『金の派閥2』



ガゼルとトウヤは、 が考えた通り天幕の内側に居た。

「へへっ、ちょろいもんだぜ」

一際偉そうな男を警護する兵士。

彼等の目を盗み摘み食いの真っ最中。
ガゼルはニヤッと笑い上等な肉のソテーを口へ放り込んだ。

「うん、上手い〜」
ガゼルについて摘み食い。
ハヤトも美味しい料理に頬を緩ませる。

二人の摘み食い泥棒はこのままデザートを盗み、天幕からオサラバしようかと打ち合わせ。
打ち合わせ通りに事は運ぶはずだった。

「ええいっ!!! 恥を知れ! 恥を!!!」
「げふぅ」
天幕を警護していた兵士一人をぶっ飛ばし、額に青筋を浮かべた が現れる。
名も知らない兵士Aは に蹴り入れられ、口から泡を吹いて気絶していた。

「何者だっ!!!」
金きり声を上げる偉そうな男。
は視界の隅に青い顔をして震えあうガゼルとハヤトの姿を捉えつつ。
身体は男の方へ向ける。

「すまない、僕の知り合いがこの会場に紛れ込んでしまってな。彼等を迎えに来た」
事実だけを述べて頭を下げる

「「……」」
心臓の強い の行動を目の前に、ガゼルとハヤトは揃って首を振った。

 そんな謝罪を受け入れるような、そんな相手じゃないって!!!

心の中で にツッコむのだが、二人の心の声が には届かない。
額に青筋を浮かべる男。
は男の視線を平然と受け止める。

「無礼なっ! このわたしを金の派閥の召喚師・イムラン=マーンと知っての愚弄か!」

男が、金の派閥の召喚師。
イムランが を威圧的に怒鳴りつけた。

は何度か瞬きを繰り返しイムランを遠慮なく観察する。

 ふむ。それなりのマナ(魔力)は持っていそうな男だ。
 しかしこれで召喚師か? レベルが低すぎるな。
 まだ見習いと自称しているクラレットとカシス、それにトウヤの方が強いと思うぞ。

上質な服を身に着けていかにも悪徳役人の空気を垂れ流すイムラン。
怯える気配のない と、 を取り囲む警備兵達。

「非礼は詫びたではないか。子供の謝罪一つも受け入れらぬ程器量の狭い召喚師とは。金の派閥とやらの程度が知れるな」

ポーカーフェイスで言い放った の台詞に、内心は拍手をかまし。
再度、ガゼルとハヤトは首を横に振った。

 煽ってどうすんだ〜!!!!

諦めて剣の柄に手を掛けるハヤトと、腰に下げた投具に手を伸ばすガゼル。

「きいいいぃぃいぃ!!! よい、このガキを懲らしめるのだ!」
同時にイムラン、ブチキレ。
顔を怒りで真っ赤にして を指差す。

「愚かだな」

 やれやれ。

そんな感じで首を横に振り、 が短剣を真横に構え周囲の警護兵をなぎ倒す。
原理は分らないが警護兵達は痺れて動けない。
陸に上がった魚のように口をパクパクさせている。

ッ」
ガゼルが叫んで の背後に立つ弓兵に投具を放つ。
「い出よっ!!!」
ハヤトも召喚術が使えないわけではない。
トウヤと比べて、下手なだけ。

装備していたサモナイト石からプチメテオを呼び出し、料理の並んだテーブルへ落とした。

ひっくり返るテーブルと散らばる皿。
散乱する諸々を避ける兵士達の合間を縫って は走る。

「召喚術……そうか、お前達が例の噂のガキ共だな……」
イムランの双眸が細まり、手にした紫色のサモナイト石に念じ始めた。

「……二人とも、大丈夫!?」
天幕の一部を落としてカシスが現れる。

「俺達は。それより、 が」
飛んでくる弓を剣で防ぎながらハヤトが怒鳴る。

カシスは頑丈なテーブルの陰に隠れ、懸命に の姿を捜した。
最初は天幕の端に陣取り、ガゼルとハヤトを捜していた とカシス。
だが、ガゼル達の摘み食いを見た瞬間、 は臆することなく天幕の中へと飛び込んでいってしまった。

カシスは慌てて引き返し、レイドに事情を説明してから戻ってきたのである。

「喰らえ! 霊界の電撃を!!!」
イムランが杖を振り上げた。

紫色の光が零れ、現れるのは黄色い丸みを帯びた物体。
笑い声を響かせながら 目掛け雷(いかずち)をお見舞いする。
は咄嗟に短剣を地面につき立て自分はテーブルの下へ滑り込む。

