『追憶の荒野1』



もう一度召喚儀式跡へ向かうというトウヤ・ハヤト・クラレット・カシス。
朝食を取るフラットの広間は賑やかである。

「四人で行くのか?」
単純に確認の意味を込め が尋ねれば、四人はほぼ同時にうなずいた。
「そうか。気をつけて出掛けるように」
常の らしからぬアッサリ感で、 は四人の外出を了承する。

深く追求もしなければ、説教もしない にハヤトが目を丸くした。
鳩が豆鉄砲を食らったように。

「えーっと……怒らないのか?」
「? 何故僕が脈絡も無くハヤトを怒らなければならない?」
躊躇いがちに尋ねたハヤトに は怪訝そうな口調で応じる。

「気をつけて行って参りますので、 も気をつけて下さいね」
一人したり顔のクラレットが平然と微笑みながら、 へ告げた。

ハヤトと の会話が続きそうなのに、それをぶった切って。
ハヤトは少々ムッとしたようで口をへの字に曲げるが、クラレットが怖いせいか押し黙る。

「ああ。土産は毛皮だ。楽しみにしておれ」
リプレ製作の美味しいパンを口へ運び、 も淡々と言葉を紡ぐ。

「「……毛皮?」」
会話についていけないカシスとトウヤが綺麗にハモった。

「フラットで使う薪を取りに行く森。最近、狼が現れて人を襲っているそうなんです。この間知り合いになったガレフの森の狩人、スウォンさんに聞きました」

と一緒に早朝森散歩をしていたクラレット。
森奥から現れた狩人のスウォンに事情を教えられ、叱られて。
それでも 共々彼の主張に耳を傾けたのだ。

 わたしと に意見するなんて命知らずですねv

なんてクラレットが考えていたのは、クラレットだけの秘密である。

「しかもスウォンは父親を狼の頭(かしら)に殺されていてな。……あれ一人で頭を狙うつもりだったらしいが、僕が同行するとの約束を取り付けた」
「おう! おれっちも頑張るぜ!!!」
の台詞にジンガも拳を振り上げてテンションを上げる。
背後ではガゼルが哀愁を漂わせて肩を落とし、レイドが苦笑して「俺が保護者だよ」と言った。

「それで毛皮か」
妙に納得したトウヤに、ハヤトは肘でトウヤの脇腹をつつく。

 違う、違う! 感心するポイントはソコじゃねーだろっ。

小さく首を横に振ってハヤトがトウヤに目で訴える。
流石は幼馴染。
ハヤトの訴えを察してトウヤは眉根を寄せる仕草で謝った。

「ふぅーん。毛皮もなめせばコートになるんじゃない?」
カシスが言いながらリプレを見る。

「う〜ん、どうなんだろう? 流石に革は扱ったことないし……皮は洋品店へ売ってみたらどうかしら? そういった事はスウォン君だっけ? 彼の方が詳しいと思うわ」
カシスからの視線を受けリプレが口を開いた。

「つまりは今日は互いに別行動だということだ。くれぐれも無茶はせぬように」
澄まし顔で言い切った

「そっくりそのままその言葉を に返すよ!!」と、文句を言いたくても言えない殆どのメンバーは曖昧に笑う。
唯一、クラレットだけはニコニコ笑って「はいv」なんて返事を返していた。
一足早く出発したトウヤ達四人を見送って、狼狩チームはフラットでリプレの手伝い。

「うっ……き、緊張するぜ」
戦闘とは打って変わってジンガが から渡された皿を手にする。
「ジンガ兄ちゃん、割らないようにね〜」
慣れた手つきのアルバは少し離れた場所でカップを片付けていた。

「あううわわ……」

慎重な手つきで食器を片付けるジンガ。
壊すのはお手の物でも繊細な動きは苦手らしい。
奇妙な悲鳴をあげながら一枚一枚片付けていく。

「これも修行だと思えばよかろう」
は食器を渡しながら言う。

本人の話によれば放浪生活が長かったせいで、このような食器を片付けたり等と言う作業には無縁。
ジンガは心臓をバクバク鳴らして食器の片づけを行っていく。

「たぁーとっと……」
最後の一枚を変な奇声で締め括り。
ジンガは無事に皿を片付け終わった。

「ありがとう、皆」
フィズに肩を叩いてもらっていたリプレが笑顔でお手伝い組を労う。
アルバ・ジンガのお手伝い組は頬を少し染める。
は顔色を変えずに「当然の行為だ」等と。相変わらずのポーカーフェイス。

