注意:このオマケは『妖撃者』シリーズを読まれた方には、より分かり易い内容です。
   読まなくても分かりますが所々曖昧に説明している部分があります。
   オマケなので詳しい説明は割愛してしまいましたっ。
   ご了承くださいませ〜。






















部日誌12 オマケ


二月某日。
みなとみらい一角にそびえる某ホテルのケーキバイキング。

「人生、苦もあれば楽ありだよね〜vvv」
蕩けそうな表情で目の前の皿のケーキを次々胃袋へ投入。
海央の王子こと星鏡 和也(ほしかがみ かずや)が味わう至福の時。

「・・・」
自分はお付き合い程度に一・二個。
その後は妻と弟子がケーキを頬張る様を傍観。
海央の中等部教師兼和也の師匠。
水流 氷(みずながる こお)その人は黙ってコーヒーを飲んだ。

「ふふふ、怒らない、怒らない」
氷の顔に刻まれた眉間の皴。
指先で突き、氷の奥方で海央小等部教諭・胡蝶(こちょう)は微笑む。

 《ちょっと・・・イチャイチャするなら自宅でやってよね》

呆れ顔で胡蝶に注文をつけるのは、胡蝶に良く似た顔立ちの少女。

外見年齢が7歳前後で、長い髪を耳から上で二つに分け結ぶ。
暗く翳った黒い大きな瞳。太めの眉。
幼子特有の小さな鼻。やはり小さな唇。
外見とは裏腹に氷を睨みつけて迫力満点。

「だったら来なくてもよかったんだぞ、華蝶(かちょう)」
コーヒーを口に含んで氷は素っ気無く答える。
「てゆうか、フォーク持ったまま師匠睨んでも迫力に欠けるよ?」

にっこり。

良い子ぶって微笑む和也の静かな嫌味に、華蝶は頬を膨らませた。

 《も〜可愛くない〜っ!!和也、アンタ!アレに似すぎよ》

顎先で氷を示し華蝶は毒づく。

「・・・そうかな〜?」
わざととぼけて首を傾げれば、華蝶は益々膨れ面。
胡蝶は苦笑しつつ、妹の華蝶を宥めるように彼女の背中を擦った。

「いいじゃないの、ケーキバイキングくらい。希蝶も来ればよかったのに。ケーキ嫌いだったかしら?あの子」

 《お姉様・・・そーゆう問題じゃないってば》

相変わらず微妙にズレている姉の思考回路に華蝶は脱力した。

今でこそ人となった胡蝶だがつい数年前までは異種族で、しかも氷とは家系的に敵対する間柄。

そこは愛の力(?)とはやや異なるが、とある一族の力を借り人へ生まれ変わった。

人となった胡蝶は、晴れて氷と結ばれ現在は共に教職についている。

「遅くなりました、皆様」
遅れてフロアに姿を見せるのは和也の同居人。
長身の和風美人、名を小春=コマという。
「お疲れ様、コマ」
昔なら『コマ、遅いよ〜』と和也は口にしていただろう。

けれど今は違う。

相手が自分のフォローに回ってくれているのを知っているから『お疲れ様』と。
労いの言葉が自然に口を付いて出てくる。

 《なんか・・・気障ていうか?そういうのも年々上がってるよね》

口の端についた生クリームをフキンで拭き取り、華蝶は和也の成長を評した。

「ですから今年は自覚を促す為に、バレンタイン禁止にしたんですよ。
勝手に一人で優しさを振りまく割に人とは距離を置きたがりますからね。和也様は」
ねー?少し意地悪なコマの講釈に、和也は苦笑しつつ謝った。
「相手と自分の丁度良い位置を保ってるのと。後は色々。
でも涼や彩、未唯に友香それに悠里なんかとは案外普通に話してるよ」
去年の四月から始動した『よろづ部』

否応無しに参加が決まっていて、当初は仕事と自分の演じる王子の役割とのバランスが取りにくかったが。
今は普通に素で彼らと接している。
和也の猫被りを知る水流夫妻・同居人のコマからすれば驚異的な進歩でもあるのだ。

