部日誌07 『王はどっちだ!?涼VS辰希??』



32世紀。
場所は地球の日本。舞台は横浜関内の私立。
海央学園(かいおうがくえん)中等部。

園芸部部室真向かい。

『目安箱』なんて箱が部室前に鎮座する『よろづ部』
海央の象徴たる王(キング)の名を与えられた二代目王の少年と、彼等をサポートする面々が集う文字通りの『よろづ部』
受けた依頼は完全解決をモットーとした何でも屋だ。


『よろづ部』のメンバーも決まり、大分部活動として軌道に乗っている。
大小様々な依頼を片付けつつ。目前に迫った『夏休み』に向け各人の思惑ひしめく中。

日に焼けた肌に坊主頭に太い眉と意志の強そうな黒い瞳。
不細工な顔つきではないが、不思議とぎこちなく海央の制服を着崩した姿。
少年は勢い良く扉を開けた。

「たのも―――っ」

フシュー。

扉が音もなく移動する音。そして少年の真正面に仁王立ちする少女が。

「きゃ――っかぁっ―――っ!」

フシュー。

言いながら内側から扉を閉める。

「「・・・」」

よろづ部部室内部から二人のやり取りを見守る眼鏡コンビは互いに苦笑した。
「あれが例のチャレンジャー?」
ノンフレーム眼鏡の少年。
宰相こと井上 悠里(いのうえ ゆうり)が黒ぶち眼鏡へ問いかける。
黒ぶち眼鏡の少年はうなずいた。
「悠里ならもう知ってるだろ?僕は事情通じゃないんだから、経緯については詳しく知らないって」
手に持った冷たい麦茶入りグラス。
一口飲んで黒ぶち眼鏡の少年、有志メンバー京極院 彩(きょうごくいん さい)は口を開く。
「まぁ、それなりには?

『嵐を呼ぶ転校生・麻生 辰希(あそう たつき)。王へ挑戦状を叩きつける』ってな〜。

本当話題性は抜群!新聞部としては美味しい限りだ」
眼鏡をかけ直し悠里はニヤリと笑う。
「それに?彩が初めて見かけたんだよな?アイツってどんなヤツだ?同じクラスになった王に、『果たし状』を叩き付けた熱血体育会系ってのは知ってるけどな」
まるで現場を見てきたかのように喋る悠里に、彩は顔を引きつらせた。
「なんか海央を勘違いしてるみたいでさ。それに涼が二代目の『王』だって知らないみたいなんだよね。名前の制度もいまいち分かってないみたいだったよ。それがなければ普通じゃない?」
毛を逆立てる勢いで扉向こうと争っている恋人(少女)の背中。
目線を京極院 未唯(きょうごくいん みい)へ向け彩は悠里へ説明した。
「麻生にココの説明しないとマズイだろ?アイツ、転入早々転校ってコトになるぜ。このまま王に喧嘩売り続ければ」
肩を竦める悠里に彩は再度顔を引きつらせた。
「た、確かにそうかも」
マズイ食べ物でも口にしたような。複雑な顔つきで彩は呟きため息。
「それに・・・未唯も強情だし」

先ほどから部室に入れろ・入れない。

という大変低レベルな争いを繰り広げる、未唯と転入生の麻生 辰希。

二人の戦い(?)を傍観する悠里と彩。

ある意味平和な学園のお昼休み・よろづ部の前では熱い火花が散っていた。

「初対面時に彩へ対する態度が横柄だったから。麻生に対する印象サイアクなんだってな、未唯は」
独り言のように悠里が突っ込めば、彩は座った椅子からずり落ちそうになる。
「な、ななななっ・・・」

 なんで知ってるの!?

