『証』



今にもイオスへ噛み付きそうなマグナはさらっと無視。

 むぅ。どうしてこの二人はこうも仲が悪いのか……。
 トウヤ兄上も、ハヤト兄上も笑っているだけだ。何とかできぬものか。

胸中の悩みには蓋。
はため息を飲み込み、シャムロックが提唱する自由騎士団創設に賛同し旅立つイオスとルヴァイドを見据えた。
シャムロックはレナードとルウを連れ一足先にファナンへ旅立っている。

「落ち着いたら君に連絡をしても構わないか?」

信じてきた都市は悪魔の都市で、何もかもが虚言の中だった。
ショッキングな事件と自らの罪を背負い生きると決めたイオスは幾分スッキリした顔つきで へ聞く。

「無論だ。イオスがどのようにしているか手紙を貰えたら嬉しい。腰を据えたなら連絡先も教えてくれ、我も手紙を出す」
が笑顔で答えれば背後でマグナが啜り泣き、なぜかトリスに慰められ。
ハサハとバルレルからは冷笑がマグナに送られる。

トウヤとハヤトは『やれやれ』といった態で妹の激鈍反応に肩を竦めあう。

一番の貧乏くじを引いたルヴァイドとイオス。
彼等が立ち直り新たな道を選んでくれたのは嬉しい。
ゼルフィルドの願いそのままに、生き延びて新たな一歩を踏み出す彼等。

としても出来る範囲で彼等を励ましていきたいと考えていた。
ルヴァイドもイオスも、大切な仲間なのだから。

「シャムロックが提唱するような騎士団が出来たら、 にも見て欲しい。柵に縛られずに騎士として活動できる僕達の姿を……」
の手を取り、屈んで騎士風の礼を取りながらイオスが を見上げる。

「納得いかない!! どうしてアイツはああも……」
遂に我慢できなくなって叫びかけるマグナの口をハヤトが塞ぐ。

「気持ちは分かるし、別にマグナを咎めはしないけどな? ああゆうのはフェアにすべきだろう。イオスはマグナと違って にはちょくちょく会えないんだぜ?」
ハヤトがマグナを宥めれば、口を塞がれたマグナはモゴモゴ何かを言って。
諦めたのか眉を八の字に曲げた。

「その前にバノッサやキール、クラレットとカノンが立ちはだかるだろうけどね。死なないように気をつけて」

 ポンポン。

トウヤがのほほんとした笑顔を浮かべ、洒落ですまない冗談を口にして。
顔を引き攣らせたハヤトに「マジ洒落になってねーじゃん」なんて即座にツッコまれる。

「心配ないさ、 は人の感情には敏いけど。自分に向けられる恋愛を含んだ好意にはこっちが仰け反るくらい鈍いから。
その をその気にさせるなんて、相当長い年月かけないと無理だと思うよ、どっちもね」

マグナとイオスをそれぞれ一瞥し、トウヤが手痛い指摘を入れた。
トウヤの意見にハヤトも激鈍妹の表情を眺めマグナの口を解放し、頭を掻く。

「そーかも。本当、俺だって結構鈍いって言われるけど。 ほどじゃないもんな。 と恋人になるってのはさ、案外世界を滅ぼすより難しかったりして〜」
ハヤト本人は軽いジョークのつもりでも、あながち実際はハヤトの言う通りかもしれない。

なんとも奇妙な顔をして黙り込むトリスと、引き攣った笑顔を浮かべるトウヤ。
マグナはガックリ肩を落として落胆の色を隠さない。

「なーんてな……って、あれ???」
続いてハヤトが言った言葉に誰も反応を示さず、なんだかどんよりと重い空気を孕んでいる。
首を捻るハヤトだがトウヤも心ここに非ずの様なので取りあえず、妹とイオスの珍問答の続きを観戦する事にした。

「此度の悪魔との戦争で汝等が出した答えがそれならば、その答えの先を我は知りたい。その騎士団が早く見られるよう願っておるが、無理はするな?」
はイオスに手の甲への口付けを許容しながら釘を刺した。

軍人というのは、剣を携える職業を持つ者は大なり小なり直情的で良くも悪くも情熱的である。
ラムダ然り、シャムロック然り、ルヴァイド然り。
当然レイドやイリアスも程度は違うが情熱的といえば情熱的で、一度熱血ベクトルを間違えるととんでもない方向へ暴走してしまう。

 大分良い音を出すようになったが、イオスとルヴァイド。
 心地良い音にまでは到達してはおらぬ。
 これも時間が解決するのを待つしかないのだろうな。

罪悪感を拭えというには、彼等の誇りは高すぎる。
悪魔に操られていたとはいえ、行った非道は純然たる事実で消える事が無いのだから。

「ああ、分かっている。どちらにせよ、『どちらも』長期戦で構えないといけないらしいからな。無理せず気長にやるさ」
イオスは の手の甲へ口付けを落としてから顔を上げ、口角を持ち上げ口に笑みを浮かべた。

騎士団の創設も、彼女へのアプローチも。
本当の意味で『今』から始まる。
助けてもらった恩はあるがマグナに彼女を譲るつもりは毛頭無い。
あの兄や姉は手強いがそれでもこの気持ちに嘘をつく真似はするまいとイオスは想う。

「祭りの夜、 は僕を信じてこのピアスを託してくれた。 みたいに僕は神ではないけれど、君を心配する気持ちは持っている。だからこれを受け取って欲しい」
紫の瞳が愉快そうに煌き、己の首にかけていた緑の勾玉を の首へかける。

昨日決心と共に から貰ったピアスを自分の耳につけた。
脇の髪を払ってイオスはピアスを へ見せ「にこれを勾玉の代わりに肌身離さず持っていく」と の耳元へ囁く。

「流石は騎士、やるなぁ」
噛み合っている様で噛み合っていない の返事。
ハヤトは予想通りの展開と、その上を行こうとするイオスの精神に心の中で拍手。

付け加えて、騎士と名のつく人間はとことん気障なんだな〜等と感じる。

「あわわわわ……」
トリスは目の前で展開される恋愛小説? モドキにパニック寸前。

蒼の派閥純粋培養には少々目に悪い、耳に悪い言葉のオンパレードだったらしい。



マグナの嫉妬を煽りに煽って消えたイオス。
だが、どうやらマグナの向上心を買うのに一役買った? ようだ。

「マグナ!? 何読んでるの!?」
何時に無く真剣なマグナが書庫に居る。怪しすぎて思わずミモザはこう尋ねた。

「え? 恋する乙女は片手でも龍を殺す、の一巻ですけど……」
本から顔を上げたマグナが平然と応じる。
瞬間えもいわれぬ悪寒がミモザの背筋を駆け抜けた。

「ヒィイイ!! 明日は雨が降る! 槍が降る!! いや〜」
書庫で恋愛小説を読み漁るマグナに、ミモザが屋敷にとどろき渡る大絶叫を発したのは一寸したオマケであろう。



Created by DreamEditor
 イオスの決意の証って事で。
 彼は大人なので自分と主人公の世界観の違いも、寿命の違いも。色々考慮するタイプ。
 因みにマグナは考えないタイプ(笑)ブラウザバックプリーズ