は涼が持つからさ」
爽やかな笑顔と、ぞんざいに二代目王を扱う発言をかまし。
海央の王子・星鏡 和也(ほしかがみ かずや)はこの場にいない二代目に責任を押し付けた。
「なんたってあいつは部長だかんな」
腕組みして今日ばかりは和也に同調。
よろづ部有志メンバー、麻生 辰希(あそう たつき)は腕組みして重々しい調子でうなずく。
「別に・・・カズとアンタが依頼受けるならいーけどさぁ」
相性が悪いようで、滅多に自分から辰希に近づかない和也が。
率先して辰希とタッグを組み説得に赴くなんて。
辰希も、和也の少し余所余所しい態度に自分から話しかけるような真似、してなかった筈だ。

 驚天動地ってゆーか。あたしは見たくなかった・・・。

心で思っていても、表には出さない。
セラフィスは端末キーを操作して、捨てるはずだった依頼をゴミ箱から正規の依頼フォルダへ移した。
「ありがとう、セラvこのお礼は必ずするからね♪」
上機嫌で王子スマイルを炸裂させる和也のキラキラ笑顔。

無駄に自分に振りまかれても迷惑なだけだ。
セラフィスは内心呆れつつ。
手をヒラヒラ左右に振った。

「意外に話の分かるやつだな!見直したぜっ」
無遠慮にセラフィスの背中を何度も叩き、辰希流の感謝の意が示される。
「じゃ〜ね〜」
手早く依頼をプリントアウトし、紙を手にした和也がスキップしながら去っていく。
辰希も文句一つ零さず和也の後を追って部室を後にした。
「なんなんだ?ありゃ」
ノンフレーム眼鏡。
セラフィスの横でPC入力をしていた副部長。
井上 悠里(いのうえ ゆうり)が眼鏡をかけ直し、呆然とした声音で独り言をもらす。
「さあ・・・」
首を捻りセラフィスが不思議そうに閉じられた部室の扉を見つめた。

全身から王子フェロモン全開の和也と、通常ハイテンションから、余計にテンションが高い辰希。
足取りも軽く依頼の記載された紙切れもって向った先は。

『創作ゲーム部』である。

技術が発達した32世紀において、バーチャル空間を利用した体験型ゲームは最早常識。

バーチャル空間を作り上げ直接ゲームをプレイするパターンと、体験機械に脳神経を繋ぎ意識だけをバーチャル空間へ送る。

主にこの二通りの手段を使い人種・年齢・性別を問わず。
老若男女が快適なゲームを楽しんでいた。

素人も、世界観を作り設定をつくれば比較的容易くゲームを作り上げる事が出来る。
当然、バーチャルゲーム協会が宇宙公式認定した、ユーザー安全装置を設置することを前提条件とした上で。である。

上記の海央創作ゲーム部は、バーチャル空間システムを利用したゲーム作成をメインとした部活だ。
文化祭などで年に一回ゲームを公開している。
「珍現象が創作ゲーム部で起きていて、システムのメンテナンスもしたけどエラー及びウイルス系の反応はナシ。システムのチェックを兼ねて市販のバーチャルゲームをプレイして欲しい・・・?」
和也が創作ゲーム部へ行きがてら、園芸部によって、よろづ部有志メンバー京極院 彩(きょうごくいん さい)を拉致。
無理矢理メンバーに加え、依頼の紙を読ませる。
黒ブチ眼鏡の奥の黒目が不思議そうに和也と辰希を見る。
「和也がゲーム好きなのは知ってるけど・・・辰希もゲーム好き?」
小首を傾げる彩に辰希はニカッと歯を見せて笑った。

彩としては非常に予想外の組み合わせ。
和也と辰希。
ゲーム好きで、そのジャンルもバーチャルゲームのRPGときたものだ。
どんなところで馬が合うようになるのか、人生どう転ぶのか。
分からない。