 どがぁん。

雷が落ちた音と周囲に漂う焦げ臭い匂い。

「……伊達に召喚師は名乗っていない、というコトか」

真っ黒に変色した短剣。
見詰めて は召喚術の『重要性』を改めて認識していた。

クラレットから聞いて召喚術の有用性については理解したつもりだった。
だが、実際の召喚師が行使した召喚術を見るまでは。

 召喚術を甘く見ていたやもしれぬ。いかんな。

テーブルの下で一人冷静に考える
その間にガゼル・ハヤト・カシスがイムランを取り囲み、彼の動きを封じたのだった。

? どこに居るんだ??」
ぼんやり考える の耳にトウヤの声が聞こえる。
「ここだ、トウヤ」
すっかりイムランの存在を忘れていた。
は慎重にテーブル下から這い出して、不機嫌丸出しのイムランを見る。

「流石は召喚師だ。的確な攻撃だな」
場違いも良い所。
妙に感心した口ぶりで はイムランへ話しかけた。

「……」
イムランは眦を吊り上げて を睨むだけ。

 うむ、どうしたものか。
 イムランも召喚師。
 トウヤとハヤトの事故について別の見解をつけられると思うのだがな。
 こう尖られてしまっては無理か。

に向けられる怒りの感情。
感じ取り、 は小さく息を吐き出す。

どうしたものかと悩んでいると、フラットの後見人レイドが登場。
イムランに誤解はされたが、全員が事なきを得た。





フラットへ戻り、ガゼルとハヤトはリプレにお説教&夕飯抜き。
の刑に処され、 で無茶をしたのでトウヤにお説教される。

トウヤとハヤトとの共同の部屋。
トウヤと は正座して互いに向かい合う。

「……召喚魔法の理論を一番先に覚えたのも だ。そして戦いのコツを掴んでいるのも だ。でも忘れては無いか? 俺達は仲間だ。互いに助け合うものだろう?」

申し訳なさそうな瞳の色。
の上目遣いに笑い出さないよう堪えて、トウヤは極力ポーカーフェイスを装う。

「一方的な優しさや、気遣いはしないって約束して欲しいんだ。 は器用になんでもこなし過ぎる。
一人でやるには難しいと思ったことや、大変なことがあったら相談して欲しい……それとも、俺達は頼りないか?」

不安の色を醸し出してトウヤが問いかける。
は弾かれた様に顔を上げ、トウヤの顔を凝視して。
勢い良く首を左右に振った。

 その振り方は後で気持ち悪くなると思うけどな、

ブンブンブンブン。
髪も揺らして頭を振り続ける をトウヤは止める。

「そうか……。最初の頃、俺は出来れば のお兄さんみたいになれたらな、って思った。けど の方が大人だし、落ち着いてるから駄目なのかなとも最近思うよ」

屋根での会話をずっと気にしていた。

トウヤなりに、 を助けてあげられるよういと努力した。
クラレットに召喚術を教えてもらい。
カシスにもリィンバウムの歴史等を教えてもらっている。

レイドには剣を。
ガゼルには戦いにおける実践的な身のこなしを。

街をぶらついて知識を増やして。

を守れるように。
フラットの皆に迷惑を掛けないように。

トウヤは心がけて努力してきた。

 駄目だな。これじゃ八つ当たりだ。

自分の不安を にぶつけるなんて。
の方がまだ小さいのに。
胸に渦巻くモヤモヤを振り切れずトウヤは唇を噛み締める。

「ごめんなさい」
は心底申し訳ないと思ってトウヤに抱きついた。

 そうであった。
 いつぞや、我を留守番させていざこざに巻き込まれた二人を。
 我は事情が分らぬ、説明せよと怒った。

 なのに今日は我は何も説明しておらぬ。

 トウヤとハヤトを護るつもりが傷つけた。

 少なくともこの異界では共に歩むべき仲間なのに。

「ごめんなさい……トウヤ」
トウヤの首に腕を回して肩口に顔を埋める。
震える の声。

「ううん。俺もちょっと八つ当たりしたかもしれない。ごめん、
腹ペコハヤトを他所に距離を縮めていくトウヤと であった。


Created by DreamEditor
 イムランさんは1では素敵敵キャラだと信じて止みません。ブラウザバックプリーズ