取り扱いレベル

ある日ナルトに呼ばれて、ナルトの隠れ家に行った。
人口密度が増えていた。
(波の国の任務終了後、サスケの心の中日記より抜粋)


サスケは出迎えの人物を写輪眼で凝視した後、足元を確認する。
相手はキョトンとした顔をしたが、直ぐに笑顔になった。
「ああ! あんな別れ方をしたので驚かれるのも無理はないですね。お久しぶりです、サスケさん」
深々と頭を下げる白。
固まるサスケ。
「? どうかされましたか??」
頭を上げた白が心底不思議そうにサスケの顔を見る。
「これ等は私の手だ。下僕はうちはだけにしか認めてはいない。そう拗ねるな」
悪戯っぽい笑みを浮かべたナルトが玄関奥から現れる。
サスケは拗ねてはいなかったが、なんとなく分ってきていた。

「助けたのか?」
ナルトの力を以てすれば十二分に可能。
寧ろお釣りが出る。
サスケは過去の実体験を顧みてナルトへ尋ねた。
ナルトは笑みを深くするだけ。

 ……助けたのか。

少しだけ肩を落としてサスケはため息をついた。

なんだか馴染んでいる白の様子からして、すっかりナルト崇拝者となっている模様。
冗談じゃない。サスケは考える。

 これ以上要らんお邪魔虫が増えたら、俺の野望(ナルトに子供を生んでもらう)が!!
 打ち砕かれるじゃないかぁあ!!! ←徐々に彼の生き方は狂いつつある。

密かに闘志を燃やすサスケとは対照的に、腰の低い白。
サスケを居間に案内してお茶まで出してくれた。

「あの? サスケさん?」
殺気立つサスケに白は怯み気味。
おずおず話しかける白を遠慮なく睨むサスケ。

まるで犬が新しく来た猫に飼い主の手を奪われたような。
そんな雰囲気で。

「サスケ? どうしたの、そんなに怒って」
ナルトも訝しんでサスケを見やる。
剥れるサスケの額に口付けを送り抱き締めた。
それでもサスケは仏頂面を崩さない。
不機嫌なサスケにナルトと白は顔を見合わせて肩を竦めあう。

「やっぱり誤解されてますね、サスケさん。僕と今は修行に出てて居ない再不斬さんは、ナルトさんの“手”なんです。
僕達が口を挟めるのは戦略を見直す時だけ。サスケさんのように意見できる身分ではありません」

はにかんで笑う白は困った口調でサスケに説明した。

「分るか? サスケ。こうして抱き締めるのも、口付けを送るのも。気にかけるのも。木の葉の里ではサスケだけ。
白と再不斬は私の手。兄様と私の手。以上も以下もない」

支配者の顔でナルトが言い切る。

サスケの真正面の白は穏やかな顔つきで首を縦に振った。
二人がかりの説明でサスケは僅かに表情を和らげる。

「将来、ナルトさんが静かな生活を手に入れても。詮索する輩は出るでしょう。そんな時にも僕と再不斬さんはナルトさんの手となって動くのです」

決して隣に立っているのではない。サスケのように。

暗に白はサスケに伝えて、嬉しそうにナルトへ顔を向ける。
教師に問題を出された生徒が、正しい答えを言えたと。
確信した時と同じ子供の顔で。

「平凡の有難さを知らぬ阿呆には興味がないの。少なくとも私の手は、言葉の意味と重みを知っている。だから助けた」
ナルトは白に小さくうなずき返してサスケに補足的な説明をした。
「そうか」
ナルトを抱き締め返してサスケは小さく呟く。

「僕は当面サスケさんの修行相手を務めさせて頂きます。ナルトさんには、カカシの監視がありますし。彼の監視には九尾様もお怒りなんです」
畳に三つ指突いて土下座する白に面食らう。
サスケは鳩が豆鉄砲を食らった顔でもう一度固まるのを眺め、ナルトはサスケの前髪を指で払った。

「私の手を相手に修行しておいで。 サスケと私の関係を悟られてはいけない。あの男とは係わり合いになりたくないの、分るでしょう?」
サスケの目尻に口付けを落とし甘えた声音でナルトは囁く。

カカシはナルトの生い立ちを知っているのか、やたらとナルトを気遣う。
無論下忍のナルトには分り難い気遣いで表のナルトはカカシの配慮にまったく気がついていない。

裏を返せば本来のナルトは迷惑しきりだと言う事。

確かに。
一時期はロリコンだと騒がれたカカシと係わり合いになるのはご免だ。
ナルトに誤解されるのも里に誤解されるのも。
何より九尾におちょくられるのが、一番厭だ。

「当たり前だ。余り係わり合いになるな、駄目な大人の見本だからな」

憮然として言い放つサスケの機嫌が悪いので、ナルトは少し不思議そうな顔をした。

「駄目な大人かどうかは別として。忍として長く働きすぎた人だもの。私が裏をかこうとすれば必ず手痛くお仕置きされる。
決して嘗めてはいけない相手。
侮ってはいけない相手。
ならば大人しくしておいた方が賢明というもの」

カカシの情報収集の時。
偶然彼の家に泊まる機会が会った時。

カカシは悔しいくらい大人で公平だった、ナルトの立場に対して。
だからこそ警戒しなければとナルトは考えた。

 私が差し出した紐の端すら触れなかった相手。
 いえ、触れようとして、私がどう出るのか窺うような策士。
 ナルトというドベを認める大人だから余計に厄介だ。

トクトク波打つサスケの心音を聞きながらナルトは内心思った。

「……サクラに連れて行かれて、ナルトも泊まったっけ。アイツの家に」
思い出すだけ腸(はらわた)が煮えくり返る。
一気に殺気立つサスケにナルトは悪戯っぽい笑みを浮かべて唇を塞ぐ。
突然のナルトのキスに(大概ナルトのキスは唐突だ)サスケは己の殺気を散らした。

「邪魔でしょうから僕は庭の手入れをしてきます」
白がナルトに告げている間もキスは続行中。
動揺の欠片もない白は、呑気にナルトに断りを入れて退出する。

「サスケ。後悔してももう遅い。お前が望んだの、“この”場所を。ふふふ、白は“私”を知ったからこそ“ここ”まで来なかったのに」

ナルトの差し出す腕を受け入れても、人としての彼女しか見ないのは現在のところ三人。
九尾の兄に、イタチにサスケ。
年相応の少女としてナルトを見るサスケと、ナルトを道導として崇める白。
ナルトの取り扱いレベルが違うのだ。

「生憎俺はアレじゃないからな。お前は強いと思うし支配者だとも思う。だが恐れて崇める相手じゃない。俺にとってお前は手に入れるべき女だ」

 ナルトと俺の子供は美形だろうな。

なんて考えられるサスケも在る意味兵なのかもしれない。
真顔で言い切るサスケにナルトははんなり微笑む。

「褒め言葉として受け取っておく」
微笑みながら言われた言葉はきっとナルトの本心。
滅多に見れない甘えた笑みを見てサスケの理性が切れるのも後少し。
更にナルトに躾し直されるのも後少し。
数分もしないうちに居間で繰り広げられるのだった。




「本当、仲睦まじいですよね。あのお二人は」
「女王とペットじゃねぇのか!?」
庭掃除しながらニコニコ顔で言った白に、頭を抱える再不斬の姿もありましたとさ。



最後の再不斬さんの台詞がお気に入りですv ブラウザバックプリーズ