 人生って不思議に満ちてるよね。

彩、妙なところで人生悟っている。
笑顔の和也に促され予定を変更して、和也と辰希のよろづ部活動に同行することになった。
「被害拡大って訳」
よろづ部へ向う途中の有志メンバー・笹原 友香(ささはら ともか)。
生徒会の定例会議を終え、よろづ部へ書類整理に向う途中和也達に強制連行された。
やや迷惑顔の友香に和也は笑顔満面で言い切る。
「タダでゲーム遊べるんだから楽しい依頼だよね?良い機会だから大勢で楽しんだ方がいいじゃん」と。
「あ、あのぉ〜?」
創作ゲーム部で繰り広げる漫才(?)に、創作ゲーム部長はどう会話に割り込んだらいいのか判断しかねるようだ。
オロオロした様子で和也と友香を見比べる。
「あー、はいはい。で?変なシステムってのはどれだ?」
ゲーム部長の窮状を見かねて辰希が部長へ話を振る。
ホッとした顔で部長は一つのPCを指で示す。
「PCの電源入れてみますので、見てもらっていいですか?」
部長のこの言葉が彼等の運命を決定した。



トウゥルルルル・・・トウゥルルルル。

今日も今日とて書類整理に追われて訪れた休憩時間。
緑茶を啜っているセラフィスの耳に飛び込むのは、何故か電話の音。
不思議に思いつつもセラフィスは部内の電話を取った。

《もしもしっ!》

必死の形相を浮かべている彩に、「はいはい」なんて呑気に応じ用件を聞こうとしたら。
ノイズ交じりの音声と断続的に途切れる映像。

はて?とセラフィスが疑問に思う間もなくイタ電のように電話は切れた。
「セラァ〜?どうしたの〜?」
京極院家の居候。
よろづ部有志メンバー・京極院 未唯(きょうごくいん みい)が、マドレーヌを頬張りつつセラフィスへ声をかける。
「んー、彩がなんか必死な顔して電話してきたんだけど、切れた」
セラフィスは体験したそのままを説明する。
パチパチ、何度か瞬きをして未唯は彩の気配を探るも、彼が危険にさらされている様子は見受けられない。
「あたしが感じた限りは・・・平気みたいだけど?」
もぐもぐマドレーヌを食べながら、未唯はのほほんと答えた。
「嫌な予感がしたんだよな〜」
君子危うきに近寄らず。
立ち回りの上手い悠里は一枚の依頼書を爪で弾きひとりごちた。
「本当に危なくなったら助けに行こう。カズが自分で言い出した依頼だし」
眠そうな顔つきで決定を下したセラフィスの言葉に、異存はなく。
居残り三人はまったりとした放課後を恙無く過ごしていたのだった。



同時刻。
「もしもしっ!もしもしっ・・・って、なんで繋がらないんだよ〜!!!」
彩は涙目になりながら受話器と格闘していた。
「霧が辺り一面だ〜」
不安そうな顔つきのまま友香が周囲をきちんと観察する。
「あああああ、どーしよーっ!!」
頭を抱えて右往左往。彩がパニックを起こした。
「ゲーム部長が電源を入れたとたん、俺なんかはこの空間に放り出された」
「バーチャル空間かな?やっぱり」
辰希と、気持ちを落ち着けた友香が比較的建設的に話を進める。
「だとしたら、PCにセットされていたゲームが起動している筈だね」
さっさと気持ちを切り替えた和也が二人の会話に加わる。
「でも部室にはバーチャル空間を維持するシステムはない。僕等が頭の部分にゲーム用の器具を着けないとプレイできない・・・んだよね?あれ?違ったっけ?」
彩も適応性については抜群の能力を発揮。
ここでウジウジしても仕方ないので、三人の会話に混ざった。
「けど、ゲームが始っていると考えるのが妥当だね、ほら」
微笑を湛え、和也が自分の衣装を摘む。
気が付けば四人は制服からファンタジー系の奇妙な服を身に着けていた。

