文通と押し花の関係


朝。
ナルトはボロアパートに設置された郵便受けを開ける。

大概は中傷の匿名ちらしだったり。下らないDMだったりするが。

中には宛名なしの封筒。
中身は押し花。
押し花を暫し見つめナルトはにっこり微笑む。

それから、下忍の任務集合場所へ向って元気良く走り出した。

「?」

ナルトの住むボロアパート上。
電信柱の電線にしゃがみ込んだ七班担当上忍。
はたけ カカシはナルトの不可思議な行動に首を捻っていた。

「おはよ〜、サクラちゃん」
「おはようナルト」
無邪気に手を振る妹のような少女。
今日も笑顔で楽しそうにサクラへ手を振っている。
サクラは読んでいた忍術書を閉じ顔を上げた。

「珍しいってばね? サクラちゃんが来てるなんて」

七班出勤率。
一番はナルトで次にサスケ。
互いに牽制しあうナルトとサスケに苦笑しつつ姿を見せるサクラ。

数時間後にベタな言い訳を伴って登場するのがカカシである。

「今日は占いで一番行動がツキって出てたのよ」
朝からブローも綺麗にきまってご機嫌。
サクラの顔に表れる感情を読み取りつつ。

ナルトは極力無関心を装って「ふぅん」相槌を返した。

「お早う」
微妙にトーンの低い低血圧気味の声。
いつも通りなのに少しだけ。
やつれた様子で集合場所に現れる三人一組唯一の少年。

「おはよう、サスケ君」
「おはよ、サスケ」
サクラ→ナルト。
の順に挨拶が交わされる。

後はただただひたすら待つだけ。
どんなに下らない理由を聞かされようが。
カカシが任務内容を持ってやって来るのを。

根性と忍耐の主に二つを用いてひたすらに待つのだ。

「いや〜、諸君。今日は……」
「「おっそーい(ってばよ)」」
本日の記録四時間三十二分五秒。
言い訳すら聞かずに早速突っ込むサクラとナルト。

言い訳を聞くよりも早く。

サクラとしては任務内容を聞いて任務に赴く方が懸命。
ナルトは朝に届いた連絡を確かめたかったので早く帰りたくて。

互いに思惑は違うけど気持ちは一緒だ。

『早く任務終わらせて帰らせろ』

「おや〜? 今日はヤル気満々なんだな、二人は」
テンションの高いサクラとナルトを見やり、カカシは言い。
視線を僅かにサスケへ。

「フン」

 興味ない。

そんな感じでサスケはそっぽを向いた。

このサスケの態度はナルトが求めたもの。
少しでも間違えれば九尾による『お仕置き』という名の八つ当たりが待っている。

サスケには暗示がかけられていて、ナルトに対する行動全てが制限されていた。
周囲から見たら一方的にサスケをライバル視するナルトと。
そんなお転婆を鼻で笑うサスケの出来上がり。

犬猿の仲。である。

「はいはい、じゃあ今日の任務に向おうか」
意図的? ナルトに手を差し出し、誘うカカシの態度はいつもと変わりなく。
「今日もあたしが活躍するってばv」
嬉しそうにカカシと手をつなぐナルトに。呆れた顔のサクラと。

「……」

 演技とはいえ。
 あそこまで見事だといっそカカシのにやけた顔が哀れに見えるな。

愛くるしい太陽のような。
向日葵のようなナルトの無邪気な笑顔。
楽しそうなナルトの雰囲気につられてカカシも微笑になる。
いつもの苦笑ではなく。

サスケは口に出して言うことのない感情を飲み込んで任務に赴くのであった。

第七班の任務は通常通り滞りなく。
ナルトの暴走とサスケとの喧嘩。サクラに叱られて、カカシに宥められて。
受付でイルカに慰められて。
騒がしい一日はあっという間に終わる。

いつも通りにカカシと別れ。サクラと別れ。サスケとも別れ。

一人いつものボロアパートに帰り。
手入れをするのは拾ってきた草花。

丁寧に鉢植えにして水をかける。

水播きするナルトの様子を観察する、カカシの視線を感じながら。

(兄様、どう思う?)
懐から取り出して広げるのは押し花。
《花梨の花に一八(いちはつ)》

 チィチィ。

ナルトの頭に舞い降りる小さな小鳥。
薄い黄色い羽に、茶色のつぶらな瞳。
薄茶の嘴。
雀ほどの小さな小鳥だ。

(花梨・可能性がある。一八・火の用心。火の国を、いや? 木の葉の現在を用心しなければならない。可能性がある、か)

イタチからの情報はある程度なら信頼できる。

現在は胡散臭い組織に所属していて、他里のSランクの犯罪者等とも行動を共にしているらしい。

様々な場所へ赴き組織の為の情報収集の傍ら。他里の情報もきっちり収集。
火の国の情勢や木の葉の里の評判。
多岐に渡り国外・里外の評価を細かに拾い上げる視野の広さ。
内側の自己評価と外側の客観的評価では温度差がある。

里の外を知るには行動に限界のあるナルトにとって、イタチの情報は役立つものなのだ。

《戦禍が巻き起こる、そのような兆候が外では見受けられるのだろう》

枯れかけの小さな葉を丁寧に取り除き。
各鉢の葉の状態を調べ美しく青々している様に笑みを零す。

数秒後。

カカシの気配が途絶えた。

「らしくもない」
ナルトが呟くと同時に背後へ覆いかぶさるように現れる長身の男。
赤い血のような瞳は健在である。

「契約の更新を」

律儀に数ヶ月おきにナルトの元を直接訪れ。
契約更新を求める律儀な下僕。

イタチがそっとナルトを己の腕の中に収めた。

「更新ね」
耳にかかる吐息がくすぐったくて、身を捩りつつナルトが皮肉混じりに呟く。

契約としてナルトのある場所に刻まれたキスマークが物議を醸し出すのはまず間違いない。
考えてほくそ笑むイタチは確信犯だった。

無論それを承知でイタチのしたいがままに遊ばせるナルトの方が一枚上手なのだが。


そんな事よりあのイタチが押し花をするという姿の方がよほど恐ろしい。
なんてナルトに指摘できる人間が、里にはいないのだった……。


 確かにイタチの押し花は怖いと思います。時期的には波直前位かな。ブラウザバックプリーズ