『金の派閥1』



クラレット&カシスが合流して一週間。

概ね平和な時間がフラットにも流れている。
「はうっ……ううう……」
広間で昼寝をしているハヤトがなにやら魘されているが、スルー。

は無視してフィズと一緒に食器の片づけをしていた。

「毎日外に出て戦闘訓練なんて凄いじゃない、 。レイドとエドスが、 はとても冷静だって褒めてたわよ」

台所で思案顔のリプレを隣に、フィズと とで手際よく食器を棚に戻していく。

「そうか? 一般論を言っているだけだ」
表情が乏しいのは最初、 なりの警戒かとフィズは思っていた。

でも滅多に表情を崩さない を見ていると。
子供らしくないとは感じたが、これが の素なのだと結論を下すに至った。

現に今も の表情は崩れずにフィズへ返事を返している。

「それでも凄いと思うかな。まぁ、人それぞれ出来ることがあるし。 にも不得意分野があるもんね」

先日リプレに教えられて釣に行ったトウヤ・ハヤト・
大概器用に何もかもをこなす の釣の腕は最悪だった。

釣れるには釣れるのだが、ゲテモノ魚類しか釣れないのだ。

バケツ一杯の猫魚の光景を思い出し、フィズはニヤニヤ笑う。

「むぅ」
フィズに言われて は眉間に皺を寄せた。

 知らぬが、異界の者に好かれるのだ、我は。
 召喚術とて我の気配に興味を抱いた巨大な召喚獣ばかりが召喚されおる。

 あのような召喚術を使おうものなら敵味方関係ナシに吹き飛ぶではないか。

 サプレスの混沌の騎士には忠誠を誓われ。
 シルターンの仙獣にも妙に懐かれ。
 メイトルパの火竜からも好意を寄せられ。
 ロレイラルの機械にも主と認識された。

 どれもこれもが現段階では不要の超強力召喚魔法なのである。

 カシスやトウヤ・クラレットが使う様な、小範囲攻撃を出来る者は居らぬのか!!!!

内心憤るも、 を気に入った高位の召喚獣達の牽制があり。
他の者が の呼びかけに応じることは少なかった。


午前中はクラレットに召喚術を学び、昼はリプレの手伝い。
午後はサイジェントの街をうろつき、途中トウヤとハヤトを強制連行して戦闘訓練。
の日々は充実していた。

今日の戦闘訓練はお休み。
地球でだって休日が存在するのだから、ハヤトとトウヤにも与えないのは不公平である。

よって本日の午後はハヤトもトウヤも のお許しを得てのんびり過ごしていた。

「慣れぬ世界を嘆くよりは前を向き歩いたほうが賢い。僕は悲観主義者ではないからな。楽観主義者でもないが」

の目的は、地球に張った己の結界へ悪さをする輩の正体を突き止める事。
ハヤトとトウヤを呼び寄せた犯人は判明したが、根本的な解決には至っていない。

 話題をさり気なく変えた に、フィズはもう一度ニヤリと笑い。
魚の件は持ち出さなかった。
歳若くともフィズは察しの良い子供なのだ。

「う〜ん、前向きだろうけど。 って大胆だよね、色々」

自分達とは違う世界から来た不思議な友達。
子供なのに頭が良くて、強い。

でも自分達を馬鹿にしない優しい友達。
フィズはこの新しい友達を気に入っている。
今日は道場に行っているアルバも、昼寝をしているラミもそうだ。

フィズの半分褒めている台詞に は僅かに口角を持ち上げる。

「ねぇ?  ……ちょっと相談があるんだけど?」
和やかにフィズと話していると、先ほどまで考え込んでいたリプレが会話に割って入る。
「らーめん、って知ってる?」
真顔で問いかけるリプレに はうなずいた。
「トウヤとハヤトの好物らしいの。出来れば作ってあげたいんだけど、どういうモノか分らなくて」
ラーメン自体はそんなに食べないが、構造は知っている。
説明しようと口を開きかけた の声は、トウヤとエドスのユニゾンによって遮られた。

