第五話 『さくら』



この世の者ではない異界の住人『妖』(あやかし)
人々の負の感情に寄生し、精神・生命を脅かす……。
『妖』から人々を守り、妖を封印・消滅する『妖撃者』(ようげきしゃ)
彼らは今日も闇に蠢く異界の住人と対峙するのだった。

地球は日本。
首都東京のお隣神奈川県。県庁所在地・横浜市。

沖縄から始まるサクラの開花予報も耳慣れて。
まだ肌寒い三月だが花見シーズン到来。
大岡川周辺で開かれる桜祭りの準備も毎年恒例。
関内の桜も芽吹き始めた、初春。

「早いけど、花見。花見」
はしゃいだ様子の少年一人。
六階建てのマンション。
最新鋭のセキュリティーが売りだった中古マンションから出てきた。

「日差しは暖かくなってきたな。春……かぁ……。僕も歳をとるわけだよね」
一人心地に呟く少年。
柔らかくなる日差しと、肌寒いものの湿度が感じられる春らしい微風。
少年は目を細め唇を引き結ぶ。

艶のある黒髪。ショートボブに近い長さ。
切れ長の瞳に絶妙なバランスの二重。
長い睫毛と、どちらかと言えば甘いマスクに成長するであろう予感を抱かせる二枚目顔。

本人が醸しだす『ほや〜』とした雰囲気と相俟って、育ちの良さを感じさせる少年だ。
お馴染み妖撃者見習い星鏡 和也(ほしかがみ かずや)である。

「和也、爺臭いぞ……流石にそれは」
少年=和也に口篭りつつ一応は窘める発言を口にしたのは青年。
身長が百七十以上はある大人の男。
切れ長の目・長い睫毛・太すぎない眉・すっと伸びた鼻筋。
全体的に凛々しい印象を受ける雅な感じの顔立ち。細すぎず、太すぎずない体の線。

和也の師匠で水流 氷(みずながれ こお)。
今は実年齢の二十八歳の外見だが普段は中学生くらいの姿。
強すぎる潜在能力で老けにくいというオプション付き。
和也曰くの大人子供師匠。

「そうよ。和也君はまだ十一歳なんだから」
微妙に的外れの発言をする青年の傍らに立つ女性。
肩まで伸ばした髪・短めの前髪・釣り目の大きな瞳。
幼い印象を与える、小さめの鼻・ふっくらした唇。
左手薬指には青年と同じ材質のマリッジリングが光る。

氷の幼馴染で。
つい最近までは種族さえも違った氷の奥方。
水流 胡蝶(みずながる こちょう)。
転生の門を潜り人間へなった元妖。

「つっ込みどころが違うと思うぞ」
傍らの胡蝶を見下ろし氷がやや呆れた顔で囁く。
「そう? お仕事があるのは別として、和也君はまだ小学生でしょ。事実じゃない?」
不思議そうに夫を見上げる胡蝶。
分別ある女性では在るが何処かぬけた部分も持ち合わせる。
元々が人ではないのでズレがあるのは致し方ない。
氷は微苦笑した。
「もぉ〜! 僕の前でこれ見よがしにイチャイチャしない!!」
ほんわかムードの氷と胡蝶。
歩み寄って和也は二人を睨み上げた。
「了解。今日は楽しく騒ぐ約束だしな。それに、早めに行かないとコマが拗ねるぞ」
和也の頭のつむじを指先でチョンチョンと突いて氷は歩き出す。
「さぁ、行きましょう」
春風に流れる髪を押さえ、胡蝶は和也へ手を差し伸べる。
「うん!」
女性と手を繋ぐには少し大きい子供。
だが和也は両親と離れて育ったせいか、少年期特有の照れがない。
あるのだろうが見た目にはない。
躊躇わずに胡蝶の手を取り仲良く手繋ぎで歩き出す。
「無事に新しい年になったし。来月から小六だし。色々大変になってくるんだよね」
繋いだ手を前後に振り和也は胡蝶と楽しく会話。
普段も良く喋っているが移動を兼ねて話すのは雰囲気が違っていて楽しい。

目的地は関内から石川町よりの小さな家屋。
妖撃者の道場の一つだが庭の桜が美しいことでも有名。
氷が凄腕妖撃者の立場を命一杯利用し一日貸切にしたのだ。

狭い関内の裏路地。
表の馬車道などの大通りや山下公園へ繋がる大通りとは違い。
一足脇道に入れば車一台が入れるくらいの道幅しかない。
狭さと広さが混在する雑多な町。

