白紙の部日誌  『密談』



32世紀の地球。

それなりに宇宙へ飛び出した人類は、それなりに異星人と接触を果たし、それなりに交流を深めている。

そんな微妙に平和のようなそうでないような時代。

そんな社会情勢とはまったく無縁で居られるのは子供。

しかも住む地域の治安が安定している子供、といえよう。

比較的治安が安定している島国・日本。
場所は神奈川県の横浜市。

関内。

今、人気のない部室に忍び込むように入ってきた少年。

彼も『そんな社会情勢』とは無縁の部類に入るであろう世界に暮す少年だ。

春休み中にも関わらず律儀に制服まで着込んだ彼の名は『井上 悠里(いのうえ ゆうり)』

ノンフレーム眼鏡に、典型的『日本人』の特徴である黒髪・黒目。
少し利口そう見える太目の眉・全体的にひょうきんな印象を受ける顔立ちをしている。
この春から中2となった新聞部のエース。
でもあり関内にある有名私立『海央学園(かいおうがくえん)』の幼等部からの持ち上がり組。

『宰相』の異名を持つ、ある意味頭の切れる少年である。

悠里が新聞部部室に足を踏み入れたとたん、備え付けの電話のベルが鳴った。
動じることなく、寧ろ酷く楽しそうに唇の端を持ち上げ。
もったいぶった動作で悠里は電話のスイッチを入れた。

《やあ!》

電話。

といってもこの時代ではTV電話ですらレトロで。
標準的なものとしては、壁に取り付けるくらい薄い形の簡易電話。
最新でいえば立体映像の電話。音声操作メインで動くものばかり。
スイッチがついている電話というものやや古い部類に入る。

ともかく。画面の向こうには悠里の良く知る人物が呑気に手を振っていた。

「久しぶり、我らが王(キング)よ」
オペラの役者のように両手を広げ、首を左右に振りつつ悠里は人物の名を呼ぶ。

《相変わらずだな〜、宰相は》

王(キング)と呼ばれた子供はクスクス笑った。
悠里は恭しくお辞儀をし、手近な椅子を引き寄せ腰掛ける。
「王こそ相変わらずそうだな?」

《まぁーね》

互いに極秘プロジェクトを進める者同士。

なにより幼等部時代に数々の『伝説』を作り上げた仲間同士。
遠い場所に居ても結束は固い。
悪友同士なのだ。2人は顔を見合わせ同時に噴き出した。

《悠里、早速で悪いんだけど『例の件』はどうなってる?》

直ぐに表情を引き締めた王は真顔で悠里へ尋ねる。
「この俺に抜かりがあるとでも?」
この手の会話は慣れたもの。悠里は王の疑問に疑問系で答えた。

《ほーんと。悠里と話すのは楽だね》

悪戯っぽく瞳を輝かせ王は満足そうにうなずく。
「お褒めに預かり光栄至極」
悠里が得意とする古典的言葉遣いでの返答。
彼の癖を知る王は黙って肩を竦める。

《じゃあ予定通りに頼んだよ。予想した通りになったみたいだし?このままにしておいたら勿体無いもんね〜》

一枚のディスクを手にした王は見えない不思議な力で、ディスクを何処かへ消した。
と、まったく同じ形状のディスクが悠里の膝の上に落下する。
「了解。王が予想し俺が展開できる範囲でコトを運ぶぜ。ただし、後は彼等の判断に任せる。流石に俺だって面倒見切れないしな」
悠里はディスクを拾い上げ、取り出した己のPC端末へ落とし込む。

《お主も悪よのう》

にんまり笑い王は悠里へ言った。

「いえいえ、王ほどでは・・・」
冗談交じりにとぼける悠里。

《後はよろしく》

ピーっという電子音が鳴って、悠里のPCにディスクの情報がダウンロードされた。
確認してから王は最後の一言を発する。

「へいへい、頼まれたぜ」
かつて、現在も尚『海央のカリスマ』と謳われる王(キング)。
現在も『王(キング)の頭脳(ブレーン)である宰相』こと悠里。

この2人が『画策』するものとは!?


前2作分の謎部分を解明すべく始まりました(爆笑)よろづ部。ごった煮物語で不定期ですがお付き合いいただければ幸いです。ブラウザバックプリーズ