『さまよう拳1』




今日の はハヤト・クラレットと一緒に街をブラブラ。

日を重ねるごとに高い適応性でリィンバウムの生活に馴染むハヤト。
基本的に表裏のない性格のハヤトなので、意思表示が比較的明確だという点が起因なのかもしれない。
ストレスが溜まりにくい、と言い換えられるが。

「平和だよな〜、最初に比べたらさ〜」
商店街を歩き目を細めてハヤトが笑う。
今日は戦闘訓練で稼いだお金を使い、新しい装備品を求めて商店街へやって来たのだ。

「そうなんですか?」
ハヤトの感想にクラレットが首を傾ける。

「最初は俺達、右も左も分らなかったからな」
人懐こい笑みを浮かべてハヤトが横を歩くクラレットへ顔を向けた。

「俺達この世界のコト何も知らなかっただろう? フラットの皆に助けられて、変な力についてはクラレット達が教えてくれて。助けてくれて。運が良いよな、俺達」
両手を組み前へ伸ばす。
すっかり馴染みきっているハヤトに は頷いて応じた。

「……お役に立てていれば良いのですけど。皆さんを元の世界に戻す方法は、まだ見つけられてませんし」

ぱっと見、分らない程度。
クラレットの青い瞳が陰りを見せる。

当然、ハヤトは気がつかない。
ハヤトを挟んでクラレットを観察していた は目を細めた。

 誤召喚の責任を取れない苛立ちと、別の苛立ち。
 クラレットもカシスも。
 壁を作り頑なに心を閉ざし、何かを守ろうとしている。
 原因は我々が巻き込まれた召喚事故にあるのだろうが。
 単なる召喚事故ではなのだろうな。

 しかし、無理に聞きだすこともあるまい。
 恐らくは時が解決するだろう。
 闇を引連れた禍々しい気配が徐々にこの街を取り囲もうとしている。
 その時までに我も冷静でおらねばならぬ。

直ぐに何時ものクラレットに戻ってしまったが、 の目は誤魔化されない。
ハヤトとクラレットとゆっくり歩きながら、 は無意識に背筋を伸ばした。

「さっき南スラムで見かけた爺さんには驚いたけどな。薬も飲ませたし、大丈夫だろ。さあ、俺達は武器を探そうぜ。クラレットは本だよな?」

ちょっとしんみりしたクラレットの言葉を払拭するように。
腕をグルグル回してハヤトが元気良く喋る。
ハヤトなりの不器用な気遣い。

「ええ、わたしは本を探しに行ってきますね」
察してクラレットは心からの笑顔をハヤトへ見せた。


ハヤトの台詞にあった老人。
出掛けに南スラムで発見した老人である。

病を抱えているらしく苦しそうに顔を歪めていた。
ハヤト達は慌てて老人を助け、彼の指示に従って鞄に入れられている薬を与える。
老人は穏やかに笑ってハヤト達に礼を述べていた。

 あの者、只者ではないな。
 齢を重ねて落ち着いてはおるが、その身から登る気配は鋭利な刃のようであった。

 しかも我を見て少々驚いていたようだが、解せぬ。

 我の記憶が正しいならば初対面であろう。
 時の捩れの気配も感じたことだ。
 あの者といつかの時で接点があったのやもしれん。
 残念ながら今の我には分らぬがな。

親指の爪を噛み、 は弱弱しい老人の姿を思い浮かべる。

!! 考え込むのはいいけど、今日は の短剣を探しに来たんだぜ? 早いトコ買ってクラレットと合流しよう」

 ばちーん。

の子供らしくない態度に慣れてきたハヤトが、遠慮もなく の背中を叩く。
勢いつけて叩かれた反動で少し前のめりになりながら。
は呆れた瞳でハヤトを見上げた。

口には出さないが『馬鹿力』とでも言いたそうに顔を少し顰めて。

「あ……悪りぃ」
片手を上げてハヤトが詫びた。

「トウヤと待ち合わせもしている。急ごう」
文句の一つも喉まで競りあがってくるが、 は堪える。

 いかん。我の方がハヤトよりは随分と年上だ。
 何より我は神なのだ……庇護するべき地球人を非難する訳にはいかん。

この後、カシス・トウヤと門の前で待ち合わせ。
が主張するところの『戦闘訓練』を行う為だ。

行きがかりとはいえ、正式な召喚師に喧嘩を吹っかけてしまったハヤト達。
対召喚師用の訓練をしようと、今日も野盗狩りだ。

この行為に最初はトウヤとカシスが猛反対していたのだが。

綺麗事では生きてはいけない。
現実を見ろ。

なんて に説教される。
実際問題として避けられない戦いもある、事実を見据えて野盗狩りを行っていた。
相手が悪人の分だけ良心の呵責も少ないというのが、トウヤの本音なのだろうが。

「そうだな、今日は持ち合わせもあるし。出来るだけ良いモノを捜そうぜ」
の話題転換に飛びつくハヤトの背後に、見えない尾尻が見えそうだ。

 犬だな、犬。
 いや……こちら(リィンバウム)風に評するなら、メイトルパ風か?

