この世の者ではない異界の住人『妖』(あやかし)

人々の負の感情に寄生し、精神・生命を脅かす・・・。

『妖』から人々を守り、妖自体を封印・消滅する『妖撃者』(ようげきしゃ)

彼らは今日も闇に蠢く異界の住人と対峙するのだった。

 

第五話『鬱』

地球は日本。
首都東京のお隣神奈川県。
県庁所在地・横浜市。

今回は所変わって高級住宅街。
繁華街・関内とは違い、閑静な住宅街である。
梅雨も明けきり日差しに目を細める少年が一人。

右目を隠した長い前髪が特徴の彼は、問題児の師匠。
水流 氷(みずながる こお)その人。

前世が妖撃者の長という胡散臭い肩書きを持つ。
氷自身は気にも留めないが周囲の評価は上々。
『凄腕妖撃者』のありがたくもない肩書きまで付く始末。
不出来な弟子の後始末に奔走した結果頂戴した、半ば、不名誉な肩書きでもあるからだ。

「いつ来ても。あんまイイ感じじゃねーな」
大きな門構え。純和風の屋敷。
木の塀から飛び出た松の枝。
場所によっては紅葉・椿・梅や桜。なども拝めたりした。
重厚な雰囲気がひしひし伝わる屋敷である。

作法や慣習、なんて言葉を嫌う氷には鬼門のような場所だ。

「あ〜。肩凝った」
首を回す。ボキボキっという、骨が軋む音がした。

数分前。長であり弟子の母親と会ったばかり。
彼女とは顔見知り。
氷自身が『初代の生まれ変わり』と、騒がれた当時。
氷の心情を配慮して海外移住を勧めた人物でもある。
若年ながらなかなか出来た若長だった。

現在長となった、彼女の話。

「三妖姫(さんようき)か」
前世の記憶と照合しても。
あの三人姉妹(!?)妖は厄介だった。

 − おそらく。彼女たちの狙いは和也。あの子を引き入れること。
    いえ、取り戻したいのかもしれません −

目じりに一杯涙をためて。長は和也に話を切り出した。

 − 出生の因縁がどうあれ。和也はわたしの子供です。
    親のエゴだと、大人の浅はかな短慮だと。思ってくれても構いません −

彼女もまた必死だった。
気丈にも涙を流さずハンカチで目元を拭う。

 − けれど、渡すわけには。決して、あの子を奴等に渡すことなど。
    出来ない。
    我が子にどれほど罵られようとも。和也には、自身で選んだ道を歩いて欲しい。
    自分の翼で飛びたてるまでは・・・守り通したいのです −

 だから、どうか。

彼女は土下座までして氷に懇願した。

 和也を護って欲しい。どんなに怨まれようとも。覚悟はしているから、と。

彼女とその夫は揃って氷に頭を下げた。
長が部下に頭を下げる。
妖撃者の完全縦割り社会に於いては異例の出来事だ。

 元よりそのつもりだ。でなければ、和也の師匠役など引き受けるものか。
 長の頭のてっぺんを見つめ、思った氷だが、あえて口に出すほど子供じゃない。

無言でうなずいた。

「はぁ〜」
三妖姫は怖くない。実力的に氷が圧される事はないだろう。

『三妖姫』
妖の中でも十本の指に入る実力者。人間でいう三姉妹。
外見が美しい女性の姿で中身が残忍。
上位の妖としては、まあ、お約束な性格の持ち主達。
ケタ外れに近い妖力を持ちただの妖撃者なら間違いなく屠られる。
興味本位で突いて良い相手ではない。

前世で戦闘経験がある氷の正直な感想だ。

「俺も、真面目に頑張ろう」

先月発生した謎の和也襲撃事件。
燃え尽きた氷手作りの呪符。
和也が行使した異質な陰の力。
謎の帽子少年。
自分に疑問を抱き始めた和也。
和也の秘密が露呈するのを怯えるコマ。
傍から見ていて二人は最近痛々しい。

