エリート転落劇


油断? それとも過信か。


全身血塗れ虫の息。
ヒュウ、ヒュウと微かに漏れる呼吸音だけが青年の存命を伝える。
幼子は嘆息し傍らの小鳥へ目線を送った。
《さて、どうしたものか》
愛くるしい容姿の黄色い羽を持った小鳥。
意外にもその声は低く、経験を積んだ大人の男の声で。
血塗れの青年は気力を振り絞り小鳥へ目を向ける。
「!?」
小鳥から溢れるチャクラは毒々しいを通り越し、禍々しい。
全身を走り抜ける恐怖と畏怖の感情。
本能的に危険だと青年は悟った。
「殺したらマズイよ? だってコレ暗部のシルシでしょう?」
男の二の腕に彫られた刺青。
足で遠慮なく突き幼子が小鳥に確認を取る。
《うむ。暗部だな》
小鳥は虫の息の青年の頭上に降り立ち、さして焦った風も無く。
幼子の疑問に答えている。
「つい勢い余って半殺しにしちゃったけど。この目って確か血継限界だよね?」
グリグリと青年に突き立てたクナイを弄くり倒し、幼子は青年の黒に戻った瞳を覗き込む。

頭に妖しいチャクラを放つ小鳥を乗せ。
目の前には己よりも遥かに強い幼子が呑気に己をいたぶっている。

奇妙な組み合わせと光景に青年は口元に笑みを湛えた。

《お前の技をコピーしてきたところを見ると、こやつはうちはの者だろう。写輪眼といって目に映した動きをコピーする能力を持っているのだ》
「ふぅん。真似っこかぁ」
見も蓋もありません。
子供の感性は時としてありのままを言葉にする。

幼子が納得して呟いた言葉に小鳥は満足そうだ。
《そうだ。お前は相変わらずの見込みが早いな》
「兄様が上手に教えてくれるからv」
もうすぐ死人目の前にして二人の世界を構築中。

青年は本気で『死』を身近に感じ、覚悟をした。

この不可解な結界の中。
中にいたのは蛇でもなく。
一見可愛らしい幼子と、小鳥。
ところがどうした、このコンビ(?)暗部の中でも最強を誇る青年をアッサリ仕留め。

しかも寸止めで生かしておいてこの会話を展開中だ。

「ねーえ? 取りあえず向こうに返しておこうか?このまま行方不明になったらきっと大騒ぎだよね?」
幼子は小鳥相手に青年の処分方法の検討に入った。
《我等の周りも騒がしくなる。それだけは避けたいな》
重々しい口調で小鳥は自分達だけの心配をする。
「五月蝿いのは嫌だな。あとね? 死体で発見されても、やっぱり大騒ぎだよね? 一応は有名なんでしょう?このええっと……?」
《写輪眼》
「そうそう! 赤目!」
幼子は手をポンと叩き相槌を打った。

それから幼子は己の指をクナイの刃で傷つけ、皮膚を割って膨れ上がる血を青年に与える。
「な……っ……」
絶句。
二の句が告げない。
青年は一気に回復した自らの身体を体感し、唖然とした。
「驚くのは後。さあ答えて? どうしてこの結界の中に入ってきたの」
両手を腰に当てて幼子は高飛車な態度で青年をねめつける。
「俺は暗部所属の木の葉の忍。名をうちは イタチという。
この結界を発見したのは本当に偶然だ。この辺りの敷地はかつて九尾の狐が暴れた戦場(いくさば)で誰も近寄らない。たまたま任務帰りにチャクラを感じて立ち寄っただけだ」
瀕死の重傷であった体は元通り。
青年・イタチは正直にありのままを答えた。
「うわ〜、いけてない〜」
露骨に相手をすげさむ口調で幼子はイタチへ言い返す。
《……なんと愚かな》
小鳥も幼子同様。
似たり寄ったりの感想を漏らした。
「私はうずまき ナルト。彼は兄様。今の今までこの結界は三代目火影でさえ見抜けなかった高度な結界。お前、それなりに強いんだねぇ?」
目を細め幼子、ナルトと名乗った童女はクツクツ喉奥で哂う。
「何故私が名乗ったか、意味はわかるな? お前がどんなに優秀だろうと、わたしと兄様の本性を暴く能力がないからだ。未来永劫、ね?」
ナルトはその小さな指先でイタチの目の縁を辿る。
さっきまで黒かった瞳は力を取り戻し血の様な赤い色に染まっていた。
《しようものなら命はないと思え》
駄目押しでイタチへ脅しをかける小鳥。
外見は小鳥だが恐らく。

イタチの考えが間違っていなければ。
彼は九尾の化身だ。
うずまき ナルトの体内に封印されている。
伝説の妖狐だ。

「命を奪わない。そのかわりココで体験したこと・見たことを胸のうちに仕舞っておけ。約束さえ守れば何もしやしない」
絶対たる王者の威厳さえ漂わせて。
ナルトは命令調でイタチへ言い放つ。
「何の得がある? いや……何を企んでいる?」
木の葉の忍。エリート街道驀進中のプライドはやっぱりこんな所で現れる。
イタチが取り立て正義感溢れる忍という訳ではなかったのだが。
矢張り住む里の安否は気にかかった。
「何も」
ナルトは無感情のまま呟く。
「誰にも邪魔されず静かに余生が遅れる穏やかな場所。それが私の望むモノだ」
「余生!?」
まだこんなに幼い子供が『余生』?
イタチは少なからず衝撃を受け動揺する。
「木の葉はこの上なく美しく醜悪だ。くだらん争いに巻き込まれるのはコレだけで十分。
私は私が暮しやすい環境を得る権利を持っているはずだ。
誰も傷つけないのなら、この権利を行使するくらい許されるだろう」
ニイ。
ナルトの唇が弧を描く。
「今日は還れ、お前のあるべき場所へ。抱える闇が深いお前は興味深い。
お前が望むなら力をやろう。ただし、力を望むならお前はある程度私に協力しろ」
「待てっ」
薄れゆくナルトと小鳥の姿に慌ててイタチが手を伸ばす。
が。
すぐに一人と一匹の残像は消え行き。

イタチは戦場へ舞い戻った。
「……」
見抜かれた。
隠していたつもりの心の奥底の衝動。

弟と同い年。
同い年の筈の少女に殺されかけた挙句、本心さえ見透かされ。
見透かしてそれでも甘言を囁きイタチをからかっている。


 強くて儚い美しき静かなる破壊者。


魅入られたのは己一人だと思えばそれも一興。
イタチは振り返ることなく戦場を後にする。


こうして木の葉最凶の子供は使える下僕一号を得たのであった。



んー、まあこれは私の中でも自己満足度がかなり高い小話シリーズなんで…。(要は捏造度が高くなるってコトですヨ☆)こんなイタチさん嫌だったらすみません。ブラウザバックプリーズ