嵐の昼に


早朝。
霧雨だった雨は昼に激しさを増し。
強風も相まって横殴りの激しい雨粒が木の葉の里を潤す。

風に揺られた電線が頼りなさ気に揺れていた。
雨を避けるものは何一つない。
雨に濡れた顔をただ一点に集中し。
少女は瞳を伝う雨水にさえ無頓着。

視界の端には黒尽くめの衣装を見につけた銀髪。
銀髪は己の存在をまだ把握していない。
知られないことこそが重要。

忍なら。

 裏の裏の裏。まで読めないと。

濡れ鼠の身体に水を吸い込んで重くなった衣服。
肌に吸い付く服の重さに顔を顰め。
それから両手を空へむけ万歳。

「なにやってんのよ!? ナルトォ?」
ギョッとした声音で自分に声をかけるのは、同じ班の心根の優しい少女。
桃色の長い髪を靡かせ、慌てて少女へ傘を差し出す。

「あ、サクラちゃん」
「サクラちゃん、じゃないでしょっ! アンタ、今日の天気予報とか見たの!? 大雨強風警報が出てたじゃない!」
顔を真っ赤にして怒るサクラに、キョトンとした顔で応じる。

ナルトは、ガミガミ怒るサクラのお小言を聞きながら、降りしきる雨をぼんやり眺めていた。

「いーい? 家に帰ってお風呂にしなさい……あ、そうだっ」
細々と風邪を引かないようにだとか。
色々ナルトへ説教していたサクラは、良い案でも思いついたようで満面の笑みを浮かべる。

内なるサクラも同時発動。
ナルトは相変わらず頭の巡りの悪い。
オンナノコを演じつつ小首を傾げる。

 嵐は好き。
 人の営みなど一息で壊してしまう荒々しさとその不可抗力が好き。
 雨音だけが耳入る野原に立ち。
 草の匂いと土の匂い。
 揺れる巨木の音を聞き。
 静寂を味わう。

如何せん木の葉の里は人々の雑念・思念に満ちていてナルトには五月蝿すぎるのだ。

だからこんな雨の日は散歩に限る。

「この間尾行してカカシ先生の家を発見したのよ。ここから一番近いから、よって行きましょう。お風呂くらい貸してくれるでしょ?」
サクラが誰に興味を持とうとも。
何をしようとも彼女の『自由』だ。
でも部下に自分の家を発見される上忍とは如何なもの?
「……」

 サクラちゃん、根性あるなぁ。

視界の端の銀色が慌てて移動したのを見ると、サクラがカカシの家を発見したのは『本当』なのだろう。
ナルトは尊敬の眼差しをサクラへ送った。

「ささ、禁断の男一人暮らしへ乱入よv」
年頃なら色々興味も湧く。
恐らくサクラはカカシの日頃の生活が見たいに違いない。

用もないのに押しかけては不自然。
けれど今はずぶ濡れのナルトが居る。
しかもナルトはれっきとした少女。
オンナノコが濡れて身体を冷やすのは。

 良くないわよね〜♪

と、いう訳で。
サクラはうきうきとした足取りで。
ナルトを伴いカカシ宅へ乱入したのだった。

あらましを説明したナルトは湯上りホカホカ。
ナルトの一人暮らしを心配したサクラによって、何故かカカシ宅へ強制お泊り。
台風が来るらしくナルトの住むボロアパートに女の子一人じゃ物騒なのだ、なんて言い張って。

こうして奇妙なタイミングでナルトはカカシと対峙することとなる。
「ほら、ナルト」
特にサクラが恐ろしいのか、カカシは驚きつつも二人の少女を我が家へ招きいれ。
ナルトの為に風呂を貸し。
服もカカシのだが上着を貸し。
サクラを家まで送り。
今はこうしてホットミルクの入ったマグ片手に甲斐甲斐しく世話を焼く。

「ありがとうってば! カカシせんせぇ」
普段着のカカシは上質のニットにジーンズ姿。
思ってたよりもラフだ。
口元まで覆うタイプの特注ニット着用だけど。

《うちはよりはセンスが良い》
腹の奥底がちょっぴり熱くなり、ナルトの脳内に兄の言葉が反響する。
ナルトはカカシが貸してくれた毛布に包まった格好で、ウトウトしつつホットミルクを口に含んだ。

(イタチとかサスケよりかは大人だな)
兄の考えに同意し、ナルトはカカシを見た。
ナルトが丸まった格好でうずくまる、居間のソファーから少しはなれた場所で新聞を読む先生を。

「せんせぇ?」
半分夢うつつ。でもこのチャンスを逃す手はない。
ちゃーんとナルトは考えていた。
掠れてしまった声でカカシを呼ぶ。
新聞を読んでいたカカシはナルトへ顔を向けた。

「せんせぇ? わたし、せんせーの大切な人を傷つけたのかな? あの慰霊碑の人達もそーなのかなぁ?」

先日。
慰霊碑を通りかかった七班。
ナルト限定で水をかけられた事件は記憶に新しい。
カカシは困った顔で笑う。

「わたし、居ないほうがいいのかなぁ? 生きているのはメイワクだってば?」
身体の奥底で、兄がナルトに《眠れ》とキレていたが。
滅多に彼の本心を覗く機会がないだけにナルトは狙って淡く笑いながらカカシの返答を待った。

眠さにトロンとした顔。
甘えるようなナルトの態度にカカシは表面上大人の態度を崩さない。

 中身(本心)が気になる。

 甘い罠を貴方に。
 紐の端っこを少しだけ握らせて上げる。
 私の中身を少しだけ見せるから、貴方も中身を見せて。

 晒して。

 望むべくモノがあるなら叶えてあげる。
 私にはその能力があるのだから。

(でも見えないだろうな、こいつの闇は)
忍として長く生き過ぎた男だ。

正直お近づきにはなりたくない。
だけど彼が担当上忍なのは事実。
ならば近すぎず、遠すぎず。
適度に距離を保っているか。
それとも彼の興味を引く別の何かを与えるか。
常々彼の監視は完璧すぎてナルトを苛々させていた。

偶然紛れ込んだイタチとは違う。
彼は正規の監視役。
ナニかあったら騒ぎどころの話じゃなくなる。

五月蝿くなるのはイヤだ。

「せんせぇ?」
狙ってもう一度呼びかけてみる。
「そーんなコトないよ」
だからオヤスミ? 声とふってくる大きな手。
兄と同じ大きくて暖かい手。
ナルトはふにゃりと微笑み眠りの中へ……?


「後2年は我慢か?」
一人自問自答するカカシの言葉に。

 カカシせんせーって、ちゃーんと女にもレンアイ感情抱けるんだ〜。

ナルト、失礼にもこのような感想を抱いた。

一時期、カカシが男に走ったと噂が立ったのだ。
くの一の間で。
有耶無耶になっていた噂を検証しよう。
ナルトなりの防衛手段。
情報は何よりも貴重なのだ。

それが後日。
男からロリコンへ訂正されたのをサスケが知り、何故だか激怒してナルトに説教している姿が木の葉の里で見受けられた。


話の繋がり的には姦しいのカカナル? 的後日談、みたいなお話です。ここでのカカシ先生はナルトスキーですv管理人がナルマニですからね(笑)ブラウザバックプリーズ