『一を聞けば十を知る男』
アメル・ネスティの犠牲により事なきを得た傀儡戦争。
終了してフォルテは自らの疑問を解消すべく彼女を呼び出した。
ゼラムの月明かり、照らされたギブソン・ミモザ邸のテラスにルヴァイドと現れるのは件の彼女・
である。
「悪いな、唐突に」
フォルテが片手を上げて詫びれば、本来の美少女姿の
は頭を左右に振った。
「構わぬが、ケイナには説明してきたのか? 汝の説得力は心もとないので証人用にルヴァイドを誘ってきたぞ」
サクッと言葉の刃を投げる にフォルテは苦笑い。
ルヴァイドは常と変わらない の皮肉にやんわり笑っている。
最後の方に仲間に加わったルヴァイドにさえ、フォルテとケイナは一セットという認識があるらしい。
認めるのも癪だが、否定するつもりも無い。
言葉に詰まったフォルテに
とルヴァイドは堪えきれず、声をあげて笑った。
「それより、だな」
ゴホン。
わざとらしく咳払いしてフォルテは自分の用件を切り出す。
「
位の実力があればメルギトスに囚われなかったんじゃないか、って俺は思ってたんだけどな。本当の所はどうなんだ?」
戦っていて気がつけばメルギトスの一部になっていた。
けれど は神である、腐っても神。
早々容易く大悪魔に捕まってしまうだろうか?
否、在り得ない。
結論付けたフォルテは当人へ直接尋ねることにした。
神といっても共に戦った仲間。
フォルテの問いかけに何らかの答を返してくれるだろうと踏んで。
「我一人ならば問題は無かったぞ」
真っ直ぐつき返される の答えにフォルテは体のバランスを崩す。
ルヴァイドが咄嗟にフォルテを掴んで、フォルテの地面とお友達はなんとか避けられた。
「は?」
フォルテは我が耳を疑い、思わず間抜けな問いをもう一度
へ。
「我一人ならメルギトス等に吸収はされまい。あれは一種の保険だったのだ、最悪の展開を迎えぬ為の」
策士の顔で答えた
に、フォルテと背後のルヴァイドは同じタイミングで黙り込んだ。
「メルギトスの狙いはクレスメントの血。過去にどうやら因縁があったらしいが、兎も角、メルギトスが狙っていたのはマグナとトリスで我は付属品のようなモノだ。
あの二人がメルギトスに取り込まれたなら汝等に対処しようがあるまい。我にも制約があり、メルギトスに二人が囚われたなら助けられなくなる。消去法で考え我が囮になった」
があっさり結論を口に出す。
フォルテとルヴァイドはそこまで に信頼されて嬉しいような、そこまで無条件に護ってもらう義理も無いような。
一言で言い表せない気持ちを抱え互いに眉間に皺を寄せる。
「それにな? 勝算はあったのだぞ? 我が取り込まれてもメルギトスの機械の身体は我そのモノに干渉できなんだ。ゼルフィルドが我を護ってくれていたからな」
言いながら は懐からゼルフィルドが唯一残したものを取り出し手のひらに。
月明かりを浴びて銀色に輝く小さなメモリー。
ゼルフィルドという名の機械兵士が確かに存在した唯一の証だ。
「 はゼルフィルドに懐いていたな……ゼルフィルドも
を案じていた。将であった俺から見ていても羨ましいくらいだったぞ」
目を細め の手のひらを覗きこんだルヴァイドは、テラスに置かれた椅子を三つ引っ張ってきてフォルテに勧める。
フォルテは弱々しく片手を上げルヴァイドへ感謝の気持ちを伝えた。
「ふふふ、妬けるか? だがゼルフィルドは己の存在を懸け、ルヴァイドとイオスの道を捻じ曲げたのだ。本来なら汝等もあの時に死んでいる筈だったからな」
メルギトスの罠に翻弄され、ファミィを襲ったあの時。
本来ならば利用価値の無くなったルヴァイドとイオスを、メルギトスは葬るつもりだったであろう。
に『死相が出ている』と云われ、理解した上でゼルフィルドは自爆し、ルヴァイドとイオスの心を揺り動かした。
死んで汚名を雪(そそ)ぐのではなく生きて罪を纏っても尚前を向き生きよ、と。
寡黙なゼルフィルドらしい命がけの劇にルヴァイドとイオスは涙が止まらなかった。
のは、一寸した余談である。
「そうらしいな」
戸惑いはある。
でも現実は受け入れる、目を背けたりはしない。
決意したルヴァイドは
の揶揄を受け入れた。
「我は人の運命に干渉出来ぬのだ、本来はな。かろうじて己の進むべき道を決めた者に微力の力になる事だけが許されておる。
力が使えぬ以上、相手にかける言葉である程度をフォローするしかあるまい」
「神様ってのも不便なんだな」
の説明を聞き終わったフォルテが心底そう感じて、感じたままを音に出した。
「フォルテほどではないかもしれぬぞ」
器用に唇の端を持ち上げて笑う 。
フォルテは何かを言いかけて何も無いのに咽込む。
シャムロックが暴露した気配も無いが、 は全てを見抜いているような気がしてならない。
乾いた笑みを浮かべるフォルテと怪訝そうなルヴァイド。
「汝等なら、我が伝えなくとも一つになってメルギトスと戦うと信じておった。だからあのように冒険してみたのだが、気に入らなかったか」
フォルテの動揺など気にせず話題をさり気なく元に戻す。
「いんや、逆に感謝してるさ。俺達が俺達だけで敵を倒す、この意味の凄さが分かってるから身を引いてくれたんだろう? 本当に敵に回したくないな、
は」
お節介を焼くのに色々決まりごとがあるらしい、神様の。
大胆不敵な調律者救済策。
功を奏したようで、中央エルバレスタを基点とした争いは見事人間側の勝利で納まった。
「褒め言葉として受け取っておこう」
ニンマリ含み笑いをして答えた の態度が可愛らしくて。
とても神には見えなくて。
妹が居るフォルテとしては『ヤンチャな妹みたいだな〜』なんて感じ。
ルヴァイドもルヴァイドで『妹が居たらこのような感触なのだろうな』等と考えている。
「オニイチャン、としては引き際が大事だもんな」
ネスティとアメル。
本当は樹になんてなっていなくて、別の場所に居るかもしれない。
考えていたけれど、フォルテは優しい神様の策に翻弄される事にして、追求を止めた。
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