住宅街の広めの道路を最寄り駅に向かって歩く。
湿度と暑さが増す七月中旬。
アスファルトの熱で肌が焼ける。
体中、汗をかきかき氷は憂鬱そうにため息を漏らした。

気の早い蝉が、どこか高いところで鳴いていた。

「せめてアイツが、もう少しましだったらな〜」
氷の教えもかなり型破りだが。
それはさておき。
苛立ちは、可愛げがなくなっていく弟子に向けられる。
自分が和也くらいのときはもう一人前だったから余計だ。
「・・・」
>氷はこの日何度目かのため息を吐き出した。

 《本当。困りましたわ》

心底弱り果てた女性の声。
氷の心情に同意する。
「わざわざご足労頂くとは。勿体無い心遣いだ」
氷が頭を左右に振り肩をすくめた。

 《ふふふ。相変わらずですのねぇ?キヨイ殿は》

女は愉しそうに氷の名を呼ぶ。
「前世はキヨイだけど・・・今は違うぞ?」
前世の名前。戦い続ける毎日。死にゆく仲間。
脳裏によぎる過去の情景に、氷の心中は穏やかではない。
勿論、そんな素振りは見せず。両手を広げて氷はおどけた。

 《失礼いたしましたわ。あれから三千年と少し。人の世の、なんと移ろいやすきことか。目覚めてみて、驚きました》

「かもな。生活も何もかも。あの頃とは違う」
感慨深い女に氷が少しばかり肯定の意を示した。

 《そう、あの頃とは何もかもが。けれど、待った甲斐があったものです》

あの頃をやけに強調する。

「悪いな。あれは、アイツが望んだ結果だ。俺等が、どうこうしたわけじゃない。アンタが知らない訳じゃないだろう?」

 《・・・》

軽い浮遊感。エレベーターに乗って、下に降りていく時。
無重力になって少し身体が浮かぶ。
そんな感じのものだ。
あれよ、あれよという間に色を失う住宅街。
静かながら聞こえていた人の声。時折通過するバイクのエンジン音も途切れた。

 《因縁、ですわね。因果は巡るんでしょうか》

真夏日に近い気温の今日。
色彩が失せた世界の温度もジリジリ上がる。

「過去は過去。今は今。キヨイは死んだ男の名前。アイツも、もうこの世にはいない。アンタが見てるのは幻さ。性質の悪い幻想だよ」
氷が額の汗をぬぐう。Tシャツも汗に濡れてグッショリ。

 《幻?》

ぼぼぼぼ。

コンクリートの歩道。
道路の舗装部分から。火柱が上がる。青白い高温を示す炎。
氷の背丈ほどある。
身じろぎもせず氷は揺らめく炎を眺めた。

「うちのお偉方も。アンタ達も。還らない昔を、求めてるだけさ」
火柱が氷を包むように牙をむいた。氷は動かない。
「無駄だ。俺の包み焼きなんて、アンタらしくもない」
氷が指先で火柱に触れる。炎は霧散し、跡形もなく消えた。

 《人ではなくとも。感情はありますわ、氷殿》

女の声に殺意が篭る。

氷は右目を隠した前髪を掻き揚げる。
己の容姿と共に封印してある本来の力。
今回ばかりは手抜きで勝てる相手じゃない。
身体の奥から湧き上がる力の奔流と、軋む肢体。

「それは悪かった」
低い、落ち着いた男の声。
目線もはるかに高くなった。
氷はもう一度、うっとおしい前髪を掻き揚げる。

 《いいえ、お気になさらず。こちらにも都合がございますもの》

「早い段階で俺を葬る都合か?」
氷は片手だけを腰にあて、薄く笑う。
彼女達が邪魔だと考える人物。それが氷だ。
妖撃者の長ではなく自分達の目的と力を知る氷だけ。
確実に取り戻すために。

 《ふふふ。相変わらず察しの良い御方》

炎は尚も激しく燃え上がり、氷を絡め取ろうとしなやかに触手を伸ばす。
氷は右手人差し指・中指を揃え、空気に文字を描く。

地面が揺れる。

見えない何かが激突。何度も、何度も。
地底から突きあがる衝撃。
火柱が主の動揺を示すように小さくなった。

「コレは挨拶代わりだ」
左右に右手を払う。地面の揺れに加え空間が青い色に侵食される。
女が氷を閉じ込めた結界が、氷の力によって更に浸食されているのだ。
閉ざされた空間を再構築する能力。
半端じゃない。