昼は県庁に勤める役人や会社勤めのOLで賑わう通りも。
夜は一変。
華やかで妖しい空気を醸しだす繁華街へと早代わり。
二面性を持つ街だ。

「ふふふ。でも一人前になれば少しは楽になるんでしょう? 氷から聞いた話では」
人間への転生。
それ自体非常識かつ道理に外れている。
ましてや妖と敵対する妖撃者へ嫁いだのだ。
妖・妖撃者双方、胡蝶の処遇には大いに戸惑った。

氷の力添えと暗躍があり。
転生しても消えぬ胡蝶の力を表立っては使用しないこと。
いかなる理由があったとしても妖撃者の仕事に口を出さぬこと。
主に二点の制約を交わした胡蝶は普通の新妻生活を満喫中。

元より奥ゆかしい性格のため、氷の仕事に口出しもせず。
日々主婦仕事を楽しんでいる雰囲気さえ見せていた。

「楽って言うか、なんて言うか。僕の場合は特殊な生まれだからね。新人妖撃者同士は組んで仕事をするだろうけど。僕はきっと例外かな。陰術をフルに使う戦い方だからね」
半人前の責任と、一人前の責任の幅は大きく違う。
和也は早く一人立ちしたい反面このままのぬるま湯に使っていた気持ちで曖昧に答えた。
「人それぞれよ。和也君には和也君にしか出来ない戦い方がある。それでいいじゃない。深く考えるのは大人の仕事なんだから、子供はもっと伸び伸びしなくちゃ」
悪戯っぽく目を輝かせ胡蝶は握った手に力を込める。
「でもね。このままズルズル立ち位置を変えないのはダメよ。いつかは一人立ちするものなんだから。失敗したらなんて考えたりするんでしょうけど? 失敗しなければ学べないとこともあるの」
「はーい。肝に銘じておきます」
神妙な面持ちで大人しく呟く和也。
普段の子供らしい顔つきがなりを潜める。
その顔つきが余りにも可笑しくて胡蝶はクスクス笑い出した。
和也も自分の行動がやけに大人ぶったなと思い、胡蝶につられて笑う。
「今日は今日の風。明日は明日の風が吹く。精一杯今日を楽しみましょうね」
半ば自分に言い聞かせ。
胡蝶は笑顔を氷へ向ける。
ふっ。氷の目の奥が和らいで愉快そうに口端が持ち上がる。

 ままごとではない本物の人としての生活。

喉から手が出るほど焦がれたありきたりの生活。
モノクロの世界からカラーの世界へ飛び出したばかり。
胡蝶は春風を感じかつての約束が成された事実に半ば驚き呆れているものの。
概ね幸せと言える日々を楽しんでいた。


 徒歩十五分。目的の場所へ到着。


「遅いじゃないですか、皆さん!」
古ぼけた木戸。開け放った木戸の前に立つ女性が一人。

エプロン姿の優しい雰囲気を持つ女性。
年齢は二十四歳前後。百七十近くあるモデル並の長身。
肩までの黒髪をゴムで一つに結んでいる。切れ長の黒い瞳。
短めの睫毛。顔立ちは純日本人。

「悪いな。コマ」
氷は花見に必要な物を入れたビニール袋を持ち上げ詫びる。
「悪いと思うなら早く手伝ってくださいね。料理は共同で作るのが一番楽しいんですから」
さり気に手を繋いだ胡蝶と和也を睨んでしまうのはご愛嬌。

彼女は小春=コマ。
和也の遠縁。兼・優秀なハウスキーパー。兼・見習い妖撃者の相方である。
和也お仕え歴八年に突入した、筋金入りの和也命。
な母親代わり。

「僕出汁巻き卵作る!」
卵料理大好きな和也は早々に分担を決め込み、胡蝶から手を離すと古ぼけた民家玄関へ走り去ってしまった。
早業・電光石火。
「現金な奴」
和也の背中を見送り氷がポツリと呟く。
「いいじゃない? やっと子供らしく……振舞えるようになったんだから」
イマイチ微妙にフォローになっていない妻の言葉。
氷は曖昧に笑った。
「あれで子供らしいなら可愛げあるけどな。和也の被害にあった奴がもう二人到着したみたいだぜ?」
氷が目線だけで家屋へ繋がる道路を示す。
「あら? 帽子君に希蝶……どうしたのかしら?」

