部日誌番外17−2  『双子と主』



少女と二人の男が夜のみなとみらい地区。
観覧車の前で向き合っている。
「久しぶりだね、セラ」
穏やかな微笑を湛える好青年と。
「オッチビーvvv久しぶり〜」
妙にハイテンションな好青年そっくりの顔。
ややたれ目気味。

少女は満面の笑みをたたえたまま、ハイテンションの方。
鳩尾へ裏拳をお見舞いした。
「ぐはっ・・・」
身体を“く”の字に曲げて悶絶するハイテンション。
そんな自分の片割れを見やり、好青年は嘆息した。
「まったく、懲りる事を知らないな。譲は」
好青年。
見る人間が見れば心当たりがある顔立ち。
みなとみらい地区よりほど近い、関内方面に有る私立・海央学園。名物ツインズの、京極院 護(きょうごくいん まもる)。
それが彼の名前だ。
「うっせーやい!」
痛みに顔を顰めつつ文句を言うのはその片割れ。
京極院 譲(きょうごくいん ゆずる)である。
「一昨年はご苦労様。まさか響子さんのみならず、二人も積極的に関わるなんて珍しいね」
片方の眉を持ち上げておどける少女に、双子は背筋を正す。
「そりゃ弟のピンチだったし?お兄ちゃんとしては手伝うのが当然っしょ!」
譲は親指を立てて爽やかに笑う。
「ほとんど俺が調べたんだけどな」
得意げに胸を張る譲の態度に水をさし、護がやんわり訂正した。
「だろうね」
不服そうな顔の譲を一瞥し少女が護に同意する。
「ひっでー!俺だって影ながらチマチマ調べてたぞ。
そりゃー後半部分は記憶が消されてたから訳わかんねーけどさ」
意味もなく拳を振り上げ力説する譲に、少女と護は顔を見合わせて苦笑。

「グリーンフィールド・コロニー支部長代理代行として礼を言います。

地球東アジア支部補助要員、京極院 護・譲。

史上最強の使い魔の真実を調べ上げよ。

ミッション終了を言い渡します」
左右色違いの少女の瞳が双子を見据える。
「「了解しました」」
色とりどりのグラデーションカラーに彩られる観覧車の枠。
変化する色に顔を染められながら真顔で返答する双子。

場違いと言えば場違いに仕事モードな三人。
しかしながら、この奇妙な三人の会話を聞きとがめる人物は居なかった。
「ハッピーエンドの物語じゃないけど、彩が決めたんだから温かい目で見守るべきかな。さてさて。彩は気付いてんの?京極院家の家業ってヤツ」
小首をかしげ見上げる少女に、否定の意味で双子は首を横に振る。
「うんにゃ。知りたくねーんだと。将来俺達と同じになる見込みは低いと思うぜ」
譲の説明に少女はクスクス笑った。
「彩には不向きな仕事だよ。それとも一緒に仕事したかったの?」
基本的に根はお人よし。
振り回されるタイプの双子の弟。
彩の顔を思い浮かべ、少女は意地悪い質問を投げかける。
「少なくとも俺はしたくない、かな。彩には不向きだと思うし・・・彩が自分の意思で将来を決めた方が良いと思うから」
護が良心的意見を述べた。
「そーだね。あたしも将来家業を継ぐつもりないし」
少女の静かな声の発言に、双子は驚いて固まった。
「マジ!?チビ、石田の会社継がねーの!?」
素っ頓狂な裏声になって驚く譲に少女は黙ってうなずく。
護も興味深そうにしげしげと少女の表情を観察する。
「あたし、やりたい事見つけてあるし。
それは石田に近いけど、石田じゃ組織が大きすぎて動きにくいから。
あれは弟が継ぐんじゃないかな?それか長女の綾芽(あやめ)ちゃんかがね」
「すっげー。あの石田の椅子をアッサリ捨てるんだ」
なんとも言えない顔つきのまま、譲は感嘆の声を上げた。
「だから今のうち良い人材を自分の手で確保しようと思って?ツインズだって薄々感づいてたんでしょ。伊達に石田のアルバイトしてるわけじゃないもんねぇ?」
挑発的に笑い双子の顔に浮かぶ感情を窺う少女の態度に、護は小さく両手を挙げて降参のポーズを取った。
「当然。グリーンフィールドの支部に居た時から、セラは堂々と引き抜きしてたね」
護が調べ上げた目の前の少女、セラフィスの情報を口にする。
「まーね。そんで留学中の今、双子を引き抜こうと思って。石田に就職したいならそれはそれで構わない。今決めて欲しいの」
真顔に戻ったセラフィスの瞳が真剣な色を湛え双子の目線を捕らえた。



