第二話『失』



この世の者ではない異界の住人『妖』(あやかし)
人々の負の感情に寄生し、精神・生命を脅かす・・・。
『妖』から人々を守り、妖を封印・消滅する『妖撃者』(ようげきしゃ)
彼らは今日も闇に蠢く異界の住人と対峙するのだった。


地球は日本。
首都東京のお隣神奈川県。
県庁所在地・横浜市。場所は関内。

「海のばーかーやーろー!!!!」
山下公園で絶叫する少年が一人。

艶のある黒髪。ショートボブに近い長さ。
切れ長の瞳に絶妙なバランスの二重。
長い睫毛と、どちらかと言えば甘いマスクに成長するであろう予感を抱かせる二枚目顔。

本人が醸しだす『ほや〜』とした雰囲気と相俟って、育ちの良さを感じさせる少年である。

斜め前方に氷川丸を望みつつ、恨み節を炸裂。
灰色に塗り込められた空間。
目の前の緑色の海も凍りついているが雰囲気だけは抜群で、少年的には『失意のドン底』をアピールするには十分すぎるシュチュエーションなのだ。

「青春なんてーだいっきらいだー」
某人気番組。
学校の校舎屋上から叫ぶソレよろしく、腹の底から絶叫。
固く決意が刻まれた顔から最後に発する言葉。

「ししょーのーうらぎりものー!!」
締めくくりに叫んだ。

『新婚旅行くらい良いじゃないですか?二十数年越しの恋愛だったんですし』
呆れた顔で取りなすのは黒い犬。
ラブラドールで赤い首輪をつけている。
「でもさ?普通、傷心の弟子をおいて一人でさっさと幸せになるのって冷たくない?仮にも・・・手塩にかけた弟子が衝撃の事実を知って、立ち直りかけてる大切な時期なんだよ?」
かつて無い形相で犬に詰め寄る少年。
犬は足の間に尾を挟み、ニ・三歩後退した。

少年の師匠。
その婚約者。(今は奥方だ)は、臨時教師をしていた新婦の都合で結婚後二ヶ月たったこの十月になって新婚旅行へ。
弟子である少年は無論留守番。
少年が抱える不安定な立ち位置を綺麗サッパリ無視して奥さんを取った師匠は『お土産期待してろよ』等と。
それは幸せそうに旅立って行った。
二日前のことである。

そんなわけでちょっぴり傷心であったりする少年・見習い妖撃者星鏡 和也(ほしかがみ かずや)。
ただ今小学五年生。

「あんまりだよ〜。弟子は放置して二人でラブラブ新婚旅行なんてさー。僕だって海外旅行がしたいっ!羨ましい!ヨーロッパ周遊だよ?」
握り拳片手に和也力説。
『このまま空間を閉じているわけにもいきませんし。十番館にでもよってケーキでも食べて帰りましょうか』
犬は鼻の頭を一舐めして結論を下した。
彼女は小春=コマ。通称コマ。
和也の同居人兼保護者。
霊犬という種族で和也一筋七年間。優秀なスーパー家政婦さんでもある。
『ケーキ』の単語に和也はケロリと機嫌を直した。
「ほんと?十番館に寄ってっていいの?ラッキー」
殺気だったオーラが消し飛び『ケーキ食べてまったりしよう』モードへ移行。
いつもの和也へ元通り。フンワリ・ホンワカ空気を纏ったお坊ちゃんが出来上がる。
『お姉さん的存在を盗られて、悔しいのは分かりますけど・・・』
ケーキとつり合う和也の師匠と奥方の立場を考えると。
機嫌を直した和也を素直に喜べないコマだった。
「ほら〜!早く行こうよ」
和也はコマを急かす。
ケーキは逃げないだろうに待ちきれないのだ。

コマは密やかに小さく息を吐き出すと意識を集中させる。

見る間に犬の姿が大気に溶け次の瞬間には一人の女性が同じ場所に立つ。

年齢は二十四歳前後。百七十近くあるモデル並の長身。
肩までの黒髪をゴムで一つに結んでいる。
切れ長の黒い瞳。短めの睫毛。
顔立ちは純日本人で、日本画に出てくる美人絵図の雰囲気を持つ。