 《姉様! どういう事ですの? この招待状!!》

怒り覚めやらぬ口調で胡蝶そっくりの美女が封筒を胡蝶へ差し出した。
不思議そうに何度か瞬きをした胡蝶は美女から封筒を受け取る。

「ええっと……。
星鏡 和也主催の花見への招待状。なお参加拒否権はありません。拒否した場合の制裁発動は必ず起きるものとお考え下さい……詳細は……。
あら、希蝶もお花見に招待されたのね?」
無邪気に妹との再会を喜ぶ胡蝶に、氷と美女……希蝶は心持ちコケた。

 《招待された、されないを申し上げているのではありませんわ! この不躾でわたくし達妖血族を愚弄する暴言! 捨ててはおけませんわ》

眉を吊り上げ怒る希蝶。
本来妖は感情の起伏が少ない生物だ。
その希蝶が感情も顕にしかも豊かになったのは夏の事件依頼。
彼女も思うところがあるらしく妖撃者や、かつて姉であった胡蝶とは一線を画しているものの完全に妖側についているわけでもない。

「てゆーか、アンタの弟子教育どうなってる訳?」
帽子少年は目深に帽子を被り嘆息。
「俺に和也の情操教育云々を求めるな。和也は元からああゆう性格だよ」
氷は肩を竦めた。
「それより中入れ。和也の機嫌を損ねると面倒だぞ」
胡蝶の手を引き家屋の中へ姿を消す氷。物事に動じない性格なのは結構だが……。

「弟子に対する責任感は持つべきだよな」

 《同感ですわ》

愉快な和也と仲間達。の一員にされてしまった帽子少年&希蝶。
呆然と春風に身を晒していた。
数分間ぼんやり立っていたが胡蝶に呼ばれて渋々家屋へ足を踏み入れる。
そんなこんなで変わった面子を集めた花見が始まろうとしていた。



下草の緑の匂いと土の匂い。
塀を見えなくするくらいびっしり植えられた植物。
春先なので花を咲かせているのは桜数種と菜の花や早咲きのチューリップ。
花心のない和也の見知った名の知らぬ草花。
都会の喧騒を忘れてしまいそうな緑の絨毯。

普段見慣れているコンクリートがあまり見受けられない品の良い和風庭園風(池はないが)の庭。
無理矢理招かれた帽子少年&相棒+希蝶を加え、各自思い思いに食事に突入。

どれくらい広いか。坪の数え方が分からない和也にはどうでもよい話で。
外でピクニックシートを広げてお弁当食べてそれなりに騒げて。
桜吹雪なんか見れたら素敵だな。位のレベルの気持ちなのだ。

「庭だけど、外で食べるご飯って美味しく感じるよね」
ニコニコ満面の笑顔でおにぎりを口に放り込む。
和也の楽しそうな顔にコマもつられて笑顔だった。
「平和だな。星鏡の頭の中は」
帽子少年は愚痴モード。愚痴りつつも不本意でお呼ばれした花見。
元はしっかり取りたいらしくちゃっかり食事は口にしている。
「んー? 中学に上がると色々弊害出てくるからさ。今のうちに一通りは経験しておきたいだけだよ」
単なる好奇心だと。
和也は正直に白状した。
「例えば?」
巻き込まれてはたまらない。
考えた帽子少年は聞ける範囲で『和也の言うところの弊害』の内容を聞き出そうと決意した。

「例えば。まずは学校生活面。部活は必ず入るでしょ。それから試験も中間期末だし、生徒会とかの勧誘もきつくなるし……引き受けたくないんだよね。
後は外部生も中学入学から入ってくるから五月蝿くなるだろうし。中等部って高等部の校舎に近いから面倒だよね。身内や同業者にもよく会うだろうし」

水筒からお茶を注ぎ和也が考えられる範囲の答えを出す。

「仕事面はどうなるのかなぁ? 陰術が使えるから一人立ちしても、他の新人と一緒に仕事なんて難しいだろうし。単独でするなら師匠や、同レベルくらいの人とじゃないと後始末が大変になるからさ」