「ニュースソースは足で稼ぐ主義なんだよな〜、俺」
どこから仕入れているのだか。
彩と未唯しか知らないはずの辰希遭遇事件。
きちんと情報を把握している悠里の飄々とした態度に、彩は目を丸くして驚く。
「んなことより、そろそろ止めますか」

未だ入れろ・入れない。で扉を開け閉めしている辰希と未唯。
二人の飽くなき戦いに終止符を打つべく悠里は立ち上がった。
そんな新聞部エースの背中を見送り。

 悠里には極力逆らわないようにしよう。

決意を新たにする彩の姿があった。




時間は流れ、放課後。
仏頂面の辰希とニコニコ顔の悠里。

よろづ部部室で向かい合う男二人・不毛な構図。

「悠里?変なこと吹き込んでないよね?」

フシュー。

よろづ部部室の扉が開き、姿を見せるのは生徒会役員兼務の有志メンバー。
笹原 友香(ささはら ともか)。
マイペース人間が多いよろづ部において、比較的常識的・良識的思考を持つ少女である。

「ないない」
ヘラヘラ笑って手を左右に振る悠里の姿に友香は眉を顰めた。
「麻生君、もう一度説明しようか?アレは面白半分で説明したでしょ」
悠里をさり気に『アレ』呼ばわりできるのは貸しがあるから。
友香が申し出れば、辰希は険しい顔つきのまま首を横に振る。

「いや。だいたい分かったぜ。
今の王・・・霜月は二代目で、俺が考えていたのは初代だった。初代の王は留学してもう学園にはいない。
そもそも王っていうのは学園の総意で選ばれた生徒に与える称号であって。
俺みたいな一生徒が挑戦を挑んで奪うもんじゃない」

淡々と喋る辰希と、どこか得意そうに片眉を持ち上げ友香を見上げる悠里。
「はいはい。悠里はしっかり説明できたみたいね」
よろづ部の書類棚からファイルを出して、中身を入れ替えながら友香は返事を返す。
「とーぜんっしょ。つーか、友香って俺のコトあんま信用してないだろ?」
悠里、カルーイ口調で友香に探りを入れるが。
「当たり前じゃん。悠里みたいなネタの鬼をどうやって信用するってのよ?」
平然と友香に言い返され、心底ガッカリしたようにオーバーリアクションで項垂れた。

「なあ、井上。総意って学園の生徒達の意見ってコトだよな?」
徐に辰希が悠里へ問いかけた。
「まぁ、そんな感じだ」
「じゃあ、俺もその生徒達の部類に入るんだよな?」
「?転入して海央の生徒になったんだ。当然、麻生だって生徒達に含まれるぜ」
辰希の質問に答えながら悠里は首を捻った。
先ほどきちんと説明して、本人も名のシステムについては把握したはずである。
確かめるようにもう一度似たような質問をするなんて何を考えているのか。
無意識に辰希の顔色を観察する。

「俺は納得いかねぇんだ。だから男気を量る意味で王に挑戦したい。一生徒として霜月が王に相応しいのか、俺自身で確かめたい」
バックに燃え上がる炎を背負って宣言する辰希。
体育会系の頭かと思いきや、案外筋を通す発言をする辰希に友香は小さく笑う。
逆に辰希の無謀とも取れる発言に呆れ果てているのが悠里だ。

顔にこそ出さないが『こいつはバカか』という感情が瞳の奥に見え隠れ。

咄嗟に俯いて冷静に考えようとして。

「面白い考えだね、麻生君。僕も涼がどこまで熱血するのか見てみたいな〜」
悪魔の尻尾を生やした海央の王子。
星鏡 和也(ほしかがみ かずや)がニコニコ無邪気に笑い会話に割って入ったのだった。
「人の不幸は蜜の味?違うからね」
笑顔のまま、まったく目が笑っていない笑顔で。和也は悠里に囁く。
「涼に頼まれたんだよ?麻生君と上手く対決できるようにして欲しいって」
悠里へ言いながら和也は友香にウインク一つ。
友香は深々と息を吐き出し手際よく書類をファイリングした。
それから辰希に向き直る。
「貴方の意見は至極妥当よ。勿論、王に挑戦したいなら挑んで・・・種目はこれ。好きなのから挑んでみてね。審判は公平に行われるから」
「本当か!?」
友香から紙を受け取り、辰希は目を輝かせて喜びを表現する。
悠里は怪訝そうに和也を見るが、和也は王子スマイルを浮かべるだけ。
笑顔一つで悠里の追及を完全に封じた。





