『魅魔の宝玉1』



蒼の派閥の召喚師を加えたトウヤとハヤト。
二人を取り巻く事態は大きくなりつつある。
これ迄は流され気味だったトウヤとハヤトに変化が現れた。

「変なのな〜」
ジンガが腕組みして鼻の頭に皺を寄せている。
「なにが?」
隣で店番をサボリ? (本人は自主営業回りと主張)、フラットへ居座るアカネが首を傾げた。

何度か頭を振ったジンガはガゼルを手招き。
黙々と武器を磨いていたガゼルが舌打ちし、ジンガの隣まで移動する。

「なぁなぁ、最近 の奴がみょーに大人しくないか? おれっちだけか? そう感じてんのってさ」

 コソコソ。

小声でガゼルと身を乗り出したアカネの耳元へ囁く。

「気のせいじゃないでしょう〜。ローカスやアキュートのメンバーが何か知ってるみたいなんだけど、誰も何も言わないんだよね」

ジンガの告白はアカネも気になっていた事。
常にトウヤとハヤトを叱咤激励する筈の が口を挟まない。
大人しく子供達と普通に遊んでいる。

普段行っていた訓練と称する追剥ぎもめっきり回数が減ってきて。
何故かトウヤとハヤトは誰かを誘って自主的に模擬戦闘訓練を行っていた。

に言われるわけでもなく。

「あー、大人し過ぎるよな。だからって、あの態度が控えめになった訳でもねぇし」
尊大な態度と言動は相変わらず。
はマイペースを崩していないが、確実にトウヤ達と距離を置き始めている。
ガゼルが武器を磨く手を休めず発言。

「だよなぁ」
毎日顔を合わせるジンガが相槌を打ち。

「だよねぇ」
矢張り、ほぼ毎日顔を合わせるアカネも同意見の相槌を返す。

「気がついたらアニキ達も顔つきが『らしく』なってきてるしさ〜。やっぱ、良くない事でも起きんのか?」
ヒソヒソ声で更にジンガが話題をトウヤとハヤトへ広げる。
アカネは口を真一文字に結び小さく唸った。

「そうだね、最初にあった頃から比べて逞しくなったかも。上手く言えないけど、リィンバウムに溶け込んでるってゆーか、なんてゆーか」
トウヤの時折みせる客観的な判断だとか。

無謀のように見えて、仲間をちゃーんと護って動くハヤトの戦闘スタイルだとか。
顔立ちも精悍さを帯びてきて成長の後が窺える。

ノンビリ派の己とは偉い違いだと、アカネは感じていたばかりだった。

「甘ちゃんじゃぁ、なくなったかもな」
ガゼルも自分の心境の変化を振り返りながら。
しみじみ呟く。
「まったく、三人とも大袈裟よ?」
密談をするジンガ・アカネ・ガゼルの頭上から会話に割ってはいる第三者の声。
慌てて顔を上げる三名を、リプレが苦笑しながら見下ろしていた。
「多分……信じているから距離を置けるんだわ。わたし達がトウヤやハヤトを信じてきたようにね? そうは思わない?」
リプレの新たな解釈に、そうかもしれないと。
ガゼル達は苦笑し合う。

大切だから気になる仲間の気持ち。
仲違したのではないか。
実はちょっぴり心配して、気になっていたのだ。

照れ臭そうに笑うガゼル達へもう一度笑いかけ、リプレは小さく息を吐き出す。

 なんだかんだ言って、気になるのよね?
  の行動の一つ一つが。

本物の召喚師であるギブソンやミモザでさえ、 にも興味を示している。
現に今は子供達に混じってミモザとギブソンが を質問攻めだ。
怪訝そうな雰囲気を醸し出し、でも律儀に質問に答えるのが らしい。

 変に真面目だもの、 は。

 ミモザのセクハラ一歩手前の行動も苦笑して許す。
の態度にリプレは小さく笑い。

「最近アカネのお陰でよーやく、らーめんも作れるようになったことだし。今日のお昼はらーめんにしましょうね〜」
リプレは自分の城と化している、台所へ身体の向きを変える。
「あっ、手伝う!」
食べ物には目が無い。
シルターンにも『蕎麦』なる麺料理があって、らーめんと似ているようだ。
アカネがすかさず立候補してリプレと共に消える。

「流石はリプレ。よく見てるな」
幼馴染の背中を見送りガゼルが呟き。
「はぁ〜、おれっちも修行が足りないのかぁ???」
ジンガはちょっぴり的外れな見当をつけていた。


