『誓約の戦士達1』




ソレは青い光を無数に従え、優美に微笑む。
「すまぬな、サイサリス。起こしてもらった」
呆然とする一部を除きマイペース。
サイサリスは黙って首を横に振る。

次にソレはペルゴから無色のサモナイト石を受け取り。
ラムダが立ち尽くす仲間をどけて作った道を歩く。

「召喚!!」
しなやかな腕が石を手にした状態で掲げられ、召喚術発動時の独特の光が溢れる。
アルトに近いが耳に心地良い声音。
儚げな姿なのに力強い輝きと空気を感じるアンバランス。
面々が固唾を呑んで見守る中。

 バッチコーン。

ソレが召喚したハリセンがバノッサの頭を叩く。

「いい加減にせぬか。我の加護が在る故、汝が取り込まれることはない。単に己の不甲斐無さに腹を立てて身体を乗っ取らせているのであろう? 案ずるな、カノンは無事だ」

 やれやれ。

ため息混じりにソレがバノッサへ説教を開始した。

「はい!? 生きてる??? 生きてるって」
カシスが叫び駆け出して、その後をスタウトが追う。
カノンの元に到達したカシスが脈を測り顔を輝かせる「生きてる」と。

「あの時『うるせぇよ』……我にそう申したではないか!」
バノッサの変形した無数の腕がソレの髪を撫で、形の良い顎に手を掛ける。
ソレは怯む気配も見せずにバノッサの頬に両手を添えた。

「本当は全て承知していたのだろう? 世界の王になれるなど、本気で思っていなかったのであろう? ただ……」
「う……るせぇ……よ……」
喋るソレの言葉を遮り、バノッサは一言言った。
刹那、紫色の光はバノッサを中心に収束し、瞬く間に吸い込まれていく。

「そうか! そうなんだ」
キールが一歩前へ踏みだし、クラレットとトウヤの肩を叩く。

「バノッサは、いや、兄上は。恐らく憑依体質なんだ。魔力を感じないのは、召喚対象の力を取り込める体質だからだ……。
パッと見は魔力のない子供に見えて実はそうじゃない。だけど彼は兄上の特異体質に気づかなかった」

チラリとオルドレイクへ目を向け、また直ぐにクラレットとトウヤに顔を戻し。
興奮した調子でキールが説明した。

「だからあんなに悪魔を呼べたのですね? 宝玉の力もあったんでしょうけど、半分以上はバノッサの、いいえお兄様自身の力で」

状況を理解したクラレットが口元を綻ばせ、元の姿を取り戻してくバノッサを見詰める。

「しかも宝玉の力を補助に、魔王の力を自分の力にしたんだ。加護の力もあったから可能な奇跡みたいな……凄い、奇跡を兄上は起こしているんだよ」

元の姿に戻ったバノッサがソレの髪を乱暴に乱し。
ソレは不服そうに頬を膨らませた。

「だとしたら、魔王は?」
トウヤは顎に手を当て考え込む。

確かにあの瞬間、サプレスとの門は開いた。
魔力が大量に流れ込み、魔王がやって来たのだ。
これだけは間違えようのない事実。

「行き場のない魔力は暴走する。魔王といってもこの世界に具現化するには、器が必要だ。器に力の半分以上を奪われた魔王はどうするか……、いけない! オルドレイクから離れるんだ!!」

霊界のスペシャリスト。
ギブソンが可能性に気がつき、大声を張り上げた。
ギブソンの鋭い声に全員が我に返ってオルドレイクから距離を取る。

『フフアファアファファアファ……』
オルドレイクではない、何かが。
憎しみを瞳に宿し、バノッサと隣のソレを睨む。

『よくも我が力を奪いおって……雑魚がァアァアアアア』
「はっ、手前ぇが勝手に置いていったんだろう? 知らねぇな」
大剣を持ち直し、バノッサが不敵な笑みを浮かべる。
傍らに立つソレもニッコリ笑って、銃を構えていた。

! 追い返すぞ」
サプレスの魔力を宿しながら正気を保つ。
常人ならば発狂してしまうだろう、異常な状況で。
冷静にバノッサは傍らのソレ、 へ言葉をかけた。

「良いのか? アレは」
にとっても意外だったのは、バノッサの父親がオルドレイクであった事。
同時にどこまでも己の欲に忠実な男に哀れみさえ覚える。

 バノッサの能力に気づかぬのも、目先の欲に走るのも。
 己の心を埋めるためならば、哀れに見えてくるな。
 しかし幕は引かねばならぬ。
 どのような結末を迎えようとも。

