まーきんぐ?



中忍試験第三の試験修行期間。
初日。
病室から連れ出されたサスケは不機嫌なナルトと対峙していた。
「オの字の馬鹿……」
サスケの呪印に軽く噛み付いてナルトは一人で憤る。
「オの字って誰だ?」
なーんとなく。
答えは分かってしまっている自分だが、サスケは極力平静を装い低く唸っているナルトへ尋ねる。
「大蛇丸」
簡潔かつ大変分かりやすい答え。
一番聞きたくなかった答えにサスケは痛む身体から力を抜く。

呪印のチャクラ操作により思うように身体が動かない。
そんなぐったりサスケの為にナルトが用意したのはふかふかクッション。
上半身を起こした状態でサスケを座らせ、自身はサスケの上に乗っかって噛み噛み。

行動は小動物そのもの。
大人なんだか子供なんだか分からないナルトの性格。
気まぐれ我侭自己中心。
世界は自分と兄の為にある副産物だと半分本気で想ってるあたりがナルトらしい。

 そう感じ始めた俺も相当重症だな。

動かない右手を無理矢理持ち上げ、ナルトの頭を優しく撫でつつサスケは思った。
「なんか悔しい」
自分が可愛がっていた下僕にちょっかいだされれば腹も立つ。

これまで里外下僕しか居なかったナルトには初体験。
己の下僕に手を出す狼藉者が発生するとは青天の霹靂。
しかもその相手が兄の旧知だと知れば尚更だ。

「兄様に言って灸を据えてもらうことにした。だがその前に訊きたい」
ナルトは数センチ先の黒い双眸を覗き込む。
「私の下僕は厭? 厭ならオの字に払い下げる」

 モノかよ!

何処かの芸人口調で内心ナルトの問いかけに突っ込むサスケ。
流石に付き合いも一年近く経てばナルトへの対処法も上手くなる。

この選択肢に、サスケが解放されるという項目が無いのが作為的だ。

ナルトか大蛇丸か。

二者択一の選択。

暗にどちらかを切り捨て、たった一つ。
己に必要だと失えない者は誰か選べと。
ナルトの蒼き瞳が雄弁に物語っている。

 こいつも子供らしい面があったんだなぁ。

場面的には緊迫しているのに何故だかサスケは安堵してしまった。
自分ばかりが子供で、ナルトと九尾は達観的だと感じていたが。
どうやらナルトにも子供の部分は大いに残されているらしい。
普段の言動と行動がソレを分りにくくさせているのだ。

「俺は。力が欲しいと、イタチの足跡を辿りナルトに辿り着いて。殺されかけた時、御前から血の契約を受けた時から。俺は御前のモノだ」
努めて冷静にナルトへ返事をすれば。
ナルトはふにゃんと表情を崩し、サスケの耳を柔らかい唇で咥えた。

ここでサスケが『お前は俺のモンだ』と言い切れないのは、偏(ひとえ)にサスケがヘタレだからである。(合掌)

 どこをどう解釈したら俺があの蛇のモンになるんだよ。
 呪印は厄介だけどな。

内心憤るサスケを他所にナルトはすっかり甘えモードで、サスケにぴったりひっついて。
その温もりを堪能中。
三歳くらいの子供が巨大ティディーベアに抱きつくのと要領は同じで。
気がつかないのはサスケだけで、ナルトからすれば大切な玩具が奪われるかもしれない危機を脱した安堵感で一杯だ。

サスケはナルトのされるが儘。
襲い掛かろうともしないし、時折ナルトの首に顔を埋めて匂いを嗅いでいるだけ。
赤丸と似たような行動を取る。
当然ナルトがそんな風にサスケを見ているのを当人は知る由もなく。

犬レベルと同じ扱いの彼はいつ真実に気づくのか、道のりは遠そうでもある。(二度目の合掌)

「お揃いにして?」
ぼんやりしていたサスケの耳に、ナルトのいつになく甘えた声。
目線をナルトへ戻せば鎖骨部分まで服をはだけさせたナルトが居た。
「?」
眉間に皺を寄せればナルトが自分の首筋を指で示す。
「ココ。サスケは私の元に残るという約束」
ナルトの突拍子も無い行動と発言には慣れているつもり。

だが、これは久々にキた。
ツンとする鼻の奥と流れ出る温かいものの感触。

「……」
真顔で鼻血を出したサスケにナルトは口を閉ざす。

端正な顔が台無しだ。
自分で引き止めておいてなんだが、うっかりオの字へ引き渡そうか。
なんてナルトは瞬間真剣に考えた。

《なにを遊んでいる、妹よ。我が止めよと申しただろう》
真打登場。
ため息ついてサスケの鼻にティッシュを詰めるナルトに、九尾の化身の小鳥が姿を見せる。
「だって、兄様。兄様があの自来也と修行している間、暇だったから。つい」
萎れた調子で謝るナルトに九尾は嘆息した。
《下僕。妹が本気で言っているかどうか位判断せぬか。お揃いでつけた跡をオの字に自慢されるだけだぞ。大切なペットがじゃれていった跡とか抜かしてな》
珍しくナルトを叱り、サスケに注意を促す九尾。

沸騰しそうな頭が徐々に冷えていく中、サスケは九尾の言葉を頭の中で反芻した。

 ナルトは本気じゃない→
 でも俺のマーキング(大蛇丸作)は許せない→お揃いをつける→
 大蛇丸にナルトが跡を見せる→俺はナルトのモノだと自慢する→
 ペットと遊んでと言いながら……??

 ちょっと待て!!!

 俺はペットかぁあぁぁあぁぁ!!!!

心の中で頭を抱え絶叫するサスケに追い討ちをかけるブツが一つ。
ナルトの桃色肌の太股から紙切れがはみ出している。
キバの字らしい文字で、ペット躾法なんて記されていたりして。

「それで結局何がしたいんだ、ナルト」
諦めてサスケはナルトに直接問いかけることにした。
「暇を持て余していたの。偶然散歩中に在ったキバにペットの躾法を聞いて、サスケにしようと考えた。オの字に盗られるのは嫌だからきちんと躾しようと」
「……そうか」
ソコ(ナルトがしようとした、躾)に愛情は多少含まれるらしい。
キレる気力も失せてサスケは小さく相槌を打った。

そこで目の前にはだけたままのナルトの鎖骨が目に入る。

 コレ位は御前のワガママのお釣りってコトで、させて貰う!

ナルトの頬に手を沿えサスケはナルトの肩に歯を立てる。
キスマークをつけてから、綺麗に歯形を残した。

《付け上がるでないっ!! 下僕!!!》
噴き出す九尾のチャクラと。
鏡で素早く自分の首を確かめ「想像と違う」なんて、落胆するナルト。
九尾の素早い攻撃を喰らいつつサスケは薄っすら勝ち誇った笑みを浮かべた。

対象がナルトならまーきんぐも命がけ、らしい。


ナルトの不評によって、二度と『歯形』は駄目だと。

きつく言われたサスケだったが、それなりに男のメルヘンはゲットできたようであった。


やっ、サスケ氏嫌いじゃ無いですけど……徐々に扱いが酷くなってるのはなんでだろう?? ブラウザバックプリーズ