「うっそ!わたし、勇者だ・・・」
軽装ながらも品のある鎧姿。
腰に携えた洋風の大剣を抜き放ち、友香が呆然と呟く。

和也は中世ヨーロッパの修道僧のような衣装。

彩は両腕、両足首にリングをつけた長いローブを身に着けた魔法使い風。

辰希は中華風の道着を身につけた格闘家風。

「僕が多分魔法使いで、辰希が格闘家、和也は僧侶で、笹原さんが勇者だね」
「いいなぁ〜、笹原は勇者か」
彩が情報を纏め、辰希は羨ましそうに勇者ルックの友香を見た。
「日頃の行いの差?」
和也が疑問系で辰希本人に問いかける。
「・・・お前遠慮ねーな」
乾いた笑みを浮かべ辰希は和也を見下ろす。
彩と友香は仲が良いのか悪いのか、分からない二人を眺め同時にため息。
そうこうしているうちに。
『グルウルウルルアアアアァァアァ』
景色が霧一色から切り替わり、茶色い岩肌がむき出しの山岳地帯。
岩陰から現れる巨大な狼モドキ。
咆哮しながらまっすぐ友香目指して牙を向く。
「あ、ゲーム始ったね・・・これは?」
悠長に腕組みして和也はモンスターを観察する。

辰希は条件反射で装備していた爪を振りかざしモンスターを撃退。
友香も中々堂にいった所作で大剣を振るう。
二人の邪魔にならないよう彩が後方支援で魔法攻撃。

 ちゃららっちゃちゃらら〜。

効果音と共に飛び出す宝箱と、姿を消すモンスター。
戦いに参加した辰希・友香・彩は互いに手を鳴らし合い勝利を祝った。
「とりあえず、サクサクっとゲーム攻略してみようか?クリアしないと多分システムが切れないと思うんだよね」
「途中のセーブポイントで連絡は取れない?」
大剣を腰にさげ友香が和也に突っ込む。
「だってタダゲームだし、最終的なオチが気になるから。どうせだったらクリアした方が早いよv」
和也の笑みが深くなる。

額に手をあて友香は嘆息し、辰希と彩は背筋を這い上がる悪寒に互いに手を取り合い恐怖した。

最初に到達した街で情報を仕入れ装備を整え(和也が脅して値切ったのには友香が驚いた)、ゲームの概略を整理し。
途中のイベントをすっ飛ばして。
ひたすらレベルアップを重ねるよう戦闘、また戦闘。
「戦い慣れしてるよな?彩って」
ゲーム開始直後もなんだか自然に身体を動かしていた。
彩の戦い慣れした調子を横目に、辰希は回し蹴りをモンスターへ決める。
「そ、そうかな?」
照れて顔を赤くしつつ魔法を繰り出す彩。
「はい、防御壁」
和也も的確なタイミングで補助魔法を操り。
即席ゲームプレイヤー達はそれなりにゲームを楽しんでいる。
「「でも一番意外なのは・・・」」
辰希と和也は同じタイミングで少し先での戦闘へ目線を送った。
「たあああっ!」
CMにでも出れそうな雰囲気を身につけた、友香の勇者ぶりである。
大剣をさばく腕の動きだとか、心持ち凛々しく感じる横顔だとか。
勇者専用魔法を発動させる堂々たる態度だとか。

ゲームを始めておおよそ2時間。
子供は適応性が高いとは言え。
「「ハマり過ぎだよ(ろ)」」
実は勇者をやってみたかった、和也と辰希。
羨ましそうなそうじゃないような。
羨望の眼差しを持って友香をじいぃっと見つめる。
「早くクリアしないと、外と連絡も取れないし。わたし達がコッチに来た原因が不明なんだから仕方ないでしょ」
不確定要素を持った環境でのゲーム。
友香としては早くバーチャル空間から抜け出して、溜まった書類の整理がしたいのだ。
逸る気持ちを抑えて和也の道楽に付き合っているのに。
「あんまり和也が文句言うなら、セーブポイントから帰るよ?」
友香が怒った口調で言うと、とたんに大人しくなる二人。
「僕も早く帰りたいよ・・・」
そんな三人を尻目に彩は遠い目をして空を見上げた。