「では参りましょうか」
コマが拍手を打てば空間は色を取り戻す。
止まっていた人々も歩き出し、何時もと変わらぬ町の喧騒が耳に飛び込む。
手を差し出すコマ。
和也はニコニコ上機嫌でコマと手を繋いで関内駅方向へ歩き出した。
「持ち帰って食べても美味しいけどさ。やっぱりその場で食べるのが一番だよね〜♪」
勢い良くコマと繋いだ手を振って。和也は年相応の子供の顔。
「そうですね」
コマが相槌を打ち、優しい眼差しで和也の頭のてっぺんを見下ろした。
夏までのギスギスした苛立ちが消え、今は本当の意味で自分探しをしている和也。
その成長を喜びまた同時に少し寂しい。

コマ、遅ればせながらの『子離れ(?)』らしき感覚を味わう。

「あ・・・れ?」
山下公園を抜け、県庁前を通過。
歩く二人の前を横切る中年男性。
ヨレヨレのスーツに焦燥しきった表情。
昼間の明るさとは正反対の暗いムード。

神経の先を擽られるようなまどろっこしい感覚に、和也は立ち止まる。

「和也様!」
窘める声音のコマもなんのその。
しっかり無視してポケットから取り出すのは一台の携帯電話。
「!?」
コマが驚愕した。
「駄目じゃないですか!初代様が置いて逃げた、初代様の携帯電話を無断で持ち出したりして」
「ストーップ!お小言なら後で聞くから。師匠は仕事がしたくなくて、国際電話対応の携帯置いていったよ。呼び出し喰らわないように。でも、きちんと隠しておかなきゃね〜」
取り上げようと手を差し出すコマから逃げて、和也は反論した。
「僕は僕の判断で無茶する。後で一緒に怒られて?」
上目遣いにコマを見上げ、両手を合わせてお願いポーズ。
トドメに『ね?』なんて愛くるしく笑えば効果は覿面。
コマは形だけ額に手をあて嘆息しつつも、和也のお願いに心が傾いでいる。
「ですが・・・」
「コマがフォローしてくれたらより安全だと思うし」
和也、策士である。
眉間に皺を寄せ唸るコマが渋々首を縦に振った。
心の中でガッツポーズを決めた和也は、携帯のメールチェックを始める。

『偶(グウ)発生。憑依の可能性高し。早急に調査・報告』

簡潔なメールが一件。

「ふぅん?中級妖『偶(グウ)』が人に憑依か」
すれ違ったサラリーマンから滲み出る妖の気配。
和也は生気のない男の目が血走っていたのを思い出した。
「あのオジサン。憑依されちゃってる?」
和也が半ば断定的懐疑口調でコマに問えば、「おそらく」と返事が返る。
「すれ違い様に呪符を貼っておいたんだ。呪符の気配でも追いかけてみよーか。嫌な予感がする」
迷わず歩き出す和也に諦めて。
コマは一緒に怒られようと決めた。
頑固な和也を説得できる自信もなければ、和也を見捨てることもできない。
「・・・甘いですね。つくづく」
和也の師匠に揶揄されるが、コマは和也に甘すぎるらしい。
少しばかり自覚が芽生えたコマは、ゆったりとした足取りで和也の後を追った。





うつろな眼差しで建物を見る。
周囲の高いビルに囲まれたソコは、日陰になっていて少々薄暗い。
背を丸めて歩く陰のある人々。
逆に食い入るような眼差しでファイルを捲る女性。
危機感もなくタバコをふかす青年に、携帯電話でメールを打つ制服姿のOL。

「・・・」
 丁度良い。

焦り・焦燥・不安・苛まれる負の感情が心地よい。
顎に手をあてニヤリと笑えば、すれ違った同世代くらいの男性に怪しまれた。
不審そうにこちらを見るその目に・・・。

「「・・・」」
 これで出来上がり。

隣接するビルの屋根。
群れを成してとまる鳥たち。
よくよく観察できればソレがただの『鳥』ではないことに気がつくだろう。
だが。
現実に忙しい者の常、空を見る物好きなどココにはいない。

