『話題休閑・戦乱の紡ぎ手2その後』
トウヤとカシスが項垂れて一室から出てくる。
「二人でも駄目か」
表情を暗くしてレイドが足元へ目を落とした。
「助けたのにあの態度ってないよな〜!!!」
地団太を踏んで悔しがるハヤト。
トウヤは曖昧に笑って人差し指を己の口に当てる。
「駄目だよ。俺達の独断で動いた結果、助かったのがローカスさんなんだから」
不満そうに膨れるハヤトをトウヤが宥めた。
口先を尖らせ、ハヤトはこれみよがしに舌打ちする。
子供達は既に寝静まった夜更け。
トウヤ達の独断で連れてきたローカスは不機嫌絶好調で、喧嘩腰の態度をフラットのメンバーへ取っていた。
「ったく、次から次へと厄介ごとに首を突っ込むのな、お前達は」
嫌味は篭っていない。
本気で呆れるガゼルに返す言葉がないトウヤ。
「仕方ないじゃない。放ってはおけないわ、やっぱり」
台所の片づけを終えたリプレが、ホットミルクの入ったマグを持って広間に戻ってくる。
レイド・ガゼル・エドス・カシス・トウヤ・ハヤトの順にマグを置き、自身も座った。
「そうだな。他人事とは思えんなぁ」
腕組みしたエドスがしみじみ呟く。
エドスの言葉に重苦しい空気が広間に流れる。
「大人組みが雁首揃えて、鬱陶しい空気をばら撒くな。カビが生える」
既に眠っていたはずの が口調だけは呆れた様子で。
平然と広間にやって来た。
「おまっ……
、寝たんじゃないのか?」
文句を舌先にまで乗せるが、我慢、我慢。
飲み込んでハヤトが に至極当然な質問を放った。
横でリプレとガゼルが頷いている。
「寝たぞ。だがな、先延ばしにするとローカスがココを出て行きそうだからな。釘だけは刺さねばと思って起きてきた」
良く見れば無理矢理起きてきたかもしれない。
の瞼は少々腫れぼったくなっていて、小さな口からは欠伸が漏れる。
眠気と戦っているのか、半眼の 。
ハヤトはガゼルとカシスとトウヤとレイドと。エドスとリプレとアイコンタクト。
全員が小さく笑って同意したので、勢いよく立ち上がる。
「そっか。なら俺と行くか!」
「頼りないな、ハヤトとか」
気を利かせたハヤトの申し出に冷たい返事。
顔を引き攣らせるハヤトに、ハヤトの肩を叩いて首を横に振るエドス。
トウヤはガンバレと言いたげに笑っていて。
「でもハヤトと一緒に行ってらっしゃい」
フラット最強リプレママの鶴の一声。
彼女の命令に は渋々ハヤトと手を繋いで、ローカスを寝かせている客室へと姿を消した。
ノックをしてから返事を待たずに部屋へ雪崩れ込むハヤトと、ハヤトに引き摺られる 。
フラットにおいては珍妙な組み合わせだがローカスには無意味。
「何の用だ」
眼光鋭く警戒を解かない。
ローカスは床に座った状態でハヤトと
を睨み付けた。
「用件だけ手短に伝える」
何度も瞬きをして
は口を開く。
「勝手に助けたのだ。それは十二分に分っている。恩を着せるつもりなど毛の先ほどもない。
だが、受け入れたフラットのメンバーには感謝して欲しい。見て分る通り、ここは裕福ではないからな」
「……」
の忌憚のない台詞にローカスは口を噤む。
「僕等の行動に感謝して欲しいわけじゃない。怪我が治るまででいい。ここで身体を休めると同時に、少しはフラットの手伝いをしてくれ。言いたい事はそれだけだ」
眠さか。
舌足らずに言葉を紡ぎ、 は大きく息を吐き出した。
半ばハヤトに縋るようにして立ち、頭は舟を扱ぎ始める。
「って訳だから! これからどうするかは別にしてさ。今日くらいはゆっくり休めよ」
の両脇に腕を差込み、ハヤトは小さな身体を持ち上げて。
努めて明るい口調でローカスへ告げて部屋を出た。
一人残されたローカスは窓から差し込む月明かりに顔を向け、腕組みしながらずっとその格好でいたのだった。
ローカスが月明かりに顔を向けた頃。
達の共同の部屋で。
ハヤトは
を寝かしつけながら一つの疑問を口にする。
「どうしてローカスを助けたんだ? 俺が助けたいって考えた理由と、
が考えた理由って別だろ?」
比べ物にならない位。
は底の深い性格をしているし、時々人を人とも思わない発言をして平然としている。
戦闘訓練の時の なんてさ。
まぢ、魔王じみてるよなぁ。
俺達が襲った野盗連中は暫く魘されて、サイジェントに二度と近寄らないって。
聞いたけどさ。本当かも。
広場で納税の光景を見て冷静だった 。
今日の映像を思い出しつつ、ハヤトは
の身体に毛布を掛ける。
「考えもなしにローカスを助けたわけじゃない。あの時、ローカスと共に喚いていた輩は何者だ? ローカス達を勝手に扇動し、勝手に見捨てるとは。
いくら街の為とはいえ感心せぬ。そうは思わないか?」
小さな声で発せられる の意見。
ハヤトは
の乱れた前髪を撫でつけ、奇妙な唸り声を上げた。
「うーん。確かに怪しいよなぁ」
やっぱり は小さいけれどなんだか凄い。
感心しながらハヤトは相槌を打つ。
「それにRPGゲームの典型的展開に沿っていくならば。今後も益々諍いに巻き込まれる確率が上がる。だから戦闘要員は多ければ多いほどこちらに有利だ」
しかし、 が大真面目で言った次の発言に。
やっぱりこいつはガキだなぁ。
なんて、ハヤトは認識を改めてしまう。
「……さいですか」
今度は棒読みで相槌を打つハヤト。
は既に夢の国の住人で、ハヤトの相槌を待たずに熟睡体制。
穏やかに寝息を立てている。
「寝顔は子供っぽいのになぁ〜」
ハヤトは、
のふっくらほっぺをフニフニ突きながらひとりごちた。
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