『話題休閑・魅魔の宝玉1前』
「ファンタジーとヤクザが同居できる世界とは、リィンバウム、奥が深いな」
秘密の花園を前に、しみじみ言った 。
石畳には召喚獣ヘルハウンドが軒並み口から泡を吹き気絶中だ。
「そ、そうだな」
頭を下げるリプレとトウヤ。
横目で見ながらハヤトがぎこちない口調で応じる。
本当は「そんなコト言ってる場合じゃないだろっ」なんて、突っ込みたかったが口に出来る状況ではない。
「ごめん、ハヤト・
」
カネルの花を手にしたフィズがしおらしい態度で謝り。
アルバもラミも心底申し訳なさそうな顔でハヤトと
の顔色を窺う。
「母親とはかけがえの無い大切な存在だ。方法は間違ったが、気持ちを伝える事には成功したのではないか?」
額に青筋浮かべるキムランに頭を下げ続けるリプレ。
そろそろキムランでも宥めるか。
考えた は足先をキムランへ向けた格好でフィズ達へ告げる。
異界の友達のフォローに子供達は笑顔になった。
リプレはソワソワしながら台所で右往左往。
丁度散歩から帰ってきた
は、落ち着かないリプレの姿に台所入り口で立ち止まる。
「どうか……」
「
!! 良かったわ。聞きたいんだけど、フィズ達を知らない? おやつの時間なのに帰ってこないの」
が声をかける前にリプレによって遮られ。
キョトンとした顔の にリプレが詰め寄った。
朝会ったきりフィズ達の顔は見ていない。
記憶をたどる
の背後から、トウヤとハヤトが顔を見せることでリプレに光明? が差し込む。
「ここで待っていても仕方ないし、手分けして捜した方が良くないか?」
リプレから事情を聞いたハヤトの妥当な提案により、ハヤト& 。
リプレ&トウヤ。
この二組に分かれて子供達の行方を捜し始めた。
そもそも、中規模の大きさを誇るサイジェントの街。
子供が歩ける場所は限られていて、フィズ達が向かいそうな場所には限りがある。
は怪訝そうな顔で高級住宅街を歩いていた。
「仕方ないだろ? 見かけたって商店街の人が言ってたし」
不服そうな の頭を撫で撫でしてハヤトが言った。
口先を尖らせたまま はハヤトの言葉を無視する。
大人気ない行動だが、それだけ がハヤトに心を許しているという証拠。
無意識の の八つ当たり。
感じ取ってハヤトは笑いを噛み殺す。
暫くすると意外な物体がハヤトの視野に飛び込んできた。
「キュキュウッッ」
大慌てで走ってくる物体=ガウム。
ハヤトと
の姿を認め、ビョンビョン飛び跳ねる。
「付いて来い、と言っている」
ガウムのジェスチャーを
が読み取る。
「や、俺でも分るって」
の親切をありがたく感じながら、きっとバノッサでも分るよ、と内心叫びつつ。
ハヤトは
を伴ってガウムが向かった先へ走り出した。
子供達が向かった場所。
キムラン=マーン所有の『秘密の花園』
金にモノを言わせた花園ながら、品が良い。
丹精込めて世話したらしい美しい花々が咲き誇る、秘密の花園と呼ぶに相応しい庭園だ。
「この花園の花は、俺が愛情をたっぷり込めて育てたものなんだぞ!」
あぁーん?
ドスを聞かせたキムランの言葉と態度に激しい溝がある。
眩暈を起こしかけるハヤトに、二の句が継げないトウヤ。
「すみませんでした」
殊勝に謝るリプレ。
キムランの愚痴に近い文句は延々と延々続いている。
「過ぎてしまったことは仕方あるまい。元通りとまではいかないが、それなりに花園を綺麗に出来る。それで妥協せぬか?」
ヘルハウンドに睨まれた子供達を助けるべくハヤトと が戦い。
騒ぎを聞きつけてやって来たトウヤとリプレも加わって。
乱闘後の花園は見るも無残。
咲き誇っていたカネルの花の一部、葉や茎が痛み根が土から出ている。
の横槍に、キムランはムスッとした表情で黙り込む。
「力づくでもう一度解決したいなら、再度ココで戦うのみだぞ? そうなったら花園の花は全滅だろうな」
の静かな態度から繰り出されるあからさまな脅し。
余裕綽々の が放つ言葉にキムランが怯んだ。
有言実行の子供が宣言したのだから、これ以上己が文句を言ってはマズイとも悟る。
「脅し、よねぇ?」
やって来たハヤトと元々隣に居たトウヤへリプレが囁く。
「脅迫だな」
トウヤもキムランの顔色の悪さを一見しリプレとハヤトへ囁き返す。
「怖えぇぇな、
の奴」
背筋を這い上がる悪寒に、ハヤトが自分の両腕を必死に擦っている。
「本当にそれなりになるんだろうなぁ?」
ボキバキボキャ。
指の関節を鳴らしキムランは精一杯凄むだけ。
金の派閥の一員として体裁だけは保っておきたいキムランである。
「約束は護るぞ」
確認を込めたキムランの威圧に は普段と変わらない調子で答えた。
キムランは忌々しいと言った態で舌打ち。
犬を追い払うように手を前後に振る。
「明日から庭園の修復に当たる。安心しろ、汝にもきちんと立ち会って貰うぞ」
交渉終了。
の台詞にキムランは不機嫌な表情を崩さず、庭園奥の東屋の方へ姿を消す。
不思議な事にキムランが不機嫌だったのはその一日だけで、以降は妙に と仲良くなるのだが。
当人達同士しか分らない可愛い交友を知らず、リプレを筆頭とした
の保護者組がヤキモキしていたのは、また別の話である。
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