繰り返す歴史



薄明るい月の光が零れ落ちる。
「歴史は繰り返す、か」
少女はクスクスと笑う。

寝間着のまま。

太腿までの上着だけを見につけ、白い足先をブラブラ前後に動かす。
「ナニ驚いてるの? 自分から仕掛けてきたクセに」
目の前には泥だらけ、切り傷だらけで力なく座り込む黒髪の少年。
肩で息をするゼイゼイという微かな呼吸音だけが、静な夜のアカデミー教室に響き渡る。
「本当、兄弟揃って馬鹿だねぇ?」
クスクス笑いながら少女は足先で少年の顎を上向けた。
「つっ……」
軋む身体に漏れる少年の呻き声。
少女の小さな爪は月の光を浴び微かに煌いている。
霞がかった意識の中、少年は的外れに考えた。

なんてコイツはこんなに綺麗なのだろう、と。

「これが私。お前が、喉から手が出るくらい知りたかった私の姿。イタチを知る人間」
少年の、サスケの反応を楽しむように言葉を紡ぐ。
「殺したりはしない。お前には成さねばならない宿命がある。イタチを殺せる唯一の存在。イタチを消す権利を持つただ一人の存在。それがお前の立ち位置だ」
無表情の顔。
機械的に桃色の唇を動かし、淡々と事実を客観的に伝える。
昼間の少女とのギャップに驚きつつも、頭の片隅で安堵するサスケもいた。

 ああ。俺と同じニオイがする。

身体からはちきれんばかりの闇を抱える、仄暗い雰囲気を放つ己と。

「聞きたいことは?」
サスケの顎先を支えていた足を外し、座っていた机から降りる。
少女はしゃがみ込み、サスケと目線を同じ高さに合わせた。
焦点の合わない黒い瞳を少女は真っ直ぐに見つめる。
「……何故?」
雰囲気。
威圧的ではない。
月の様に冴え冴えとした冷血な態度ながらも、全てを包み込むような柔らかい空気を併せ持つ。

温かくて冷たい。
遠くて近い。

少女の蒼い目を呆然と見つめサスケは小さく問いかけた。
「同じ質問をイタチにもしたよ」
当時を思い出すように目線を遠くへ飛ばし。
少女は懐かしむ口調で呟いた。
「『己の器を図るために』イタチはそう言っていた。本当かどうかは本人にしか分からないけれど、私にはこう答えていた」
「……」
「残念ながら今のお前ではイタチの足元にも及ばない。ましてや、私に一撃加えるなんて夢のまた夢」
沈黙したサスケに少女は言葉を続ける。
少女の肩に留まった黄色い小鳥。
赤い瞳を興味深そうにサスケへ向けていた。
「力が、欲しい?」
泥のついたサスケの頬。
そっと上着の袖口で拭い少女は核心を突く。
サスケの肩がヒクッと痙攣した。
「一族の命を奪い、己の将来を目茶目茶にしたイタチを屠りたい?」
鮮やかな色を取り戻すサスケの瞳。
力強く不遜で底知れない闇を持つ、黒曜石。
妖しく誘う蒼を睨みつける。
「イタチはお前の部下じゃないのか?」
サスケは憎しみを込め言い放つ。

少女はキョトンとした顔つきで暫しサスケを見て。
それから愉しげに笑った。
可笑しくてたまらない。そんな風に。
「部下! イタチが……私の部下?」
目を細め一頻り笑った。
少女は赤く染まった頬を両手で押さえ、小さく深呼吸する。

「違う。イタチは自力で辿りついた。
イタチを里から放り出す一年前。
私と兄様が密かに作り上げた結界を嗅ぎつけ。事もあろうに私と兄様を脅し返り討ちにあった愚かなエリート。それがうちは イタチ。当時暗部」

乱れたサスケの髪を整え少女は講釈した。

「生かしておいたのは面倒だからだ。いくらエリートで暗部といっても所詮は子供。
私が兄様と意思疎通できると。証明など出来ない。
逆にエリートで名が知れていたから見逃しておいた。あれ程の忍が殺されたとなったら里は大騒ぎだ。
騒動に巻き込まれるのは私の流儀に反する」

少女は支配者の顔でサスケへ説明を続ける。

「今、私が不用意にペラペラ喋っているように思える?ならばお前はイタチよりも頭の血の巡りが悪い」
サスケの顔に浮かんだ戸惑いを見逃さず、少女はサスケの神経を逆撫でした。
瞬間的に頭に血が上ったサスケは少女の胸倉を掴み上げる。
「力が、欲しい?」
もう一度問いかけ少女はサスケにされるがまま。
相手の出方を静観。


沈黙。


「俺は」
深遠の闇を持った黒が少女へ答えを告げた。
少女はそっとサスケの指を己の服から引き剥がし、己の指で絡めとる。
そのまま唇をそっとサスケに合わせた。
「!?」
サスケが驚きに目を見開く。

今さらキス位で驚いているのではない。
少女の柔らかい唇、侵入してくる舌から伝う鉄の味。
血を口移しで飲まされている。

悟った瞬間身体の底から湧き上がる、苦い甘い、激しい衝動。
さっきまで痛みで軋んでいた身体の倦怠感が一気に吹き飛ぶ。

「契約完了。縛るつもりは無いけどある程度は協力してね? そうしたら修行もつけてあげるし、それなりに強くしてあげる。ただ、兄様と私の生活を邪魔しないで」
唇をそっと放し、少女はサスケの唇についた己の血を指で拭った。
「兄様?」

「私の腹に封印された九尾の狐。名前を呼ぶことは公に出来ないから兄様」

少女は去り際に言って姿を消した。


サ、サスケファンの皆様方。まずは謝罪します。ごめんなさい〜(土下座)いよいよ大本命v下僕二号の誕生です(あら?)こんな感じで色々翻弄されるサスケ。ビバvヘタレ。ブラウザバックプリーズ