『迷走列車1』




雲行きが怪しくなってきた。
言いながらローカスはレイドと の顔を交互に見る。

トウヤとハヤトは同じ空間に居るにもかかわらず。
カシス監修(見張り)の元、リィンバウムの文字の書き取りに勤しんでいる。

「アキュートの事を知っているか?」
切り出したローカスにレイドが顔を強張らせた。
「……不器用だな、レイド。顔に『知っています』と出ているぞ」
沈黙するレイドに が容赦なくツッコむ。

「アキュートは領主の統治に反抗する集団だ。召喚師の手による圧政を打ち砕く事を目的にしている。税の取立ての時にローカスと一緒に居たのがアキュートさ」
感情の篭らない声音でレイドがアキュートについて語る。

レイドの台詞にトウヤもハヤトも書き取りの手を止め目を見張った。

「ローカスを利用して逃げ去った金色の髪の女人と、片目の体躯の良い男と禿頭の男か。名前は分るのか?」
は驚いた素振りも見せずローカスへ尋ねる。
「金色の髪の女はセシル。ああ見えても女医だ。片目の体躯の良い男、穏やかな語り口だがあいつは元騎士団出身の槍使い。名前はペルゴ。禿頭の男はスタウトだな」
ローカスが淡々とアキュートメンバーの名前を明かした。
その間もレイドは僅かに俯いて一人苦悩する。

 分り易い奴だな、レイド。
 感情が顔に全て出ておるではないか。

内心で苦々しく思いながら は耳元のピアスを撫でた。

一週間前、ガゼルに作って貰い嫌がるリプレを拝み倒しつけて貰ったピアス。
順調に の余分な魔力を溜め込んでいる。
動きの止まったトウヤとハヤトがカシスの咳払いに慌てて書き取りを再開。

「つまりは。サイジェントでデカい顔をする金の派閥の召喚師達が気に入らない。だから革命を起こして街を変えようと考えている集団だな?」
の言葉に、ローカスは首もとの金色のチェーンを弄って肩を竦めた。

「ふぇ〜、凄い集団だねぇ」

 ひょこ。

天井から逆さま。ぶら下がったアカネが感心して相槌を打つ。
「!!!!」

 ガタガタ。

突如発生した(現れた)アカネに、 を除く全員が椅子を揺らして仰け反り驚愕。
アカネは逆さまのままケラケラ無邪気に笑った。

「やだなぁ! あたしはこう見えてもくの一。これくらい朝飯前だって!」
両腰に手を当てて胸を張るアカネに、矢張り を除く全員が心の中で思う。

 や! それで自慢されても……。
 しかも暗殺には関係なさそうな姿勢?

人懐こい笑みを浮かべ、アカネは音もなく床へ着地。
空いている手近な椅子へ腰掛けた。

「それでそれで?」
アカネの発言に を除いた全員が落ち着きとをリ戻し。
再度ガタガタ椅子を揺らしながら、座り直す。

「察するに? 最初からあのような行動を取っていたわけではないだろう。大志を抱いていた筈だが。ローカスを見捨てた手際、鮮やか且つ無駄が無かった。大方腰の重い領民に嫌気が差したのだろう」

したり顔の の発言にアカネとローカスが顔に疑問符を浮かべた。

「街の人間は慎ましく逞しく生きているという事だ」
深い追求を許さない の締め括りの言葉に、レイドは小さく安堵の息を吐く。


 生活に忙しく、毎日を懸命に働く街の人々に。
 命を懸けて革命をと訴えるだけ無理であろう。

 アキュートメンバーならまだしも、戦う術を持たぬ街の大多数の領民に戦えとはな。

 酷だ。

 理想が高く領民の為になろうとも現実に即していないなら無意味。
 賛同を得られずローカスの時のような手段に訴えているのだろうが。
 稚拙で愚かだ。

 革命はもっと劇的に起こってこそ人々に訴えかける何か、があると言うに。

トウヤとハヤトが羽ペンを走らせる音を聞きながら、 は思った。

「それで? 槍使いは元騎士団員だと言ったな? レイド、いつまでも因縁からは逃げ続けられぬぞ。白状しろ」
レイドの目の前に緑のサモナイト石を突き出し は静かに脅す。
「アキュートがまた動き出そうとしている。今度はもっと大掛かりな事件を起こすつもりだろう。だから最初に雲行きが怪しいと、表現したんだ」
に加担するようにローカスも掴んだ情報を口外した。