会場は二階。
騒がしい一階を後にして二階へ登る。
エレベーターは使わず、階段で登る。途中。
階段へ差し込む光。
古ぼけた窓が数個。
窓枠へとまった鳥が黄色い瞳の真ん中にある瞳孔を大きく縦に開く。
顎先で方向を教えれば飛び立っていった。

 上出来だ。

全身の血流に乗って沸きあがる高揚感。
薄くなった頭を撫でる指先にも漲る力。

 悪くない。

二階へ到着。説明会と銘打たれた張り紙を確認。
パイプ椅子がならぶ会場へ足を踏み入れ一番後ろの奥。
目立たない席を選んで腰を降ろす。

「・・・」
同世代の男も少し遅れて登場。
操り人形のようにフラフラ蛇行して歩き、一番前の席に腰掛けた。
建物の天井に降り立った複数の気配。
興奮して汗を掻く。
そんな様(さま)を同情した目で見つめる中年女性職員。

 違うのさ。

喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
仕掛けは万端。
スイッチを押すだけ。

 楽しむだけなのだ。

数分も待たないうちに会場には人が流れ込んできた。
説明会の書類を手にして真剣な面持ちで。
奇妙な緊迫感が漂う室内。

「それでは時間となりましたので、始めたいと思います」
マイクを持った男性職員が口火を切った。





テクテク・・・。

早歩きか競歩か。

走る一歩寸前の速さで歩き、和也がたどり着いた先は古風な建物。

「???」
建物から出てくるのは大人ばかり。
和也にもココが何処だかさっぱり見当もつかない。
張り紙や漂う雰囲気から縁薄い場所だとは推察できた。

「職安ですね」
コマも驚いた。
鳩が豆鉄砲を食らったような表情で建物を見ている。

「しょくあん?」
初めて聞く言葉を鸚鵡返しに和也は呟く。
「いえ。正式には職業安定所。現在はハローワークでしたっけ。公共機関で、職のない方と求人募集している企業との架け橋役や、雇用保険等の受け渡し・・・」
説明を始めたコマへ、和也が手のひらを向けた。
「まった!そういう説明は後で。ここから気配がしてるけど、僕ぐらいの子供が入って行っても平気?」
和也は切羽詰った調子でコマのコートを掴む。
コマの身体をユサユサ揺らし和也が詰め寄る。
「場違いに・・・見えますけど」
口篭りながらコマは答えた。
「じゃ結界張って」
当然とばかりに和也、要求を突きつける。
コマは目を丸くして和也を見下ろし固まった。
「屋根の上に集まってるよ。早くしないと・・・あーもうっ!」
頭をかきむしり和也は問答無用で印を組み、結界を形成。
コマに止める間を与えず空間を閉鎖。
「ちょっ・・・和也様!」
全速力で走り出す和也。
慌てて後を追うコマ。

和也の張った結界は陰属性。
他の妖撃者が中和できない属性の為、この空間に存在する妖撃者は和也のみ。
早く和也を止めなければ応援を呼ぶことさえ出来ない。

今更ながらに和也の無鉄砲を思い知り、気苦労が耐えないコマはローファーをコツコツ鳴らし駆け出した。

「我は対極をなす者なり!理(ことわり)望む陰と陽を統べ我は紡ぐ・・・激花香影殺(げっかかえいせつ)!」
纏わりつく低級妖を和也は蹴散らす。
安定した術を行使できる状態となった和也。
術自体の威力は格段に上がっている。
1Fにひしめき合う妖は黒き花に吸い込まれ消滅した。

「雑魚は引っ込んでろ!」
声を荒げ例の気配を全開にすれば、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す低級妖。
和也は左右に目線を泳がせた後、天上を睨んだ。

「こっちか・・・」
素早く周囲を見渡し階段を発見。
エレベーターも見るが、空間が閉じているので使用は出来ない。
判断を下し和也は階段を駆け上った。

「!?」
妖の反応が一番強い場所。
何かの説明会が行われている会場入口。
和也、文字通り固まる。

パイプ椅子に座ったまま力なく横たわる大人達。
人の『生(き)』を吸い付くさんと群がる上級妖『偶』。鳥の外見を持つ飛行型の妖だ。

 《無粋な真似を》

群れのリーダーと思しき一匹が目の前のパイプ椅子へ舞い降りた。

「無粋?コレの何処が無粋なのさっ」
会場の扉をバンッと叩き和也激高。
鼻息も荒く拳骨片手に『偶』へ声を荒げる。
『偶』は片方の翼を広げ嘴で繕いつつ飄々とした態度。真黄色の瞳を丸くして和也を凝視。

