女王様の基準



挑発的に笑う我愛羅。
顔色を悪くするサクラの意識はない。

ナルトは太陽を連想させる笑顔を綺麗に捨て去って能面のような無表情。
冴え冴えとした冷たい眼差しを我愛羅へ向けた。

「馬鹿だな」
呪印の影響で機敏に動けないサスケは鼻で我愛羅を笑う。
サスケの嘲笑に気づいたテマリが眉間に皺を寄せサスケを見やる。

「確かにアイツ(我愛羅)は強いかもしれない。何かをその身に宿しているのかもしれない。だが逆鱗に触れた。残念だな、お前の弟だろ?」
寡黙と思われたサスケ、喋る喋る。

クールでありながら妙に悟った風のサスケに、テマリは己の中のうちはサスケの印象を書き換えた。

 こいつ、苦労人(同類)か?

当たらずとも遠からずである。
疲労の色が濃いサスケの顔を、同情に満ちた眼差しで見やればサスケはすいっと目を逸らす。

テマリとサスケの遣り取りを他所に我愛羅は不思議な高揚感を味わっていた。
体中の血が滾る。
半分は我愛羅の中の化け物のせいで、半分は無自覚な我愛羅の恋心だった。

「クククク……俺は」
語り出す我愛羅を他所にナルトは近くの枝に止まった、九尾の化身。
兄へと話しかけた。

「馬鹿ね」
《馬鹿だな》
うなずき合うナルトと九尾。

冷静なナルトと反比例して砂鶴と同調し本能を剥き出しにする我愛羅。
ナルトの口角が緩やかに持ち上がったのを目の端に捉え、サスケが最後を締め括った。
「命知らずだな」
サスケが言い終わるか終わらないうちに、砂の衣を纏った我愛羅の長い腕と尾尻がナルトを狙う。

平然と立ち尽くすナルトの前に九尾。
外見は雀並みの小鳥だがもの凄く強い。
嘴一突きで我愛羅の両腕と尾尻を粉砕。
なんだか得意そうに踏ん反り返っている。

「兄様v格好良いv」
薄っすら頬を赤く染め小鳥を見詰めるナルトの表情は。

数秒前とは打って変わって穏やかで奥ゆかしい。
我愛羅とサスケは心持ち鼻の下を伸ばして見惚れた。

《ええい!! 我の許可なしに妹の愛くるしい姿を見るでないわ》

ナルトセンサー(主に男達からの視線をキャッチし、いかがわしい視線ならば影で成敗する)標準装備の九尾は逆切れ。

サスケと我愛羅に容赦ない蹴り二撃。
しつこいようだが九尾の外見は雀位の大きさの小鳥である。

その九尾の小さな脚から繰り出される、目で察知できない速さの強烈な二撃。
サスケと我愛羅は受身を取れないままニ・三本の木を刳り貫きながらぶっ飛んでいった。

「……(大汗)」
軽々と吹き飛ばされた弟の姿を見送り、テマリは眩暈を感じて木の幹へ寄り掛かった。

ありえない。
ありえなさ過ぎる!!
ありえないっ!!!

テマリがこう考えてしまっても致し方ないだろう。
彼女はこの中で唯一の『常識人』なのだから。

「なんだ、他愛もない。砂狸といえどもこの程度か」
ナルトが嘲笑した瞬間、彼女の姿が消える。

 ゴガッ。

鈍い激突音とともに天高く舞う我愛羅の体。
蹴り上げて自身も空中へ飛び、ナルトは嫣然と微笑んでピンク色の下で唇をぺろりと舐めた。

刹那、ナルトの姿が消え我愛羅は砂の鎧も何もかもを剥がされて。
テマリが反応できない速度で、テマリが立つ近くの木へ叩きつけられた。

《オ、オイ!! 俺が悪いのか!?》
我愛羅の上半身が傾ぎ彼の声ではない別の声が焦って九尾に話しかける。
《当然であろう、狸よ。お主の出現で下らぬ“木の葉崩し”なるものが現実となったのだぞ? 我と我の妹が望む静かな生活が乱されたではないか》
応じて九尾素っ気無い。
《……大蛇丸の事はどう考えている?》
やや間があってからもう一度別の声が九尾に問うた。
《オの字か? あやつは妹を溺愛しておる。木の葉がどう転んでも妹の不利になる行動は取らぬ。手は打っておるし、オの字は妹には手を出さん》
淡々と答える九尾の返答が終わるか終わらないうちに、焦った口調で。
《お、俺も手をださねーよ!! 約束する!》
と、別の声が九尾に確約した。

九尾は真っ赤に染まった瞳を細め満足そうに笑う。
九尾の隣へ、気配も音もなく落下してきたナルトは冷ややかな眼差し向けた。

「いいでしょう。けれど私の大切な下僕サスケを軽んじた罪は重い。狸、早く本来の人格・我愛羅を表に出さないか」

半殺しで留めておいてあげる。

ナルトの可愛らしい薄紅色の唇から零れる物騒な言葉。
今まで見たナルトとのギャップについていけず、テマリは気絶寸前である。

我愛羅と一緒に飛ばされたサスケはナルトの言葉だけはきっちり耳で拾っていて、結構嬉しそうに一人ニヤニヤ笑っていた。

「大切な……大切な……か」
声に出してナルトの言葉を繰り返しブツブツ呟くサスケ。

大分危ない。

本来ならば下に『下僕』と付くのだが、サスケ当人は非常に幸せそうだ。
幸いサクラが気絶していて、テマリも動揺激しく。
サスケのかなり間違った認識をツッコむ常識人は居ない。

サスケが密かに幸せに浸っている木の直ぐ手前で。
ナルトはクナイ一つで我愛羅を切り刻んでいる。

我愛羅の意識もある状態で痛みだけを感じるように神経系統を重点的に攻撃。
それなりに手加減はしているらしく、我愛羅もある程度の攻撃はガードして(避けられるレベルの速さではない為)防ぎつつ。
拷問が終わるのをひたすら待つ。

心臓上の皮膚を薄く切り裂いたナルトは、最後に我愛羅の腹に蹴りを入れ吹き飛ばした。

「それ位の実力と生い立ち如きで『我を愛する修羅・我愛羅』と名乗るのはおこがましい。身の程を知れ、愚か者めが」
女王フェロモン全開のナルトがクスクス笑いながら、ズタボロの我愛羅を見下ろす。

それから無邪気な笑顔を湛え止めを刺した。

「無様だな」なんて、嘲りの言葉つきで。

九尾直伝の幻術。
本人のトラウマを激しく突くものでサスケも最初に味わった時、死ぬかと思った禁術である。
我愛羅の絶叫をバックミュージックにナルトはテマリに向き直る。
サクラは既に開放されていて、気がつけばパックンはぐっすり眠らされていた。

「早くソレを連れて帰って。もう一度家族の情愛を一から叩き込んでおきなさい。私と兄様だって仲良く出来るのに、人同士のお前達は何故仲良く出来ないの?」
ナルトの素朴な疑問であり指摘にテマリは大きく目を見開く。
九尾とナルトを交互に見詰め、テマリは深々と頭を下げて我愛羅・カンクロウと共に帰っていった。


女王様の基準は度し難く高かったり低かったりするが、それを知っているのは今のところナルトの対処を褒めちぎる九尾のみである。


 実はさり気にテマリさんは好きさ〜!! 可愛いよね! ブラウザバックプリーズ