つまるところの問題点



ナルトはむすっとした表情のまま乱暴にクナイを投げる。

小気味良い音と共に的中央に突き刺さるクナイ。
静かに殺気立つナルトにサスケは珍しい事もあると、触らぬ何とかに状態で無視を決め込んだ。

木の葉の里、うちは邸。
二重人格な木の葉の『爆弾』が第二アジトに指定した家屋であり、下僕二号(サスケ)の持ち家でもある。

「サスケは案外モテる」
明日の天気を離す気安さでナルトがひとりごちた。

「モテる?」

確かにアカデミー時代や今も女子(くの一)からはキャーキャー云われるが。
それを知らないナルトではないだろうに、今更『モテる』ときた。

真意が分からずサスケは眉間に皴を寄せる。

「サスケがモテるというか。うちはがモテるという表現の方が正しいか?」
薄っすら挑発的な微笑を湛え、己の目元に人差し指を当てるナルト。
彼女の示した眼の部分にサスケは小さく息を吐き出した。

うちはの血継限界『写輪眼』この目を巡っての陰謀は絶える事が無い。
サスケのように後ろ盾をなくしたうちは唯一の末裔相手なら、大人は大抵卑怯な手段に出る。

尤も三代目火影のフォローが良かったせいかサスケが直に被害にあったことは数えるほど。

「高性能だからな」
肩を竦め、大分慣れてきたナルトの嫌味に棘を込め言葉を投げる。

ナルトはクスクス微笑みつつもう一度クナイを投げた。
風を切る刃物の音と畳に落ちるサスケの髪二本。

「だからといって目立ちすぎだ。あの砂瓢箪の少年。人と違う気配がするから気をつけておけ」
ナルトにしては珍しい。
サスケを案じるような発言。

「今日は随分とお優しいんだな?」
「え? ああ……サスケの顔だけは好きだから」
当然のように言い放ったナルトの台詞に少し和んだ空気が一瞬にして凍りつく。
「……」

 なんでだ!?

表向きは必死にポーカーフェイスを保つサスケ、内心は驚愕しつつもしかしたら。
とも考えてしまう。

 俺の顔はあの名前を出すのも嫌な、アイツ(兄)に似ているからか!?

それだけは勘弁してもらいたい。
心の底よりもっと奥から思い、サスケは動揺を隠して縁側を支える柱に背を預けた。

そんなサスケに追い討ちをかけるように、ナルトはサスケに這いよって。
サスケの膝の上に座ってジーっと顔を覗きこむ。
サスケを通して誰かを見る目つき。

 気にいらねぇ(怒メーターMAX越え)

ともすれば滲み出てしまいそうな殺気混じりのチャクラを必死に抑え。
サスケはナルトを腕の中へ押し込めた。

暫くもがいていたがナルトはじきに大人しくなる。
サスケの胸を背もたれに座りなおした。

実力はサスケより上のクセに、己の不快ではない範囲ではサスケの好きにさせるナルト。
サスケはナルトに受け入れられていると勝手に考えているが、ナルトからすれば多少違う。
まぁ、兄様に怒られない部分までなら良い。
なんて、兄様一番主義的発想と判断。

会話がなくなればそこでお喋りは終了。
基本的にナルトはお喋りではない。
サスケもそうだ。
気の聞いた会話は出来ない。

普段のナルトは日向でまどろんでいるか、兄と慕う九尾の化身と森へ引きこもるか。
そこで修行しているか。
静かに過ごすことが大半だ。

演技のナルトとは正反対の静けさ。
空気のような柔らかい雰囲気を持ち自然と同じように人を拒絶する。

弄んでいたクナイでサスケのズボンを器用に切り取り、ナルトは遊び始めた。
当初は驚いて一々騒いでいたサスケも、ナルトから殺気を感じないので黙す。

物騒な行動だがそれだけサスケを受け入れている証でもある。

「兄様、早く来てくれないかな」
星型に切り取ったサスケのズボン。
見下ろし酷く寂しそうに呟きナルトはサスケの腕の中。
小さく鼻を鳴らした。

「サスケは兄様に良く似ている。将来育ったら兄様みたいになるかもしれない」

サスケの目の下に位置するナルトのつむじ。
髪が揺れて幻想的な。綺麗な金色だ。
日の光があると透けて見えるんだな。

サスケ、思わず超高速で現実逃避を試みる。

あの。
性悪シスコン妖バケ狐。
九尾の外見がサスケに似ているなんて、どーなっているんだと思ってしまう。
実際にサスケは思っていた。

「俺がか?」

「綺麗な赤い瞳と涼しげな目元。凛々しい顔立ちに、優雅な立ち居振る舞い。隙のない構えに忍術・体術ともに一流。料理も出来れば舞も出来る。優しく頼もしく凄く強い」
静かに語るナルトの美辞麗句にサスケの機嫌が下がっていく。

 赤い目は……まぁ、写輪眼か?
 凛々しい顔立ちは主観だからな、ナルトの。

 優雅と隙がないと忍術・体術一流。
 料理? あの九尾が料理か??
 舞はナルトも教わったといってたな。

 優しいのはナルトに対してだけ。

 頼もしいというか、あれは威圧的なだけだろう。
 強さは……論外だ。

ナルトの賞賛に一々反論(声に出せないのがサスケの下僕たる所以である)してサスケは唸る。
サスケの静かな動揺を感じ取ってナルトは失笑した。

「つまるところ、問題点は。サスケが兄様より器が小さい。弱い。直ぐに熱くなりやすい。肝心な部分で使えない。若すぎる。といった所か」
愉快そうに指折り数えて言い加えたナルトの頭にサスケは顎を乗せた。

器、弱い、使えない、若すぎる等々。
一部はサスケの努力次第である程度は越えられる部分でも、大概無理である。
比較対象が九尾なのだから。

 ったく、俺は九尾の引き立て役か??

なんだか楽しそうにサスケと九尾を比較して、口に出すナルト。
サスケは腕を回してナルトの指を解いた。

乱暴に指を解かれサスケの指に絡められた自分の指を見て。
ナルトは喉奥でクツクツ笑う。

 本当。
 悠然とする兄様と違って余裕がない。

 これでは私のモノとしては、まだまだ磨き足りない。
 私が強くすると契約を交わしたのだ。

 もう少しマシにしなければ。

詰まるところの問題点。
サスケ、無自覚にナルトの手のひらで良い様に踊らされていることだろう。
または。

 俺は、俺は。料理も舞いも裁縫も習うべきか???

なんて。
真剣に考えている阿呆な思考回路を、もう少し真っ直ぐに戻す事か。

挙句は、日々ナルトと接しながら徐々に九尾のような『ナルマニ』思考回路になっていくサスケ自身が。
一番の問題点かもしれない。


 でもナルコは料理も裁縫も出来るサスケは嫌がると思う。ブラウザバックプリーズ