 《人の負の感情が我らの糧。それを知らぬ貴方様ではありますまい》

「殺してまでは許容範囲外だよ」

 《生(せい)に疲れた人を喰らうて何が悪いのです?この者達は生(せい)に絶望しております故、このまま生き永らえても無駄でしょう》

空気がゆっくり抜けていく風船のよう。
部屋に満ちる妖気と反比例して減り行く人々の生(き)。

「そんな都合なんか知らない!残される側の身にもなれっ」
ギロリ。
温和な和也からは想像もつかない程、怒りが滲む眼差し。

 《交渉は決裂ですね》

『偶』の深緑色の目が。縦長に大きく開いた。

ムカ。
和也にしては露骨に嫌悪感を示した顔のまま印を組む。
そのまま無声で術を放てばそれは数メートル飛び退った。

「決裂だね」
すかさず繰り出された『偶』の衝撃波。
横に飛び避けた頃に登場する犬が一匹。
犬の口が放つ光弾に衝撃波は蹴散らされる。

『単独行動は厳禁!のはずですよ』
ジロリ。
犬・・・コマに怒りの篭った目線で見られ、和也は困った風に笑う。
「あはは、ごめんごめん。コマがフォローしに来てくれるって信じてたから」
別の印に組み替え二人を守る壁を作り上げる。
和也はまだ見習い。
二重に結界を張ることが出来ないので、防御壁代わりとして。
「ほら〜。僕の正義感が疼くんだよ」
ついでのように付け足しておく。
コマは呆れて耳を前後に動かす。
白けたコマにもう一度微笑んで誤魔化して。
和也は仕掛けた。
「呪符は〜♪僕にはまだつくれないけど〜。師匠印の呪符は嫌になるくらい強力さ〜♪」
『・・・』
コマ脱力。
鼻歌交じりの和也は即興の聞いたまんまの歌を作り、歌い上げつつ仕掛けを発動させた。
すれ違ったサラリーマン。
一番奥の目立たない席に座る男のコートに張り付いた呪符の文字が光を放った。

 《!?》

「四界開閉(しかいかいへい)!浄化」
手のひらを床に押しつけ術の効果を建物全体に張り巡らせる。
光が縦横無尽に建物を走り低級の妖を封印。中級の妖を門の向こうへ送り戻す。

「陰属性に光属性をぶつけると、相反する属性だから反発が起こるんだ。大抵の雑魚は付加に耐え切れずに封印され、抵抗力があるのは四界術で還って貰うって寸法さ」
建物に潜んでいた妖が一掃され静けさが戻る。
和也は低級の妖が封印された状態『封珠(ふうじゅ)』を丁寧に床から拾い上げた。
「全部拾ったら後で纏めて向こうに送るね」
無造作に黒い珠をポケットに落としていく和也に反論するだけ無駄だろう。
コマは心で涙するが現実は進行中。
泣く泣く和也を手伝い封珠を拾う。
『長様にもご報告しますからね。後で沢山叱られましょうね』
念のために釘を和也へ落としておく。
予め予告しなければ和也はのらりくらりと追及をかわし逃げる。
案外計算高い面も持っているのだ。
付き合いの長いコマはしっかり見抜いている。
「うっ・・・」
とぼけて逃げるつもりだったのか。
和也は痛い部分を突かれて鼻歌が止まる。
心持ち顔を引きつらせてコマを見た。
『そんな顔しても駄目です』
つれなく言い返しコマは咥えた封珠を和也の手のひらに落とした。
「コマ〜!なにも母さんにまで報告しなくても・・・」
『初代様がいらっしゃらない今は長様にご報告するしかありません。叱られても構わないと言ったのは和也様ですよ?』
してやったり。
ささやかな反撃がクリィティカルヒットした喜びにコマは小さく尾を振った。
逆に少し前までの勢いは何処へやら。
和也はガックリ項垂れ小さな肩を落とす。
「あううう〜」
『覆水盆へ還らずです。今後はくれぐれも慎重に行動して下さいね』
「・・・考えとく」
部屋に散った封珠を拾い出し、廊下や職員用の給湯室。
一階部分等。
建物の中の全ての封珠を回収し和也は結界を解いた。

