『守るべきもの2』



肝心な事をすっかり忘れていたハヤト。
驚いてギブソンへ目線を送るものの、さり気に逸らされた。

「……まさか、ねぇ」
グラムスとの話題にも出ていなかった。
カシスは思い出してトウヤに言う。

「まさか」
トウヤも驚きを隠せずにカシスへ返す。

「でも二人の考える通りかもしれない」
相変わらず声のトーンは小さく抑え、クラレットだけは顔を上げて真っ直ぐ前を向いた。

マリルの岩棚に一行が差し掛かる。
すると、ソレは前触れもなく現れた。

四方を、召喚獣に囲まれる。

霊界の騎士・ツヴァイラレイに、幻獣界のドラゴン・ゲルニカに、鬼妖界の仙獣・ひな&シロトトに、機界の多腕機体・ヘキサボルテージ。

「はいいぃぃぃ!?」
召喚師の娘であっても混乱する。
カシスが素っ頓狂な裏返った声で叫んだ。

グラムスとギブソンがトウヤとハヤトを見るが、彼等が召喚した様子はない。
サモナイト石だって没収済み。
なのに明確な意図を持って一行の進路を阻む召喚獣。
しかも高位。
グラムスは当惑した。

「まったく……本当に行くつもりだったのか。ほとほと呆れる兄達だな」
涼やかな声。
マリルの岩棚の上から聞こえる。

岩棚の天辺。
真下の街道に佇むハヤト達五人を見下ろし は嘆息した。

「無駄な抵抗はやめろ。こちらとしても、蒼の派閥と構える真似はしたくない」
咄嗟に構える兵士達。
狙いは自分に向いているというのに余裕綽々。
は最高責任者のグラムスへ警告する。

「どういう意味かな?」

から感じる魔力の高さ。
尋常ではない高貴な雰囲気。
感じ取ってグラムスは兵士達へ合図。

構えた武器を下ろさせ、自分は へ慎重に真意を尋ねる。

「では逆に問おう。汝等蒼の派閥だけで、本当にオルドレイクの妄想を打ち払えると? そう思っているのか? だとしたらとんだ驕りだな」
明らかな挑発。
の発言に蒼の派閥兵士が色めき立つ。
「蒼の派閥が信用できないから、かな?」
挑発には乗らず穏やかにグラムスは問い返す。

の発言は子供らしい挑発に見えて恐らくは違う。
蒼の派閥の総帥の件もある。
外見だけで判断するのは早計だとグラムスは結論を下した。

「下々の者が知りえない召喚師の派閥をどう信用しろと? 材料がない」
グラムスの返事が気に入ったようだ。

言葉の投げ受けを楽しむ空気を醸し出し、 は片眉を持ち上げグラムスの意見を待つ。

「ふむ……鋭い部分を突く。ではギブソンとミモザを信用できはしないか? 彼等を悪いようにしないとも確約する」
グラムスが斜め後方に立つクラレット達を目配せする。
笑みを益々深くして は首を横に振った。

「ギブソン・ミモザは信用している。だが時間がない。しかも召喚術の多様で結界に穴が開いている事実は汝も聞いたであろう?
放置しておけば魔王どころではなくなるぞ。まずはオルドレイクの召喚儀式を邪魔しに行かねばならん。そこな四人は当事者だ。当事者に後始末をさせるのは当然だろう?」

小馬鹿にした微笑を湛える に、一人の兵士が思わず弓矢を放つ。
弓矢は の頬をかすめ岩棚向こうへ消えていった。

「人は脆く、弱い。しかも浅はかで傲慢で愚かで短絡的だ」
は優しい眼差しで弓矢を引いた兵士を見詰める。

「だからこそ愛しい。そんな存在だからこそ我は見放せぬ。……我の理屈はさて置き、そこの少年二人は我の兄上にあたる存在。
故に返して貰う。家族をオメオメと権力に差し出すほど我は耄碌してはおらぬからな」