初戦。


腹を押さえてぐったり椅子に座る二代目王。
霜月 涼(しもつき りょう)と、チャレンジャー辰希。
あまり綺麗とは言えないトレイに、少し散らかった感じの食器類。
「早食い競争・・・なんちゅー挑戦だよ」
文句をいいつつもきっちり勝利するのは流石二代目。
早く食べ過ぎて胃の辺りが痛む。
腹を擦り涼が辰希を睨めば、同じ様にぐったり椅子に座ったままの辰希は力無く「るせー」と反論。
戦いを見守った友香が黙ってお茶を涼と辰希へ淹れたのだった。


二戦目。


カラフルなペイントの空き缶とペットボトルが次々にカウントされていく。
「うわっ。二人でこんなに集めたの!?」
未唯と彩がカウント済みの空き缶・ペットボトルを分別する中、和也は汗だくの涼と辰希に声をかけた。
「学園内清掃の依頼も来てたし、一石二鳥」
審判役の悠里が和也へ答える。

キラン。

真夏の太陽を受けて光を反射する悠里の眼鏡。
涼と辰希は両手を背後につけ、校庭の歩道部分に直接座り込んでいた。
「炎天下で缶・ペットボトル集め競争だなんて・・・熱中症に気をつけなよ?」

  終了してから言うなっつーの!!

ゼイゼイ荒い呼吸を繰り返し、涼と辰希は恨めしそうな視線を和也へ送る。

「ヤダなぁ?勝負したいのは君達二人でしょ?僕を巻き込まないでね♪」
目がまったく笑っていない王子の笑顔に、思わず涼と辰希は手を取り合って怯えた。
「勝者は〜、涼でぇ〜すっ」
怯える涼と辰希の耳に結果を発表する未唯の声が届いた。


三戦目。


ピッ。

ストップウォッチを止め、友香は膝に手を当てて肩で息をする涼を見下ろした。
「第三戦、勝者は霜月君と」
王へ挑戦リストをチェックして友香は数秒遅れて入ってきた辰希を見る。
「ちくしょ・・・」

 心底悔しい。

感情を露にして顔を歪める辰希だが、負けたことに対して文句は言わない。
勝負は勝負。男としての引き際を弁えている不思議な少年。
なんとなく見捨てて置けない雰囲気があり、多分友香が感じるように涼も似たような感覚を抱いているのだろう。
そうでなければわざわざ一生徒の挑戦を王自ら受けるわけがない。
まして。
「真夏の100メートル競走なんて・・・呆れちゃうよ」
濡れタオルを涼へ手渡し友香はため息をつく。三人を照らす真夏の太陽が肌を射した。
「・・・ま・・・男は・・体力勝負ってな・・・部分もあんだよ」
濡れタオルを頭から被り涼は小さく肩を竦める。
隣では辰希も同感のようで深く何度も首を縦に振っていた。


第四戦目。


カリカリ静かに紙に鉛筆が走る音。
モデルとなった演劇部副部長(女子生徒)、ロミオとジュリエットのジュリエットに扮して立ち続けること数時間。
「本当、申し訳ないです」
彩がジュリエットに先ほどから同じ言葉で何回も謝罪する中、涼と辰希は真剣にスケッチ。
未唯と友香は二人の描くスケッチに首を捻る。
「ねぇ、友ちゃん。シュールな絵だよね」

ヒソヒソ。

二人の集中力をこちらに向けぬよう、小さな声で友香に囁く未唯。
「シュールって言うか?抽象画?なんか副部長ジュリエットに悪いよね」
涼と辰希の描く副部長ジュリエットを見比べて友香が未唯へ言葉を返す。
「「モデルになるの断ってよかった・・・」」
微動だにせず立ち尽くすジュリエットを見つめ、未唯と友香はほぼ同時に同じ言葉を呟く。
そんな中相変わらず彩だけは。

「す、すみません・・・」
ひたすら副部長ジュリエットに謝罪していた。
四時間も待たされて(立たされて)描かれた絵はお世辞にも人には見えず。
一応二人の絵を公開して投票する形式を取ったのだが。
あまりの絵の出来の悪さに、勝負自体がノーカウントとなったのだった。