火柱が青い光に包まれカチカチに凍りつく。
熱かった空間が見る間に極寒の世界へ早変わり。
気候上、夏へ近づく七月。涼しくもない横浜の住宅街。
気脈的には氷より炎が勝る。

なのに敢えて氷の術を使い相手を威嚇。
無駄に氷は強いわけではない。
相手への心理効果とプレッシャーを考えての戦略だ。

 《ご丁寧だこと》

皮肉を込め女が応じた。

「感じ取ってくれて嬉しい限りだ」
氷の身体を護るように。
氷により呼び出された氷竜と風竜が何匹も周囲を舞う。
ざっと見、少なく見積もって十匹とちょっと。

 《不本意ですけれど》

どす黒い靄が、空一杯に渦巻いて瘴気を放出する。
禍々しい気は氷の身体へ圧力をかけた。
重圧が氷を襲う。
氷の周囲を漂う竜がかき消えた。

「ふぅ。引いてはくれないか」
体重何倍かの圧力を受けつつも何処吹く風。
飄々とした態度を崩す事無く氷は立ち続けた。
彼女の攻撃は痛くも痒くもない。
無論、瘴気に当てられることもない。
「戦わなくて済めばラッキーとか、思ってたんだけどな〜」
面倒臭そうに氷は頭をかいた。

二十八にもなれば仕事は仕事と割り切るようになる。
選ばれた使者だからとか、正義感からは程遠くなる思考回路。
とはいっても、子供の頃それなりに夢は見ていた。
『自分も、この世界を護るんだ』と。今となっては懐かしい、氷の熱血少年時代だ。

最も前世の記憶が覚醒するまでである。

「あー、メンド」
大あくびを漏らし氷は両手を組んで腕を伸ばす。
首を左右に振り身体を軽くほぐした。
ついでに両足もブラブラ揺らし、筋肉をほぐしておく。

「ほんじゃま、いきますか。最高の敬意を払って俺も遠慮せずに。な?」
氷は右手首を回し不敵に微笑んだ。

 《光栄ですわ》

静かな口調の呟きが返される。

「我、癒す者なり。我は望む。我は求む。たゆたう輪を巡り、我が声に応え現れ出でよ」
蒼一色。
黒い靄さえも蒼く染まる。視線で見える範囲も全て蒼。
水中にいるような錯覚に陥る視界の揺らぎ。場そのものに、圧倒的な氷の力が満ちる。

 《ふふふ。お得意の氷ですわね?》

「我、飛翔する者なり。我は望む。我は求む。浄化の焔を吹き上げ、我が声に応え現れ出でよ」
マーブル模様。蒼い絵の具に、少量の赤い絵の具を落とした抽象画のような光景。
蒼の世界に赤が加わる。

「我、守護する者なり。我は望む。我は求む。双璧を成す轟きを響かせ、我が声に応じ現れ出でよ」
次に加わるは、茶色の絵の具。

「我、疾風の者なり。我は望む。我は求む。不浄を切り裂く大気を纏い、我が声に応じ現れ出でよ」
緑色が混じった。

 パンパン。

氷は両手を叩き合わせ印を組む。

「我、楔となりて扉を開く。四界開扉」
空間の歪みが、集束。氷の放つ術に吸い込まれる。
しかも、空間封印の形を留めたまま氷の組んだ両手に吸い込まれるのだ。

 《わたくしの空間がっ・・・》

女の妖力も放った瘴気も何もかもを。
氷の術は包み込み・捕らえ・浄化してしまう。

「元祖は俺だって忘れてたかな?アンタ等の世界と、こっちを区切る術を編み出したのって俺だろ」
妖と妖撃者。
彼らが凌ぎを削り戦った過去。

初代妖撃者の長は成功した。
異界とこちらの世界に門を設けることに。
多大な犠牲を払ったものの、妖を異界へ押し戻した彼の功績は偉大であった。
前世の記憶を残し、かつ、力も当時と同等な氷。初代と同じ術を使えるのは当たり前。