一気に言い切ってから和也はズズーとお茶を啜った。
「心配しなくても大丈夫よ」
紙皿におかずを取り分けていた胡蝶が柔らかく微笑む。
「わたし……本当に先生をしてみたくなって今は勉強中。数年したら海央で先生をするの。今度はちゃんと教員試験も受けるのよ」

 《感化されすぎですわ! お姉様》

少し離れて座っている希蝶が姉を非難した。

「あら、いいじゃない。わたし子供好きだもの」
的外れもイイトコの胡蝶の反論に希蝶がため息。
帽子少年も口をあけたまま数秒間はしっかりフリーズした。
「それに氷は本格的に仕事を始めるみたいだし。わたしも同じ職場に居たいなって」
続けざまに放たれる仰天発言に和也と帽子少年同時に氷を顧みる。
「「どーゆうこと!?」」
綺麗に声までハモらせて。
和也と帽子少年は氷へ尋ねた。
「お前ら俺の事フリーターだと思ってたのか……」
帽子少年は兎も角としても。
弟子にまでうだつの上がらないフリーターだと思われていたようだ。
子供達の顔にありあり浮かぶ正直な感情に氷は息を吐き出す。
「俺が海央出身なのは和也は知ってるな?」
この際だからきちんと説明しよう。氷は和也の顔を見る。
「うん」
何度も聞かされたし卒業アルバムも見たことがある。和也はうなずいた。

「海央自体様々な副業を持った連中が集まってるんだ。星鏡と面識のある人間が学園長を勤めていることもあって理解が在る。
俺だって海外逃亡中に向こうで大学を出てる。
簡単に言えば教員資格は持ってて、今までは和也のフォローに徹していた。この先は実生活でのフォローは必要なくなるだろう。つまりは。学校生活でのフォローに回るか、って感じだな。来年度から中等部の教員として海央に勤めるぞ」

目を丸くする二人の少年。
思ったよりも驚いているようで氷は面白いと感じた。

「え? 姿は平気なの?」
目を丸くしたまま和也が素朴な疑問を口にする。
和也の隣でコマが興味津々と身を乗り出した。
「……だからな? 副業を持った連中が集まる。俺みたいに一時的に幼くなる特異体質を持った人間は珍しくないんだ。内部事情を知る人間が多いからな」
表向きは有名私立として名を馳せる海央だが。

学園長一族を始めとした様々な業種の人間が連帯した結果、効率的な『隠れ蓑』として機能している。
見習い妖撃者が多くこの学園へ入学し学ぶのもこのような事情からである。
無論受験は公平に行われるため適合・不適合はあるが。

「知らなかった……。だから僕も、兄も海央へ入れさせられたんだ」
単に家から近くて私立だから。
だという理由で通わされていたと信じていた和也には青天の霹靂。
騙していた学園側の先生達はきっと自分が妖撃者だってことは知っていたのだ。

和也の身体からふっと力が抜ける。

「なぁーんだ。別に無理して良い子振らなくても、先生達はお見通しだったんだ」
人に言えない秘密。

時に優越感を満たす道具であるが実生活に於いて、そうそう度々優越感に浸って生活している訳ではない。
結構肩の凝る生活なのだ。
子供であればあるほど後ろめたい気持ちが大きくて。
小学生低学年の頃など内心ビクビクもので毎日を過ごしていた和也としては。
いつまでも怯えていたビックリ箱を開けたら。
その蓋をあけたビックリ箱が空っぽだった。というような感じであろうか。

「全員が。というわけじゃない。本当の普通の先生も居るからな。
和也のように妖撃者の生徒もいれば本当に普通の生徒も居る。そこら辺の差別や待遇の差はない。和也が一番実感していると思う」
和也が早とちりしないように氷は補足説明をした。
「あー、言われてみればそうかも。表立って力を使う生徒なんてのも……いなかったしなぁ。僕等妖撃者以外にも別の副業を持ってる子もいるんだよね?」
自分だけが特別と感じていた気持ち。
他の同級生もそうだったのか? 俄に湧き出る好奇心。和也は氷の顔を凝視する。
「ああ。誰が、とは言わないけどな。和也だって自分から言いふらさない物を他人に言われて歩かれたら不愉快だろ」
「確かに」
氷に釘を刺され和也は大人しく引き下がった。
食事や帽子少年と別の話題に花を咲かす。
外での食事が誰も彼もを解放的な気分にさせる。
何時もは悪態ばかりが目立つ帽子少年も無愛想ながら和也の話に付き合っていた。