「ふぅん。大掛かりな事件かぁ……」
店で何か聞かなかったかと、アカネは握り拳で額を軽く叩きながら思案顔。
トウヤ・ハヤト・カシスは興味津々の視線をレイドへ送る。

「……整理がついたら話す。少し時間を欲しい」
それでもレイドは口を割らず、 に謝罪して広間を後にしてしまう。

「誘導尋問は失敗か。中々難しいな」
が腕組みしながら零す。
そうだよねぇ、なんてアカネも相槌を打っている。

「ローカス、本当は具体的な中身を知っているのだろう? 恐らくレイドもそれを知っていて動くつもりだ。
何でもかんでも一人で解決しようとする責任感は見上げたモノだが。仲間を頼らぬのが頂けない」
テーブルの上を指先でトントン音を立てて突き、 はローカスに話を促した。
ローカスは僅かに肩を竦めて集めてきた情報を喋り始める。

「イムランが視察に出た。戻ってくるのは今日。マーン三兄弟が使うのは巨大召喚獣を利用した船や鉄道で、今回は鉄道らしい。
サイジェント近くの鉄道、マリルの岩棚の街道近くは深い谷間になっていて」

「鉄道を壊して谷間から一気にイムランを襲う! これでアキュートの召喚師を圧政から救うってゆー行動が達成できる!」

ローカスの言葉尻を奪いアカネが声を張り上げた。

「レイドはそれを一人で? いくら騎士団の元同僚が居たからといって難しいだろう?」
トウヤが羽ペンを片付けながら険しい顔で言う。

トウヤの言葉にハヤトもカシスも頷く。
勿論ローカスもアカネも頷いた。

「アカネ・ローカス。僕等は一足先にレイドを追いかけよう。トウヤ達は集められる皆を集めて岩棚に応援に来い。それまでの時間は稼ぐ」
が言えばアカネとローカスが手持ちの武器を取り出し笑う。
トウヤ達は互いに分担を決め足早に広間から出て行く。

「ガウム、モナティー!! 出掛けるぞ」
広間から中庭に面する窓を開け、子供達と遊んでいたモナティーとガウムを呼ぶ。
の呼びかけに尾尻を振り振り広間へ戻ってくる。
「はいですの〜」
元気良く返事を返しモナティーがガウムを抱えて の前に立った。
「キュッ」
モナティーの腕の中。ガウムが目を閉じてモナティーと同じく元気良く鳴く。
は最後に置手紙を認(したた)めフラットを後にした。




レイドは予想通りの現実に表情を暗くする。

土ぼこりを上げ岩が崩れ落ち鉄道を塞ぐ。
列車を引っ張る巨大召喚獣は立ち止まり、岩棚の上には彼を頂点とするアキュートの面々が揃っている。

「おのれっ!!! 反乱分子が!!!」
警護の兵に護られたイムランが彼に向かって拳を振り上げた。

「黙れ。領民を苦しめる召喚師め」
イムランを見下ろし彼が告げる。

レイドは列車の屋根を登り腹ばいになって岩棚へ近づく。
これは自分に纏わる因縁。
だから仲間を。

「ペンタ君ボムですの〜!!!!」
つらつら考えるレイドの耳に飛び込むお馴染みの声。
モナティーは召喚したペンタ君を彼の近くの岩場へ飛ばした。

可愛らしい外見とは裏腹の巨大な爆発。
立ち上る煙と驚くアキュートメンバー達。

「不本意だがな、イムラン。汝等召喚師の存在は街にとって大きい。アキュートは僕等が引き受けた。早々に尻尾を巻いて退散しろ」

レイドが這い蹲る車両の一両前。
屋根の上で仁王立ちする がイムランを見下ろし、とてつもなくデカい態度で告げた。

瞬時にイムランの額に青筋が浮かぶ。

  ……助け方、間違ってる……。

イムランの歯軋りの音を聞きつけレイドは引き攣った笑い顔になる。

「失せろ。アキュートとの戦いの邪魔になる」
挙句、犬を追い払う仕草までしてイムランを追い出す

金きり声を上げてブチ切れるイムランを担いで退散していくイムランの警護兵達。
下手な三流芝居のような話の展開にアキュートのメンバーも声が出せず。
呆然と去っていくイムランを見送る。

「さて、初めて見(まみ)えるな。僕はフラットに世話になっている と言う。アキュートのリーダー、その悪趣味な赤い鎧の男と話がしたい」

の台詞にレイドは危うく屋根から滑り落ちそうになり。

名指しされた赤い鎧の男は呆気に取られた表情を浮かべ。
禿頭のおっさん。
スタウトは腹を抱えて大爆笑。

ペルゴとセシルは何か言いたそうに口を開くものの、顔を顰めて口を閉じる。

 だから…… 、交渉の方向性も間違っている……。


レイドは、二度目も心の中だけでこっそりとツッコんだのだった。



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 レイドは絶対に要らない苦労を自分から買っちゃう人だと。ブラウザバックプリーズ