全ての属性攻撃を使用でき、さらに門を開くほどの力を持つ、氷の荒業でもあるが。

 パンパン。

再度、氷が両手を叩く。
浄化の力は開いた門の向こう側へ全てを押し戻した。
姿を見せない女ごと。

世界が色を取り戻す。
蒸せる暑さ。熱気で揺らめくアスファルト。
火傷しそうな熱さを孕む、太陽光線。

見知らぬ家の庭から生えた木の影。
木陰には猫が寝そべり眠っていた。
氷が派手に術を繰り出したことさえ、感じることのない平和な空気の中で。

「建前的だと。門の術は、長しか使えない。そうなっているから、使いたくないんだけどな」
素早く自分の能力を封印し氷は愚痴を猫に零す。
が、猫は昼寝を堪能中。
悩める大人子供の声に応えたのは、蝉の鳴き声だけ。
「あ〜、憂鬱だ」
精神的疲労を溜め込み氷は家路に着いた。





同時刻。関内のとあるマンション。
発売当時は、最新鋭のセキュリティーが売りだった中古マンションの最上階。
六階のやや左より。

悩める師匠の不出来な弟子。
長の次男坊、星鏡 和也(ほしかがみ かずや)が暮らす家である。

「あづ〜」
扇風機の目の前。
少年が大口を開き声を風で震わせ遊んでいる。
微妙にビブラート気味な声音で、『暑い』を連発。
今日は土曜日、通う私立小学校は半日で終了。
午後一杯は空き時間となる。

普段は訓練漬けの半日だ。
しかし、師匠の都合で訓練なしの休み状態となった。
『暇な時間』を久々に堪能する和也だが・・・。

気温・湿度共に上昇中のコンクリートジャングル。
緑の少ない低めのビルが密集する繁華街、関内。
ヒートアイランド現象で熱せられた空気が空高く舞い上がっていた。

「あ〜づ〜い〜」
自棄を起こして、しつこく連発。
低い恨みの篭った和也の声だけが居間に響く。
『駄目です。初代様から、クーラー使用は禁止されています』
フローリングの居間を、黒い毛並みのラブラドールがトコトコ歩いている。
黒は日光を吸収しやすい色だが、熱いような素振りはない。
「コマは霊犬だから、気候とは無縁だけどさ〜。僕は人間なんだよ〜」
語尾を延ばす和也。
だらしがない事この上ない、だらけモード。
『床に寝転がるなら、ソファーに寝てください』

彼女は、和也一筋七年。

見習い妖撃者、和也の相棒霊犬(れいけん)コマである。

忠犬コマは鼻面を和也の肩に押し当てた。
扇風機の前で今にも溶け出しそうな主を移動させるべく。

「ヤダよ〜。ソファーカバーが熱いから」
うつ伏せで腹ばい状態のまま、和也が両足をばたつかせた。
さり気なくコマの身体を腕で押し退けようとしている。
『まだ分からないんですか?』
コマは嘆息した。
「はぁ〜?」
えらく間の抜けた調子で和也がコマの顔を見る。
妖撃者としての品位に欠けるグータラ振り。もとい、 −誇りを持って仕える主のヘタレっぷりに− 目に余る自堕落ぶりに、コマの瞳が潤んだ。
『よろしいですか?和也様は妖撃者です。術が使えます』
気を取り直しコマは和也に話始めた。
「うん」
『現在は初夏で、炎の気が強くなる時期です』
「うん」
『平たく言えば、炎の術は扱いやすく、対極の氷が使いづらいのです』
「それで?」
『気候に左右されず、術を使用できるのも一人前の証拠。暑いのなら、冷ませばいいのです』
和也の腕にあたるコマの前足裏の肉球。
「それってさ、氷の術を使って室温下げろって意味?」
術を私用に使うのは禁止だったような。
ツラツラ頭で考え、和也が首を傾げる。
コマは鼻息も荒くうなずいた。
「・・・僕は、てっきり」
フニャけた笑みを口許に張り付かせ、和也がだるそうに口を開く。
「心頭滅却すれば火もまた涼し。とか、言われるのかと」
氷の大人口調を真似てみる。
和也の呟きにコマは曖昧に笑った。