「和也様?」
結界に阻まれ中へ入れないでいた妖撃者が、中から出てきた和也の姿に驚く。
大きく口を開け絶句。
二の句が告げぬといった態だ。

「あ、ごめんなさい。憑依された人を見かけて追いかけてきたら、こんな状態にしてしまいました。取りあえず浄化はしてありますが、確認をお願いします」
和也はしおらしい態度で頭を深々さげる。
どう振舞えば大人が好印象を抱くか計算済みの行動。
今回ばかりは止められなかった自分も同罪。
コマも和也に倣って頭(こうべ)を垂れている。
『和也様を危険に晒しました。また皆さんのお手を煩わせる結果ともなりました。申し訳ありません』

「・・・ハァ・・・」
困惑を隠せないでいる妖撃者は気の抜けた相槌を返した。
無理もない。
目の前に長の次男が突如姿を見せて仕事を片付けてしまったのだ。
見習いの立場にあるとはいえ長の次男であるには代わりがない。
対応に躊躇いが出るのも無理はないだろう。

『長様にはわたしの方から連絡しますので。本当に申し訳ありませんでした』
「ご迷惑をおかけします」
コマの再度の謝罪に畳み掛けるよう和也もお詫びを口にする。

「・・・承知しました。後は我々に任せてください」
別の妖撃者が現れこう言ったことにより、和也とコマは自由の身となった。
妖撃者の見送りを受け悠々と職安建物から遠ざかる二人。
『長様への報告もあるので真っ直ぐ帰りますよ』
「え!?十番館のケーキは?」
コマの宣告に和也が目の色を変えた。
『報告が終了したらわたしが買ってきます』
先手を打つコマは和也を逃がさぬようににべもなく答える。
「・・・ちぇ」
作戦が失敗して和也は残念そうに舌打ちした。
あわよくば誤魔化して曖昧にしてしまいたかったようだ。
『十番館に寄って今回の件を有耶無耶にしようとしても無駄ですよ』
和也仕え歴七年。コマとて和也の思惑は理解している。
今後、和也が自立した場合を考慮し、逃げ道を塞ぐ。
「はーい」
渋々和也は生返事を返す。和也の歩く速度に合わせ、ポケットに入れたままの封珠がぶつかって音を立てた。

結界が解かれたのと同時に身体を煽る熱風。

「あーあぁ。お説教かぁ」
これみよがしに落ち込んだ様子をアピールする和也。
『自業自得です』
「分かってるけどさぁ?僕は良心に従って行動しただけだよ!?」
コマの冷静な突っ込みに、和也は両頬に空気をためて膨らませて剥れる。
『・・・八つ当たりの間違いでは?』
「今のコマの台詞聞かなかったことにする」
図星なのかばつが悪そうに和也は答えた。
暫く無言で自宅マンションへ歩(ほ)を進める一人と一匹。


「失くしたものもあるかもしれないけど。見つけたものの方が多いよね」
一階エントランス部分で師匠の家に溜まった郵便物を眺め、和也はおっとりした口調で告げた。

夏に秘められた因縁を克服し、失ったモノがあったと理解した主。
理解して歩き出した幼き主。

たくましく成長する和也をコマは眩しそうに目を細めて見上げた。

『まだまだ見つけますよ、これから』
「そーだよね。先生は師匠に盗られたけど。可愛い奥さん見つけて師匠以上に幸せになるんだ!将来設計をきっちり立てないとね〜♪」
狙って外しているのだか本気なのか?和也の微妙にズレた発言。

 そういう意味ではなくて・・・ですね。

ドッと気疲れに襲われて反論する元気もないコマだった。


今回のポインツは海に向かって青春(?)している和也を書けたことです。場所柄知っている方も居るかもしれませんがハローワークの構造ウロ覚え。間違えていても温かい目で見守ってくださいね(笑)ブラウザバックプリーズ