友香の適応性と、和也&辰希のゲーマー魂が相俟り。
バーチャル空間のゲーム自体は即クリア。

創作ゲーム部に戻ってきた友香と彩は悠里を呼びPCのチェックを行ってもらった。
「配線ミスは見つけたけどな・・・?この部活でこんな簡単なミスをするヤツがいるなんて、俺には思えないぞ」
机の下にもぐって複雑に絡み合う配線を繋ぎなおし。
ズボンについた埃を払いのけ。
悠里は怪訝そうに部長を見る。
「本当だ・・・なんでこんな簡単な配線ミスが起きてるんだ?」
悠里に指摘された箇所を眺め、部長も不思議そうに首を捻っている。
「それに、これも部の備品じゃない。こんな高い装置、この部じゃ買えないよ」
部内のPCに組み込まれていたバーチャル空間起動システム。
部屋全体をバーチャル空間へ変える空間湾曲システムを搭載した最新型。
値段も張るもので、とてもじゃないが中学生の部活動レベルで購入できる代物ではない。

部長の困惑は続く。

「誰かの悪戯にしては手が込んでるね」
装置を手にとって彩が呟く。
「取りあえず、顧問の先生を通してこの装置を学園に提出しておいてくれ。後はマメに部室に変化がないか。見回るしか自衛手段がない」
「ああ、分かったよ。ゲーム部から出した依頼はこれで完了ってことでいいから。ありがとう、わざわざ配線まで見てくれて」
彩から装置を取り、それを部長にしっかり手渡しして。
悠里は依頼の完了を部長から口頭で受け取る。
「悪いんだけど、あの二人戻ってくるまでこのPC使っていていい?リベンジとかでまたバーチャル空間に入っちゃったのよ。勇者がしたかったみたいで、ね」
起動中のPCと、頭に被るタイプのバーチャルシステムをつけた和也と辰希が椅子の上に横たわっている。
二人を指差して友香が部長に詫びた。
「構わないよ、まだ部活してるし。時間になったら切り上げるよう、こちらから連絡しておくから」
部長が快諾してくれて、友香と彩、悠里は創作ゲーム部を後にしたのだが。
「ゲーム好きなのはいいけど、二人とも子供すぎ」
友香的にはいただけない。
呆れた声音でぼやく。
「辰希が躍起になるのは納得だけどな。和也まで熱を上げるとは思わなかったぜ」
とかなんとか。
友香の意見に同調しつつも、しっかり和也のデータを自分のPCに書き込むしっかり者の悠里と。
「え?知らなかった?和也ってあー見えても、ゲーム好きでさ。新作とか話題作なんかは欠かさずプレイしてるんだよ。涼と僕と未唯とでよくパーティー組んで冒険してた」
親友の立場を思わぬところで発揮する発言をする彩。
比較的中2の時はお互いの時間の都合がついたので、彩達はよくゲームに興じたりしていたのだ。


体験した全ては擬似であり、実体験ではない。
分かっているのに脳はきちんと今日の体験を疲れるものと認識。
凝り固まった肩をゆっくり己の手で叩き、友香は締め括るように言う。
「・・・今日の依頼解決ですごく納得した」
疲れ切った元勇者サマを見て、二人のお供(?)は気まずい顔で笑いあうのだった。


和也はああ見えてミーハーっぽいところもあって。辰希は年頃の男の子らしく気に入った遊びには熱中するって感じで意気投合(笑)そんな話を書きたかったのに、和也と辰希の絡む会話が少ない(汗)ブラウザバックプリーズ