無邪気に笑う に、呆気に取られるハヤトとトウヤ、ギブソン。
目を丸くしながらも、納得した顔をするクラレットとカシス。

グラムスは顎に手を当てて思案顔だ。

「断る、と言ったら?」
少しの間考え込んでいたグラムスが重々しく発言する。

「ならば交渉は決裂、汝等にとって残念な結果になる」
軽い口調で応じて は肩を竦めて見せた。

ジワジワと召喚獣に包囲される蒼の派閥一行。
いつ攻撃されるか分らない。
緊張が走る。

「……くっそぉお!!!」
今度は別の弓兵が へ弓矢を射ち放つ。
は僅かに目を見開き、懐から黒い塊を取り出し何かの操作をした。

 バシュゥゥウゥゥゥ……。

鈍い発射音と漏れる赤い光。
光線? のようなモノが の持つ塊から発せられ、弓兵の足元の地面を焦がす。
焦がして、半分大地を溶かしていた。

「ロレイラルか?」
銃のような形状の武器を構える を見上げ、グラムスは呟く。

「ハリ○ッドだぜ! すっげーな!!! トウヤ! スター○ォーズみたいじゃねぇ?」
が使って見せたハイテク武器、ハヤトが立場を忘れて興奮する。
「問題はそこじゃないよ、ハヤト」
神経の太い幼馴染の精神力を羨ましいと考えながら、トウヤは律儀にツッコむ。

俗に言う『早撃ち』をする の手際は鮮やかだ。
あっという間に兵士達の武器は光線によって溶かされていく。

「こうなったらっ!」
召喚兵が呪文を唱えようと精神を集中させる。

「甘いわ。足元を見よ」
は召喚兵を鼻で笑って注意を促す。
召喚兵の足元には茶色の身体を持つプニプニした物体。
ガウムが得意そうに鎮座していた。

「精神力を削る攻撃は、痛みを伴わぬ。汝等の魔力は全て削り済みだ。さあ、家族を帰して貰おう」

「「「「「四人を返せ!!!」」」」」

の背後にレイド・ガゼル・エドス・ジンガ・エルカが姿を見せた。
呆気にとられる一行に次々に仲間が姿を現し、同じ言葉を叫ぶ。

「四人を返せ!」と。

「さぁ、どうする? 納得いくまで戦うか? 白黒つけたいのであれば付き合うぞ」
銃口をグラムスの額へ向け が迫る。

グラムスが意見を求めようとギブソンを振り返れば、四人の子供を背後に庇ってギブソンは仁王立ちしていた。

「……ギブソン?」
「すみません。わたしは の意見が正しいと感じます……いえ、自身でそうあるべきだと考えています。だから派閥の命には従えません」

両手を広げるギブソンの姿にグラムスが苦笑。
やれやれといった態で大きく息を吐き出した。

「元より勝負にならんな。この状況で無理に戦い負傷者を出しても得に為らない。それに……これでは蒼の派閥は悪者扱いだ。不本意だな」

残念そうに言っていながら、顔は嬉しそうに綻ぶ。
グラムスは近くに立つギブソンと、岩棚に立つミモザを交互に見た。

「蒼の派閥の召喚師として、適切かつ公平な行動を取るようにな?」
パァと輝くミモザの顔。
驚いたギブソンの間抜けた顔。
対照的な弟子二人にグラムスは笑いを噛み殺す。

「戦う術もなく、襲撃されて保護対象を連れて行かれてしまった。流石に対処しようがない……大人しく一旦引き上げる事にする」
澄ました顔でグラムスが口を開き、一人岐路を辿り始めた。

「グラムス様!」
派閥の兵士が焦ってグラムスを呼び止める。

「まだ分らぬのか? この召喚獣はただ立っているだけではない。この五人に手を出そうものなら、たちまち我等は攻撃される。……引きあげるぞ」
有無を言わせないグラムスの言葉。
派閥の兵士達は改めて四方を取り囲む召喚獣を思い出し息を呑む。
こうして五人だけを残してグラムスは去って行った。

!!!」
感謝感激雨霰。
僅かに涙ぐんだハヤトが岩棚から降りてきた へ抱きつこうとして。

 バシュッ。

数歩手前で銃にて威嚇される。
「……愚か者! 自分達で全て解決しようなどとは十二年早いわっ! 少しは反省しておるのか? 弟をあっさり見捨てて逃げるなど……ふざけた真似を」
心底恨めしそうな目線をハヤトへ向けて、 は怒った。
抱きつこうとした格好のままハヤトは固まる。

「ご、ごめん」
項垂れてハヤトはしおらしく謝罪。

ハヤトの隣に立って、トウヤとカシス・クラレットも素直に頭を下げた。
どこからどう見ても癇癪を起こした弟を宥める兄姉の図。

ギブソンの傍らに立ったミモザは「やっぱりこの子達はコレじゃないと、調子でないわよね?」なんて。
言いながらギブソンの脇腹を肘で突いた。



Created by DreamEditor
 グラムス議長格好良い〜!! 2であまり見かけられなかったのが残念です。
 主人公が言った十二年に深い意味はありません。ブラウザバックプリーズ