浮気から国家機密まで。

前金払いで調査オーケー。
優秀スタッフが総力挙げてお調べします。
我が石田調査会社にお任せあれ〜。
裏社会では超有名な調査会社です。



一昔前のキャッチコピーのような宣伝文句が、沈黙する三人の耳を通り過ぎる。
セラフィスが入れっぱなしにしたPC端末から流れるノイズ交じりの音声。


石田調査会社。
宇宙をまたに駆けた情報収集を主とした会社で、表向きの知名度は低い。
石田調査会社の要求する前金さえ払えば、キャッチコピー通りにいかなるものでも調査可能だ。
最も、依頼内容が法に抵触しなければ。
の話だが。

調査成功報酬が破格なことともあり、調査員も各方面優秀な人材が集う。
その存在を知るのはごく一部の者達だけにもかかわらず、裏では有名な会社である。


「なんでも屋だよね?セラが立ち上げる会社」
沈黙を破り護が口火を切る。
「石田は情報を調べる事を主体としている。情報を握る事は大事だけど、それだけでは解決できない問題もある。あたしはもう少し自由に動きたい」
将来自分の会社に必要だと思う人材前に、嘘はつかない。
セラフィスは包み隠さず考えを素直に伝えた。
「ふーん、面白そうじゃん。俺のった♪」
小指を差し出し譲がセラフィスに笑いかける。

「考えなしで、じゃないぞ?だいたい考えても見ろよ。
親父と響子さん、二人に見張られながら同じ会社で働くのって面倒だぜ〜。
親父なんか絶対俺達と組んで仕事するだろうし。

このままじゃ何時までたっても『京極院の優秀な双子』っつーレッテル貼られて『良い子』のまま一生が終わるんだ。

ぞっとするね、俺は」
口を開きかける護を制して、譲は一気に言葉を紡いだ。
「自由、か」
いったん口を閉じてから護は一人ごちた。
「譲の考えにも一理有る。だけど、素直にセラの言葉を鵜呑みにするのも俺には出来ない。だからセラを試させてもらう。いいかな?」
片膝を付き目線をあわせセラフィスに尋ねる護の顔つきもいつになく真剣だ。
「勿論。護は一筋縄じゃいかないもんね」
こうして。
試す、名目である一つの『賭け』が行われることになったのだった。





東京の自室にて薫り高いココアを口に含み、セラフィスはクスクス笑った。

《笑い事じゃないですよ、小姫》

テレビ電話の向こう。
やや小太りで体格の良い長身の青年が呆れ果てた顔をする。
「フー?心配しすぎ。それにフーは居残り組みなんだから、文句は言わない」
ニンマリ笑えば画面向こう青年は肩を落とした。

《自分は確かに石田に残って亨様をフォローしますけど・・・。猫探しの賭けなんて子供じみた真似、よくされましたね》

「ただの猫探しじゃないよ?あたしの能力は一切使わない。
地味〜な聞き込みと勘と足でかせいだんだから。猫の体力考えて三日間。
一応京極院ツインズが猫に発信機つけてご飯とがあげに行ってたみたい。あたしが学園で授業受けてる時とかに」
深く椅子に腰掛けオットマンに両足を上げ、寛いだ姿でココアをチビチビ啜る。
相変わらず猫舌な主に青年は目を細めた。

《初日だけ学園に行って、あとはサボってたそうじゃないですか?》

「揚げ足取りは歓迎しないよ」
青年の探りを綺麗に切って捨て、セラフィスは椅子に座ったまま大きく身体を伸ばした。
「終わりよければ全てよし。賭けには勝ったし。京極院ツインズから将来あたしの会社に就職する誓約書は貰ったし。万事オッケーでしょ」
あははははは〜。
ユルーイ笑顔は相変わらず。

《地球東アジア支部の皆様にどう説明したらいいんだ・・・》

痛み始めた胃の上をそろそろ擦り悲観に暮れる青年と、好対照に絶好調のセラフィスの姿が画面を挟んで見受けられた夜。

破天荒な双子の将来は更にパワーアップしたお転婆に握られ、なんだか騒がしい未来が待ち受けていそうな予感を抱けたのは。


セラフィスからの報告を真っ先に貰った青年ただ一人であった。


セラフィスがよろづ部に出てきたので、書いてみました!
京極院家のお仕事。実は裏では有名な調査会社(リサーチ系が主の)の社員だったんです!!
双子兄はそこでバイトしています。
グリーンフィールドコロニー支部のお話は独立していて、いずれ書けたらいいなぁ。ネタだけあるのに上手く書けない(いつもの事だけど)少しは疑問が解明されることを願ってvブラウザバックプリーズ