「絵心はお互いにナシ」
涼と辰希の絵をよろづ部部室前から取り外し、悠里が結論を下した。


第五戦目。


敢えて悠里は口コミ情報にだけ頼って正解だったと痛感する。
「ええと?『王の親切:お祖母さんの手を引いて横断歩道を渡っていました』だって」
未唯がPC端末を操作して情報を読み上げる。
「こっちはね。『挑戦者の親切:飼育小屋の餌遣りを手伝ってくれました』だよ?」
友香も同じくPC端末を操作して、画面に表示される情報を読み上げた。
「ふぅん?涼は内外で親切をするけど、麻生君は完全に内だけなんだね」
海央生徒達による口コミ親切情報。
より親切な方が勝ちとなる。
全ての口コミ情報を聞いた和也が笑顔のままきっぱり言い放つ。

勝負判定の場となった中等部生徒会室は瞬間的に凍りついた。
辰希が顔を強張らせる。

「見えるトコだけでの親切は、ポイント稼ぎみたいに思われることもある。麻生君が狙って親切してるわけじゃないのは分かる。でも、気をつけた方が良いよ?」
至極当然の意見を忠告交じりで発言できる存在。
伊達に王子を名乗ってはいない和也の忠告に辰希が項垂れ勝敗が決する。
「しょ・・・勝者、霜月君」
和也の只ならぬ気配に少々腰が引けつつ、審判役の生徒会長が震える声で宣言した。


第六戦目。


赤ペンを走らせ和也は懸命に笑いを堪える。
頭脳勝負で行った模試。
涼と辰希が記した珍回答に和也の顔は真っ赤だ。
「・・・ぷっ・・・君達って案外気が合うよね」
震える声で涼と辰希へ声をかければ、二人は同時にそっぽを向く。
友香も涼と辰希の答案を覗き見て盛大に笑った。
「ちょっ・・・いくらなんでも駄目っ!!笑える〜!!」
目に涙まで溜めて笑い続ける友香に、涼と辰希は気まずい顔つきで肩を落とす。
「頭が悪いわけじゃないんだろうけどさ?興味のない教科は手を抜くっていうの、良くないと思う。将来困るからね」
勝者は2点差で涼だよ。
続け宣言して和也は涼と辰希へ答案用紙を返す。
「頭の良さまで競うのは公平でしょ?体力だって競ったんだから」
笑いながら友香に言われ、反論できない涼と辰希であった。





既に名物(?)化しつつあるように見受けられた勝負。

ある日の放課後、悠里は辰希を校舎屋上に呼び出した。

「もう満足だろ?」
迫りに迫った夏休み。その前に辰希を宥めようと、悠里なりの優しさ。
「まだまだ!勝負はこれからだぜ」
切り出した悠里の言葉に反して、熱血モードで拳を振り上げる辰希。
「・・・本当は分かってんだろ?どんなに吼えたって涼には勝てないって」
たとえ勝ったとしても学園の総意は覆らない。
一見ガサツで無骨な性格の辰希だが真っ直ぐすぎる気質は好感が持てる。

悠里としては無理するなと言葉をかけてやりたかった。

「お前みたいに頭の良い奴は、簡単に計算したりしてよ。考えたりして諦められるんだろーけどなぁ。俺は頭が悪い。だから心の底から『納得』できないと止められねェんだ」
辰希は真っ直ぐな瞳で悠里を見据える。
悠里は辰希の前向きさとひたむきさに絶句。

説得しようと頭に浮かべていた言葉が飛んだ。

「ま、そーゆーコトでいいじゃねーの?」

 ギィ。

屋上へ繋がる扉が開いて涼が姿を現した。

「でも俺としては宰相の心配も考慮して。こういう結論に落ち着いた」
すっと涼が辰希へ紙切れを渡す。
「俺を・・・?」
紙へ目を落とした辰希が驚いて涼の顔をまじまじと見る。
「この方が白黒付けやすいだろ」
ニヤリと様になるシニカルな笑顔。
湛えたまま涼はさっさと屋上から退散した。

「流石は学園の総意・・・だけあるよな」

『麻生 辰希を本日付でよろづ部有志メンバーと認定する 二代目王・霜月』

書かれた紙切れを太陽に透かし辰希はなんだか嬉しそうに笑う。


こうして新たなよろづ部メンバーが一人加わったのだった。


そんなこんなで新しいメンバーが加わりましたっ。今までの流れで行けば異色キャラ?熱血少年辰希をよろしくお願いします〜。ブラウザバックプリーズ