「正直、辰希は嫌いじゃないんだけど。係わり合いになりたくない・・・僕の予想が外れてなきゃ彼も特殊体質の持ち主だろうから」
和也が喋る合間に皿のケーキは姿を消し。
あっという間に空になる。
「おかわり行って来るね」
氷が密かに数えただけでもゆうに十二個のケーキは食べている。
それでもまだ食べるつもりらしい。この弟子は。
和也は鼻歌交じりに席を立った。

「それにしても、一安心です」
コマが安堵の感情を滲ませ発言する。
「和也様もご学友達と普通に過ごしていますから」
周囲のお姉さま方の視線を浴びつつケーキを物色する和也。
その姿を目に、コマはしみじみした。
「普通に過ごしてるってゆうか、まぁ、そうかもな。アイツあんまり猫は被らないし、一応は他人の意見もきちんと聞くようになったし。でも毒舌な部分は相変わらずだ」
和也の学園生活を一番間近に見ている氷が同意した。
「和也君の個性じゃない?確かに毒舌に聞こえるかもしれないけど、必要以上に良い子のフリをされるよりかは嬉しいわ」
マイペースでケーキを食べつつ胡蝶が和也をフォローする発言。
コマは水流夫婦に軽く頭を下げた。
「本当に有難う御座います。和也様の仕事を減らしてくださって。部活動優先させていただいて感謝しています」

 《和也が仕事しないのはいいけどさぁ〜!アタシ的にはつまんないよおぉぉぉ〜》

コマの台詞に華蝶は反発する。

和也の家業は特殊な家業である。
本来ならば部活動の参加は原則的に禁止。
まして和也の家業を知らない一般の友達を作って秘密を打ち明けるなど論外。
たとえ受け入れられたとしても、和也を狙う敵との戦いに巻き込まれてしまうかもしれない。
リスクを考えれば必然的に避けなければならない事態だ。

「その為に俺と胡蝶で海央にいるんだ。心配すんな」
和也が中学に進学するにあたり。コマと氷で一計を案じた。

そして和也は時期長の弟という身分でありながら、フリーで仕事をする立場に納まった。
暗躍した氷の手腕が鮮やかだったのと、和也自身が学生生活の優先を願った結果である。

「はい。後は和也様がもう少し立場を弁えて下さればいいんですけどね・・・。
涼さんを始め、彩さんや未唯さん。友香さんに悠里さん、辰希さん。能力者もそうでないお友達も沢山出来たのに・・・」
皿からはみ出るほどにケーキを取って戻ってくる主。
和也の笑顔を見やってコマは息を吐き出した。

「自覚なんてのは、これから弁えればいいじゃん」
言いながら和也は席に腰を落ち着けた。
テーブルに置いた皿から漂うケーキの甘ったるい匂い。

氷は半分げんなりして顔を背けた。
華蝶は呑気に和也からケーキを分けて貰い。
コマは胡蝶と主婦の会話を交わしながら自分のペースでケーキを食べる。

「彩から学んだ自分を崩さないで無理しないって考え方。
涼みたいに一人でも目的をきちんと達成する責任感。
未唯みたいに未知の世界へ飛び出す勇気。
友香が持つ思考の柔軟性。
悠里の会話の巧みさと地道な努力。
辰希の真っ直ぐなところ。
僕は知ってるし見てるし認めてる。喧嘩もするだろうけど、皆の良い部分を見習いたいとは思うよ」

王子スマイルをオマケにつければもう完璧。
すっかり感動するコマと、胡蝶。

二人の女性とは対照的に冷静な氷と客観的な華蝶は。

 相手の良い部分は認めているだろうけど、見習うなんて嘘臭い・・・。

ほぼ同時に同じ事を考えていた。


余談だがケーキ個数カウントシステムによって、和也がケーキバイキングでケーキを沢山食べた個数の記録を抜き去り。
その栄誉をたたえられ写真がホテルに飾られている。

ゆったりまったりマイペース。
焦らずが主義の王子に相応しい成長。
見守る大人達は喜んでいいのか、悲しんでいいのか。

微妙なところだろうが。


今日も彼等は平和な時を過ごしている。


希蝶出せずが心残り。ある意味妖撃者番外?チックなオマケ文です。あんまりオマケって感じしませんね(苦笑)ブラウザバックプリーズ