観察記(対象者:下僕二号サスケ)




里人の反応は大雑把に言えば二つ、ふ た つ。

明らかな嫌がらせか、同情を含んだ嫌がらせか。


事も無げに説明して自分の怪我を治療する少女。
見ているだけでも凄惨なその傷跡から目を逸らしたサスケの前には九尾の化身の小鳥。

《案ずるな。これしきの怪我なら我が直ぐ治す》

別に心配しているわけじゃない。
喉元まで競りあがる言葉を無理矢理飲み込み、サスケは目線を少女へ戻した。
「サスケ?」
己と兄様意外にはまったく無頓着・無関心。
少女は不思議そうにサスケの名を口にした。
「どうして俺の家なんだ?」
そこで漸くサスケは本来の質問を思い出して声にする。
「サスケの家は誰も居ないし。私に対する監視も無いから」
当然のように返ってくる言葉。

サスケは顔を引き攣らせつつ「そうか」と答えた。

「結界を張れば私と兄様が静かに過ごせる。自分で作ったとはいえ、表の私は五月蝿すぎて敵わない」
ため息と共に零れる少女の本音。

案外普通の感覚を持ち合わせる少女の疲れた様子に。
不覚にもときめく馬鹿二人(?)

《良いのだ、妹よ。疲れたならばこの下僕の弟の生家を利用すればいい》
遠まわしすぎだ。
九尾、『疲れたら下僕第一号イタチの弟で、現在下僕二号のうちは サスケの家を利用しろ』なんて言っているのだ。
言われて感づけないほどサスケだって馬鹿ではない。

アカデミー生から比べれば。
「仮とはいえ契約もある。俺は強くなる為ならお前でも利用するぜ」

それはきっと100年経っても無理。

サスケの強がりに少女は薄い笑みを浮かべた。
「ありがと」
小鳥の背中をそっと撫で、サスケには何故かキス。
「……」
《……常々疑問だったのだが?》
薄い黄色の色彩を持つ小鳥。
一見すればタダの小鳥から噴出する禍々しいチャクラ。
思わずサスケは気を失いかけ根性で気力を保つ。
《何故アレには接吻なのだ?》
「兄様が実体持ってくれないから」
九尾の疑問に簡潔に答える。

ナルトは包帯を綺麗に巻き終え、余った包帯を救急箱へ仕舞う。
消毒液と綿棒もきちんと揃えて箱の中。

「それにペットでも長く飼っていれば愛着が湧く。そんな感じ」
無邪気に笑う少女に九尾は納得。
サスケは撃沈。
「キバが赤丸にしようとして嫌がられてた。固い絆を持っていてもそこら辺は駄目なんだ、って思ったら。ウチはどうなんだろうって思って」
先日少女が目撃した犬塚キバと相棒の赤丸。
彼等のスキンシップを見て芽生えた素朴な疑問。
それ以来サスケへのご褒美はキス。
《成る程な》
非常に腑に落ちないのを感じているのはサスケだけ。
九尾は先ほどと打って変わった調子で少女に相槌を打っている。
「サスケ、今日の修行は駄目になったから食事の訓練をつける」
「食事?」
「効率的な食事の取り方。上に上がれば極限状態での食事を強いられる。大体は携帯食を食べるんだけど、場合によっては獣、若しくは人肉」

 ぶはっ。

サスケは飲みかけのお茶を噴出した。

「……汚い」
軽蔑の眼差しがサスケに注がれる。
「復讐するんだったら、ナニが何でも生き延びる。位の気合を持たないと、いけないんじゃないの?」
あくまでも他人事。
実際にも他人事。
疑問系で復讐に心血を注ぐサスケに聞き返す辺り、少女は尊大で大胆だ。

「ナルト……」
ナルトは可愛い。
黙っていれば可愛らしい。
顔立ちは整ってるし身体のパーツだって将来有望だ。

破綻したとしか評しようの無い性格を除けば。

表のナルトは底抜けに明るく向日葵のようだが本当のナルトは食虫花のようだ。

少女の、ナルトの名前を呼び、サスケはどう言葉を続けようか考えた。
「というのは冗談として。まあ、植物とか木の実とかで最低限のエネルギーを補う。死体処理班じゃあるまいし、人肉なんて早々食べるもんじゃないよ」
「真顔で冗談言うのは止めてくれ」
項垂れるサスケの頭を、ヨシヨシと撫でるナルトの姿はさながらブリーダー。
「普段がクールで強がるサスケを見ると。つい」
悪びれも無く。
ナルトは九尾に向って語りかける。
《ああ、アレは下僕一号と相通ずる部分がある》
羽を嘴でつつき整え九尾はのんびりナルトの意見に同意した。

このシスコン妖狐、まず妹(ナルト)の意見に反論する事は滅多に無い。

「似てるよねぇ? 躾方法も同じだし」
《ああ、似ておる》
うちは家の居間で堂々と寛ぎ、さり気に酷い台詞をさらっと吐く。

そんな暴言を耳にしていても。
何故だか彼女を嫌いになれないのは何故だろう。

「でも本当は違う。分かってるよ?サスケはサスケが間違えさえしなければ、イタチよりも強くなれる」

多分。
うちはの血を誰よりも貴重に思わず。
イタチでさえも下僕呼ばわりし。

サスケの境遇を露ほども不幸と思わぬデカ過ぎる態度。
それから時折垣間見せるこの優しさかもしれない。

《扱いやすい下僕だな》
九尾の冷笑にサスケが切れるまで後数秒。
「暇なサスケ、ついでに兄様も」
飛び交うチャクラと忍術をバックにナルトは大きな欠伸を漏らし、夕飯を作るべく台所へ姿を消すのだった。


ブリーダー・ナルコ。一匹狼(サスケ)を飼いならしていく?ていう話かな(苦笑)こっちの小話集はこんなノリで。ブラウザバックプリーズ