過保護。氷に常日頃、揶揄されるコマであるが。
梅雨時に起きた謎の襲撃事件から、過保護度はアップしている。
なんだかんだ小言は喋るが根本的に和也に甘い。

コマは白黒ハッキリさせる性格で、嘘や隠し事は嫌いなタイプ。
そんな彼女が自分の顔色を伺い、一歩ひいた態度をとるのは・・・。
なんだか嫌だ。
和也が子供だから。一人前ではないから。
と、疎外されている気分になる。

一方的に護ってもらいたいんじゃない。
一人前になれるように協力して欲しいだけ。
一緒に頑張りたいだけなのに。

『和也様を一人にしてしまうかも、しれません』
遠くを見つめ、ポツリとコマが呟いた。
『私は自分でも思ったほど、強くはありませんでした。和也様の足手纏いにしか・・・なりませんでしたから』
コマは自嘲気味に鼻を鳴らす。
今度は和也の腕に頭を摺り寄せた。
『和也様が見知らぬ女に盗られるまで、私が生きている保障なんてなかったんですよね。あんまりにも穏やかでしたから、忘れていました』
「見知らぬ女って・・・僕に彼女ができて結婚するまで?」
コマの母性本能剥き出し発言。
和也はキョトンとした顔になり、コマの方へ身体を起こす。
『和也様のお子様も、許されるなら私がお世話したいくらいです』
コマの湿った舌が和也の指先を掠める。
『ですが、私は和也様の足を引っ張ってしまいます。霊犬として、和也様の補助として。己を自重自戒してきました。なのに・・・』
「大丈夫。コマは死なない。僕が護る」
コマの首筋に抱き付き、和也はコマの話を遮る。
コマの身体は暖かい。
むしろ熱かったが和也には関係ない。
あの時の動かないコマを思い出し、熱気を忘れる。
「コマは僕の家族だから。だから彼女が出来たら紹介したいし、結婚式にも出て欲しい。子供だって抱いて欲しい。絶対、長生きしなきゃ駄目だ」
コマは恥じている。
主を護れなかった、己の醜態を。
悪戯に和也を混乱させ、悲しませた事実に凹んでいるのだ。
『和也様・・・』
感激屋のコマは涙声。
和也の励ましに感極まる。
尻尾が床の上を何度も往復した。
「僕も強くなる。師匠に鍛えてもらって、早く一人前になるよ」
そうすれば。自分の心の棘も。

不思議に思った事も、全て教えてもらえる。
一人前になった時の約束を思い起こし、和也は俄然燃えた。

『私も頑張ります。最後まで諦めたら駄目、なんですよね?』
「うん!」
和也とコマは笑い合った。
「やってみるよ?コレも訓練のうちと思って、氷の術を使ってみる!」
和也は力強く宣言した。コマが床を叩いて拍手を送る。
いつもの調子を取り戻した和也は、得意満面で印を組む。
「快適生活目指して、頑張ろうっ!」
コマの提案とは趣旨が違う。

快適生活に術を使えとは誰も言ってない。
どだいこの程度の訓練で、和也が一人前になるのなら。
凄腕師匠は苦労などする訳がないだろう。

お気楽思考回路コンビである。

残念ながらこの場でそれを指摘する第三者はいなかった。




−数時間後。

疲れて帰宅した師匠が見たものは。
涼しい冷気に包まれ。
居間で仲良く眠る犬と弟子の姿であった。

「こいつらは平和だな」
和也とコマ。

互いに支えあう主従関係。
お互いを大事にしすぎて空回りするものの、性格の相性が良いせいか?
喧嘩にまではあまり発展せず、家族以上に家族らしい雰囲気を醸しだしている。
自覚もなしに。

「早く一人前にしよう、こいつを。俺も平和を満喫したい・・・」
師匠は決意も新たに固く誓う。

早く自分も『昼寝を楽しめる身分』になりたい。

と、願わずにいられない、氷の初夏の一日である。


初代主人公組の氷さん。(当時小三位かな)個人的には懐かしい(おいおい)戦う姿にも懐かしい。毎度ながらここまで読んでお疲れ様です&感謝!ブラウザバックプリーズ