内心だけでニンマリと笑い、 はハヤトと共に武器屋へ足を踏み入れる。

「へい、いらっしゃい!」
野太い声のマッチョな主人が とハヤトを出迎えた。

戦闘訓練を始めてからそれなりに資金が溜まってきたハヤト達。
この武器屋の主人とは多少の顔馴染みだ。

「こんにちは〜」
間延びしたハヤトの声に、主人はニヤリと笑う。
はシルターン風にお辞儀を一つ。

「この子に合う大きさの短剣を捜しているんだ。手頃なのはあるかな?」

棚に掛けられた武器の数々。
大剣・剣・槍・弓・投具・斧・短剣etc。
防具も鎧に軽装にローブ等。
流石は異世界。
ファンタジーだと柄にもなく は感嘆のため息を漏らす。

 我が守護せし地球もこのような時代があったであろうが。
 現在のような火薬武器はこの世界には少ないのだな……。

ゼロの値段が桁違いの、銃。
その割に作りは簡単だ。

 時間管理を行っておる姉上が下さった、我専用のレーザー銃の方が威力がある。
 しかし我がアレを呼び寄せるほどに事態は急を要さない。
 姉上には申し訳ないが、今暫くは短剣を使うか。

を眺めてアレコレ話す主人とハヤト。
二人の会話をサクサク聞き流し、 は本来扱うべく譲り受けた武器へと想いを馳せる。

神様が高性能レーザー銃!? 地球人が聞いたなら仰け反りツッコむかもしれないが。

 神がマナ(魔力)だけしか使えぬと誰が決めた。
 我らとてハイテクは扱えるのだぞ。

 こうなると分っていたら。
 惑星間通信も可能な、高性能通信機を一組か二組持ってくるべきであった。
 この世界を取り巻く四つの世界の高位なる存在は道具を好まぬようだしな。

親しくなった彼等は概ねマナ(魔力)を放出して、リィンバウムへ力を具現するタイプが多い。
のように躊躇いなくヒトが編み出した道具を使う者は少ない。
もしも道具を借りれるようなら借りたかった としてはガッカリなのだ。

! 考え事なら武器を選んでからにしろよ」
最初は物珍しそうに武器を眺めていたのに、数分もしたら立ち止まり。
考え込んでしまう
動きの止まった にハヤトが手招きする。

「うむ」
ここでウダウダと手に入らない道具について悔やんでも仕方がない。
は気持ちを切り替えて短剣選びに入る。

途中、主人のアドバイスにも素直に耳を傾け、魔力にも多少の耐性がある鉱石で作られた短剣を購入した。

「まいどありっ」
直ぐに使うと が申し出たので、包まずそのまま。
主人は へ短剣を差出した。

「また来ます」
「世話になった」
ハヤト→ の順に主人に挨拶をし、二人は武器屋を後にする。

二人より早く本屋を出たクラレットと商店街出口で合流し、今度はカシスとトウヤ。
二人と合流すべく街の門前に急ぐが。

「あれ……いない……」
時間に正確なトウヤの姿がドコにもない。
ハヤトは戸惑った顔で門の周囲を一周する。

「カシスも姿が見当たりません。ああ見えても、待ち合わせに遅れてくるような性格はしていないのに……」
クラレットも不安顔で周囲を見回す。

「変だな」
から見てもトウヤ・カシスは根は真面目。
時間にルーズな性質ではない。

理由もなしに待ち合わせを蹴るタイプでもない。
困惑する三人の元に、紫色の身体を持つ召喚獣が滑り込んできた。

「これは……カシスが召喚したテテです! カシスに……もしかしたらトウヤにも、何かがあったのかもしれません。 、ハヤト!」
テテを抱き上げてクラレットがハヤトと に訴えかける。

「わかってるよ、クラレット」
ハヤトが腰に下げたベルトを手のひらで叩き、クラレットに言葉を返す。

「着いて来いとジェスチャーしておるようだが?」
クラレットの腕の中で忙しなく動いているテテを観察して、メンバーの中で一番冷静に がテテを指差す。

「まぁ、大変」
クラレットは慌ててテテを再び地面へ降ろす。
テテは物凄い勢いで走り出した。




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