「こっちは準備できたぞ〜」
広間の方からガゼルの声が響く。
一連のお手伝いを終えた とジンガは頷き合う。

「では行くか、ジンガ」
「おうっ!」
を先頭としてジンガが後に続く。

「お土産宜しくね〜」
フィズが呑気に手を振った。

「話を聞かせてくれよ」
アルバがアルバらしい言葉を放ち。

「気をつけて行ってらっしゃい。怪我しないようにね」
最後の締め括りはリプレ。

の性格を知るにつれ、強さを知るにつれ。
外見の幼さは別として 自身を深く信頼しているリプレである。
相手に下手な釘は刺さない。

「ああ、行ってくる」
手だけを左右に振って 達はフラットを後にした。
ぞろぞろ歩いてスウォンと待ち合わせた森の入り口へと向かう。

「物好きだよな、
ガゼルは腕を頭の後ろに回して、 へ話しかけた。

「そうか? この森で薪を取っている以上、遅かれ早かれ狼に襲われる。危険の芽は早いうちに摘まなければならない」
酷く冷静に が事実を指摘する。

も時折子供達と薪を取りに来ている森だ。
狼が出るなんて危険極まりない。
としてはいち早く危険を回避したかった。
加えてスウォンの奏でる音の雑音を取り除いてやりたかった。

「確かに、人を襲う狼が現れるなら危険だな」
森を見上げてレイドも の意見に同意する。
「腕が鳴るぜ〜」
一際大きいジンガの声が森の入り口に響き渡る。
驚いた鳥が木々から飛び立っていく。

鳥と同じ位。
森の入り口に寄り掛かって立っていた、緑の服の少年が驚いて背後を振り返る。

「久しいな、スウォン」
少年の瞳が を捉えた。
は片手を上げて緑の服の少年・スウォンへ挨拶する。

「本当に……来たんですね、 さん」
肩にかけた弓を掛けなおし、スウォンが奇妙な顔で を見下ろす。
「約束を違えなければならない理由は、僕にはない」
スウォンの乱れる心を無視し、 は狼狩チームのメンバーをスウォンに紹介した。

年長者のレイドからガゼル・ジンガの順。
エドスも心配していたが、エドスは貴重なフラットの働き手なので今回は仕事へ行ってもらっている。

「有難う御座います。皆さん」
心の蟠りは解けない。
礼を言って頭を下げながらも、スウォンは釈然としない気持ちを抱えていた。

「構わぬ。土産を頼まれているのでな、早速出発しよう。案内を頼むぞ、スウォン」
年長者のレイドを差し置いて が場を取り仕切る。
「ううう〜!!!! 頑張るぜっ」
腕をグルグル回してジンガが再度大きな声で叫んだ。

ジンガの口をレイドが苦笑いしながら押さえる。
獣の注意を無駄に引いてしまうし、その元気は狼の頭に会うまで取っておいて欲しかった。

「おいおい、今回の回復役は しか居ないんだぜ!? この間みたいに一人で突っ走るなよ?」

この間とはバノッサとの喧嘩の一件。

真っ直ぐな性格のまま突っ走るジンガらしい戦い方は。
正攻法過ぎて周囲に被害を与える。
レイドに口を押さえられていたジンガはモゴモゴ言って、慌ててレイドがジンガの口を開放した。

「わかってらぁ……気をつけるよ」
ガゼルの注意にしゅんとしてジンガが口先を尖らせる。

二人の遣り取りにスウォンの表情が和らいでいく。

「案ずるな。僕達には何より強い絆がある。悲劇を繰り返さない為にも頑張ろうではないか」
の一言がきっかけとなり、全員が表情を引き締める。
こうしてスウォンが先頭に立ちメンバーは森の中へと進んで行った。




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 追憶の荒野をしてるのはトウヤ達。こっちは狩組みでっす。ブラウザバックプリーズ