オルドレイクが勝利を確信していた時。
サプレスの魔力に反応して、ピアスに蓄えていた魔力が開放される。

の蓄えた魔力は繋がったサプレスとリィンバウムの門を寸断し、魔王の行き場をなくし、バノッサを正気づかせた。

「構いやしねぇよ。あいつ等にさせる訳にはいかないからな。それにあの魔王に憑依り付かれたんだ、精神はとっくに死んだだろう」
キール達兄妹へ目線を送り、バノッサが自嘲気味に小声で応じる。

『我の力を返せェエエエエェェェェェェ』
変形したオルドレイクの腕が無数に伸びた。
剣を構えるバノッサと狙いを定める
戦う構えを見せた二人に加勢するのは。

「たあああぁぁぁっ!!」
同じく大剣を振りかざし、オルドレイクだったモノに攻撃を加えるハヤト。

「行けっ! ヘキサボルテージッ」
機界属性も扱えるキールの召喚術に。

「癒して! オーロランジェ」
各々武器を構えた仲間へ癒しの呪文を放つクラレット。
カシスもスタウトとカノンに聖母プラーマを召喚し傷を癒す。

「行くぞ、皆! 魔王をサプレスへ戻すんだっ」
剣を掲げたトウヤに応じて叫び、疲れた身体を叱咤して攻撃態勢に入る仲間達。

四方八方に伸びるオルドレイクの肢体と、サプレスから召喚される格上の悪魔兵。

「ふふふ、どうする? バノッサ」
銃で魔王の残骸を威嚇しながら は問う。
汚れ役を引き受けようとしたバノッサの意に反し。
誰も彼もがバノッサと に加勢する。

「どうするもねぇ。ぶっ潰すのみだ」
渋い顔をしてバノッサは剣を振り上げた。

「そうですよ♪今までの借りは三倍返しという事で。人が大人しくしてれば付け上がる。躾が必要ですね、躾」
バノッサの隣まで走って近づいたカノンが剣を振るいながら、笑顔でさらっと怖い事を言う。
底の見えない笑みを浮かべ喜々として攻撃に参加するカノン。

「流石は……義弟だな、汝の」
気絶していた姿が嘘のよう。
素質があるからなのか、剣の太刀筋にも顔にも迷いがない。

カノンの目を見張る戦いぶりに騎士団も感化され、動きがよくなっている。
思わず は本音を零した。

「………ああ」
バノッサも久しぶりに見る、箍の外れた義弟に引き気味。
大分間があってから へ相槌を打つ。

魔王も残骸とて侮れない。
広範囲に散らばるサプレスの力を取り込み、魔力による衝撃波を連続して放つ。
魔力値が低い戦士達は防戦し、召喚師は傷を癒す。

「いっけぇえ!」
ハヤトの剣が魔王の腕を切り落とし。

「はあっ」
トウヤの剣も魔王の胴へ傷を作る。

誓約者としての加護がある二人はバノッサと並んで魔王を攻撃。
元々素質のあるバノッサほどではないが、確実にダメージを与えている。

「癒しの光を」
も何時の間にか後方支援。
癒しの魔法を三人へ掛け続けた。


倒しては再生を何度繰り返しただろうか?
バノッサの、トウヤの、ハヤトの、渾身の一撃がそれぞれに決まると魔王は身体をくねらせ悶絶し始めた。

『ウアアォアァオォアオオォォオオオ』

「トウヤさん、ハヤトさん! 今のうちに魔王を送還します」

カイナが仕えるシルターンのエルゴに呼びかけ、同じくエズガルドがロレイラルのエルゴに呼びかける。

「「分かった!!」」
誓約者として備わった力。二人分。
合わせてトウヤとハヤトは魔王の残骸を、サプレスへと押し戻していく。

光り輝くトウヤとハヤト。
二人の魔力は最大に高まり、送還術が発動。
古の魔法は魔王の残骸をサプレスへと押し戻した。

「……終わった、か?」
暗闇に覆われた空が、本来の青空を取り戻していく。
空を仰ぎ、疑問系でハヤトが。

「終わったさ」
応じてトウヤ。
満面の笑みを湛え、ハヤトに親指を立てて見せた。


「やった、やったぜ!」
腕を突き上げたハヤトに従って、仲間達も空へ腕を突き上げたのだった。




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 えー、だいたい予想はついてたと思いますけど。こんなオチで(笑)ブラウザバックプリーズ