印(しるし)と下僕の関係



一気に沸点に達した怒りが急激に冷める。
血圧に悪い感情が、寄せては返す波のようにサスケを襲っていた。

「なんだ? このアトは」
努めて冷静に尋ねたサスケの視線はナルトの胸下。

下着から僅かに見える膨らみのギリギリラインに付いた赤い跡。
虫刺されなどという可愛いレベルのモノでもなく、明らかに人為的だと分るブツである。

「イタチのつけた契約更新のマーク」
対してナルト。サスケの怒りなど歯牙にもかけない。
事実を事実としてサスケに答えた。

「……」
写輪眼全開、瞬時に殺気立ちつつも、ナルトの正直な答えにときめくサスケ。

喜ぶべきなのか、憤るべきなのか。

情けないがサスケにしてみれば喜びが勝る。
誤魔化さずにナルトが答えてくれた、という事実に。

「……?」

ヒトの着替えの時にタイミング悪く乱入してきた挙句。
お花を頭に咲かせる勢いで、サスケはほやーんとしてしまった。

訳が分らないサスケの百面相にナルトは小首を傾げる。

 というより、兄様にしか見せない私の肌。
 見た罪は重い……まだ、ソコまで強く成れてないのに。

ナルトは脱ぎかけた上着を再び羽織り、静かにクナイを太股のホルスターから抜き出した。

相手の実力となつき度により、スキンシップの度合いが違う。
ナルトの分りやすい基準だが生憎サスケにはこれっぽっちも説明していない。
赤い舌で唇を舐め、ナルトはサスケに斬りかかった。

「つっ……!?」
写輪眼発動中のサスケ、ナルトの突発的な攻撃をなんとか交わし。
自分もクナイを取り出してナルトのクナイを受け止める。

「甘い」
感情の篭らないナルトの声音。
クナイに気を取られていれば、サスケは胃の下辺りを蹴り上げられた。

僅かに仰け反るサスケの身体は隙だらけ。
ナルトはクナイを下から上へ振り上げ、サスケの上半身を斬った。

上着が切れる感触と皮膚が焼け付き熱を持つ。
サスケは他人事のように自分が斬られた事を感じる。

「私の手を相手にしているのに、進歩がない」

少々不満の混じったナルトの呟きと、体の芯が熱くなるサスケ。
振り下ろされるナルトのクナイを根性で防ぐ。
だがナルトは動じず、サスケに足払いをかけた。

「興奮、してる?」

仰向けに倒されたサスケの腹に跨り座り。
ナルトは唇で弧を描く。

ナルトの手に握られた、自分を切ったクナイ。
己の血で鈍く光っていてサスケは気分が高揚し始めた。

「……血に騒ぐは、うちはの宿命。忍として優秀だという事は、それだけ修羅に愛されているという事。忘れてはいけない」
サスケの頬にこびり付いた血を拭い、声音だけは優しくナルトが告げる。
「そう、らしいな」
高鳴る心臓は、脳の奥に潜む本能が戦いを欲している。

強い相手と対峙し尚その強さに抗えないと理解しながら戦いを望む。
ガンガン鳴り始めた頭の痛みに顔を顰め、サスケは正直に認めた。

「急いてはいけない。御前はまだ一人立ちも迎えぬ雛。写輪眼が発動したくらいで気が緩むようでは早死にするわ」

 ドスッ。

鈍い音がしてサスケの耳先数ミリへ突き刺さるクナイ。
サスケの投げ出された両手を自分の両手と絡め、ナルトはサスケの上に身体を落とす。

「だからサスケの契約印はまだ、これ」

ナルトも多少は戦いで気分が高まっている。
薄っすら染まる頬と、艶を増す桃色の唇。
演技上のナルトからは想像もつかない、きちんと手入れされた潤い唇。
そっとサスケの唇へ合わさった。

「ここがサスケの契約印の場所。何時もと変わらない等と勘違いしないで? サスケが私に触れて良いのがこの場所という事」

 よしよし。

複雑な顔のサスケの頭を撫でてナルトは無表情で言う。

《今帰ったぞ、妹よ》
サスケが口を開きかければタイミング良く? 計ったように九尾が帰宅。
「お帰りなさい、兄様」
ナルトもサスケ等直ぐに頭から追い出し、喜々として九尾へ近づく。
九尾はナルトの肩へ落ち着きサスケの存在を無視してナルトと喋り始めた。
概ね、これが常の光景である。

「……」

印の場所が決まったのは良いのだけど。
兄の残した場所と、自分が許可された場所。

どちらが男にとって幸せなのか、微妙なところだ。

《馬鹿者が、心臓に近い方がより信頼に篤いという事だ》
一人静かに考えるサスケを嘲笑う九尾。
羽の手入れをしながら、サスケの内心を勝手に読む。

大分九尾に慣れてきているサスケは、無駄に口答えせず沈黙を守った。

《尤も、我の監視があるからな……。下僕二号が見た部分までしか、一号も見てはおらぬ。アレに触発され不埒を働いてみろ、うちはは子孫を残せず滅亡だぞ》

涼しい顔で忠告? 基脅す九尾へ、反論も攻撃もできない己が口惜しい。
ので、サスケは違った報復に出る事とした。

「ナルト」
忍術書、巻物を捲いていたナルトを呼べば、サスケに目線を合わせるナルト。
サスケは唇の端を僅かに持ち上げ笑って見せてから。
素早くナルトへ腕を伸ばし、その身体を抱きこむと唇を合わせた。

《!?》
全身の毛を猫のように逆立てて驚愕する九尾に。

「?」
サスケから積極的なスキンシップは珍しい等と。
案外すっとぼけた考えをめぐらせるナルト。

好対照な兄妹の反応にサスケは内心だけでガッツポーズを掲げた。

《良い度胸だ、下僕二号。我の怒りを買ってうちはを絶やすか?》
「ナルトからの許しは得ている、九尾」

九尾の噴出すチャクラは怖い。
でもナルトが許可した範囲で動いたサスケに非はない。

答えたサスケの澄まし顔、見遣って九尾は目を閉じ、それからサスケを蹴った。

外見は小鳥でも九尾である。
腐っても九尾、小さな足から繰り出される一撃は重く、強い。

内臓を深く圧迫される感覚と痛みに持っていかれる意識。
サスケは踏み止まれず呆気なく意識を手放した。


真の下僕(違)への道は遠く険しい。


 波の国に行く前にサスケは写輪眼を得ていた、という設定でお願いします。
 ナルコはちゃんと鍛えてあげてるんでサスケもそこそこは強いです(笑)ブラウザバックプリーズ