 《姉様?》

ふと思いついて希蝶は姉を見た。

 《もしかして……姉様も最初から妖と見抜かれてましたの? 血族の持つ暗示能力は優秀ですが、氷殿の口ぶりから考えても相手も中々の知恵者と見ました》

「そうねぇ……」
思案顔で胡蝶は頬に片手を当てる。

妖の暗示能力は優れている。
時には宿敵『妖撃者』の目を欺き人を陥れる武器ともなった。
胡蝶は小等部の校長を思い出し空を睨む。

「見た感じは普通の先生だった。元美術教師でお歳は今年で五十一歳だと伺ってるけど。わたしの持っていった履歴書と紹介状を見て特に何も。……でも、少しだけ面白そうに笑っていたから見抜かれていたのかもしれないわね」
一見サラリーマン公務員……私立なので公務員といった気概や偉ぶった態度はなかったものの胡蝶を見透かすような雰囲気の校長ではある。
胡蝶は、小太りな校長の人の良い丸い顔を脳裏に浮かべた。

 《気楽過ぎですわ、お姉様》

人へ転生した姉。寿命も人と同じ。
ある日突然交通事故で死ぬかもしれないし、同族に殺されるかもしれない。
あるいは病死するかもしれない。
血族よりは遥かに劣る人の身体と仕組みのどこが良いのだろう。
希蝶の理解の範疇を超える姉。

「ふふふ。心配しないで。……希蝶も華蝶も。

わたしの大切な妹達。

わたしと氷の子孫はずっと貴女達と係わり合いを持ちながら生きていくでしょう。時には協力し、時には戦いながら」
希蝶の不安を読み取り胡蝶がその背をそっと叩いた。
ふわふわ風に乗り桜の花びらが花見人(一部例外アリ)に舞い降りる。
「そして和也君の子孫もきっとそうなるでしょう。

あの御方と相対しながらも。

どこか懐かしい思いで戦う。戦うことは残念だけど……いつか。キヨイさんが言っていたような。影月が望んだような。そんな世界が来るのかもしれない。来ないかもしれない。要はこれからよね?」
胡蝶の視線の先。
氷がニヤリと笑いお茶の紙コップを持ち上げる。
応じて胡蝶も己の紙コップを持ち上げた。


「少しは溝も薄まったかな」
和也がコマと帽子少年の顔を交互に見る。
「……ぼちぼちじゃねぇーの?」
小声で帽子少年が言う。
「そうですねぇ。微妙ですよね」
コマも難しい顔つきで和也に囁いた。
「桜の約束。師匠と先生の間で二十数年後に果たされた約束だから、ご利益にあやかって先生と希蝶の溝を薄めようと思ったんだ……。なんか良い雰囲気だし。結果オーライかもね」
互いに道を離れて歩き出した二人の女性を横顔を見つめ。
和也は悪戯っぽく笑ってそして取り出した。
「……おいおい、酒だろ! それ」
帽子少年が胡散臭いものでも見る目つき。果実酒と銘打たれた瓶を見る。
「いいじゃん。ブレイコウ!」
「意味分かってねーだろ、星鏡!」
しゅた。
帽子少年徐々にだが和也のつっ込み役として確実に成長を遂げていた。
奇妙に馬の合う二人の対照的な子供。
奇な縁だと思うが友ができるのは悪いことではない。
お酒の瓶に気がつかずホロリと感動の余韻を味わうコマ。
「しゃーないか?」
豪胆師匠氷も。
酒瓶を確認視するも黙視。
風に諦めの言葉をさらっと流してしまった。


やいのかいのと言いつつも。
この場が花見と銘打った無礼講へ移行するのも時間の問題。
後でしこたま叱られて人生初の『二日酔い』を和也が体感するまで一日の猶予。




お酒は二十歳になってから。
(この物語はフィクションなので。本気にする賢い方はいないでしょうが。お酒は二十歳過ぎですよ〜。若いうちに飲むと脳に悪影響が及ぶそうです。←アルコールに対する免疫が低い為、脳にダメージを受けてしまうのです。ですから大人になってから飲みましょう。大真面目な話)


あくまでもこの話はフィクションです! お酒は二十歳になってから(マジで)桜といえば花見ですが花見場所って限られていて難しいですよね。大岡川は川沿いの桜だし……。ブラウザバックプリーズ