片や といえばギブソンとミモザにじっくり観察され些か居心地が悪い。
「シルターンでもメイトルパでもサプレスでもロレイラルでもないわねぇ」
どうやら真剣に の出自を探る気らしい。
ミモザは手にしたサモナイト石を翳し、石の反応を確かめながら首を傾げる。

「……いや、だから」
口篭り は反論を試みた。

流石の も幻獣界の女王の強烈な個性には適わない。
ミモザの『調査』をされるが儘だ。

基本的に女子供には甘い なので、ミモザの暴挙も許してしまっている。

「波動はサプレスの天使に似ているけれど、似ているだけで同じではない」
律儀に分厚い手帳に の特徴を書き連ね。
ギブソンがミモザへ言葉を投げた。

「あら、そうなの。でも未発見の召喚獣だって沢山居るじゃない? ギブソン」
の頭を撫で繰り回し。
角とかが生えていないか確かめて、ミモザが応じる。
「だから、な……」
ペースを崩されても は懸命に二人の会話に割って入ろうと努力中。

すっかり『研究ダイスキv』モードへ入ってしまった蒼の派閥の召喚師コンビ。
真理の探究をモットーとするだけあって、中々熱心だ。
にとってはいい迷惑なのだが。

「角は無いわ。これでシルターンの鬼神とか竜神とかはナシね」
古風な の話し振りはシルターン風。
全てを疑って掛かっているミモザがギブソンへ言う。
ギブソンは頷いて分厚い手帳へデータを追加した。
「あーあぁ、良い玩具だね」
の災難をフィズがケラケラ笑いながら眺め。
「ちょっと、やりすぎじゃないのか?」
大人二人に揉みくちゃにされる を気の毒そうにアルバが見詰め。

ラミも心配そうにスウォンの服の端を掴みながら。
片方の手ではヌイグルミを握り締め、ミモザとギブソンの奇行を見守る。

「本当、あれじゃぁ珍獣扱いよね」
の手痛い助言で早くも立ち直っているエルカが、腰に手を当てたまま呆れる。
モナティーとガウムは、ハラハラしながら主の危機が通り過ぎるよう祈っていた。

 ……ぬぅ。汝ら、なんだかんだ言って笑って見ておるではないか!!
 この場合は助けよ!
 ここで珍妙な誤解を招こうものなら、我の本来の目的が達せないではないか。

内心仲間へ憤る を他所に、ミモザが頬に手を当てて眉根を寄せる。

「おかしいわねぇ」

感じる魔力値の高さはトウヤやハヤトをも上回る。

言動・行動・容姿も人間として括るには少々無理がある。
踏まえてのミモザの判断だった。
なのに が人ではないという『確証』が発見できない。

「おかしいな」
これについてはお堅いギブソンも同意見。
だからこそミモザと一緒に調査しているのだ。
一向に成果が出る気配はないけれど。

「「うーん……」」
が脱走できないように取り囲み。
ギブソンとミモザは腕組みをして唸る。

 魅魔の宝玉とやらのエネルギーが増しておるな。
 そろそろバノッサも動き出すか。

 宝玉を与えし者。
 真なる敵と表現すべきか、鳶と表現すべきか?

 それとも……。


高く美しい青色のリィンバウムの空。
大気中に満ちるマナ(魔力)は日々不安定さを増し。
サイジェントを覆う黒い影は大きく広がっていく。


 それとも?
 トウヤとハヤトに憑依(つ)いている妙なあの気配と全てに関連があるやも知れぬ。
 敢えてこの世界の神とは接触しなかった故、分らぬな。


リィンバウムに息づく巨大な存在。
異界へ紛れ込んだ当初から感じてはいたが、 は無視し続けていた。
何よりも優先するべきがトウヤとハヤトの身の安全であったから。

 しかも、やけに友好的なあの気配に危機感を抱くのは我だけか?
 選り好みするのか? この世界の神は相手を。


自問自答しても答えは出ない。
別の意味での答えはそろそろ出揃いそうだが、 は見送る側に回ろうと決めていた。

「た、大変だ! 皆」
血相を変えたレイドとペルゴがフラットへ飛び込んでくる。
「北スラムにカノンが現れました。魅魔の宝玉から呼び出されたらしい、悪魔兵達を引連れています」
ペルゴの報告にフラットのメンバーは表情を引き締めた。

自室からトウヤとハヤトも出てきて。
全員が全員、テキパキと装備を整え飛び出していく。
だけは一人ノンビリとフラットを出発した。



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