「「花見に行こう」」
という、その提案に。





翌日。
アレク川の畔でいざ花見! とはしゃぐ 達の前に、無粋な天幕が。

「なんだよ、アレ」
ハヤトが胡散臭そうに天幕を睨む。

「……恐らくは、金の派閥の召喚師が花見に来たのだろう。彼等はサイジェントの城主の顧問をしているんだ。顧問召喚師、という立場だな」
レイドが浮かない顔つきで天幕の中に立つであろう人物を説明してくれる。

「昨日まではこんなもの、なかったのに」
トウヤは残念そうに、恨めしそうに天幕を見上げた。

「ケッ! 召喚術が使えるからって、奴等、遣りたい放題じゃねぇか」
足元の小石を蹴り上げガゼルは怒りに燃える瞳で天幕を一瞥し、そっぽを向く。

「一番良い場所、盗られてるし……」
アルバが咲き乱れるアルサックの花へ目線を送り、ため息混じりに呟いた。

折角の楽しい気持ちが萎れ消えてしまう。
は隣に立つエドスに話しかけた。

「エドスよ、あちらで花見が出来ずとも構わぬな? 相手は身分の高い者だ。不用意に喧嘩を売っても、フラットの得になることはない。僕の考えは間違っているか?」

長身のエドスを見上げれば、察したエドスがしゃがみ込んでくれる。
正にエドスが言おうとしていた言葉を が発したので、気恥ずかしい。

「そうだな。花見ならまた来年も出来る。無理にあそこで、とは言わないさ」
猫の子を持ち上げるように、 の襟首を掴みエドスは立ち上がる。
「いいじゃないか。わしらはこっちで花見をしよう」
言いながらエドスはリプレに目配せした。
リプレも笑みを浮かべて頷き、エドスについて歩き出す。

「ええ〜!!! だって悪いのはあいつ等だろ?」
一番最後までハヤトが不満顔だったけれど、皆が移動を始めたので仕方なく方向を変える。
こうしてフラットのメンバーは、見事な花見スポットから少し外れた場所で花見を始めた。


「澄んだ川も花も見られる。美しい景色だな」
リプレママお手製弁当に舌鼓を打ち、 は傍らのカシスに話しかける。
「えっ? へ!? あ、うん……そうだね!」
ぼんやりしていたカシスは慌てて相槌を打った。
「折角の骨休めだ。僕達を元の世界に戻す方法でも考えていたのだろうが、今日は寛いだらどうなんだ?」
ぎこちないカシスの態度。
は川から吹き抜ける湿度を持った風に目を細める。

「うん……でも、わたしの家は……さ。こういうコトした事なかったんだ。勉強ばかりで部屋にずっといたから。クラレットお姉様もそうなの。
だからどうしていいか、少し分らなくって」
困った顔で頭を掻くカシスに は小さく笑った。

「ほえ?」

笑顔の なんて見たことが無い。
幻覚かと慌てて目を擦るカシスの前で、確かに は笑顔を浮かべていた。

「見本ならそこに居る。花を見詰めてぼんやりするもよし、昼寝をするもよし。酒をたしなんで箍を適度に外すもよし。
過ごしたいように過ごせば良い。クラレットも、トウヤと一緒に何やら楽しそうに話している。心配するな」

戸惑うカシス。
に言われて姉の姿を捜せば、トウヤと一緒に何かを喋っていた。
なんだかとても楽しそうに。

「だいじょうぶ」
何を指して『だいじょうぶ』なのか。
具体的に は言わなかったが、空気に馴染めないカシスに極上の笑みを浮かべて一言言い切った。

「……うん」

 将来、 って良い男に育つかも。
 ちょっぴり見惚れちゃった。

仄かに頬を染めながら にうなずき、 に手を引かれカシスも皆の輪に入る。
は直ぐに何時もの無表情に戻ってしまったけれど。
さり気ない優しさだとかが嬉しかった。

リプレと服や食事の話をしたり、レイドと召喚魔法の話をしたり。
世間話を楽しんでいたカシスの服の裾を誰かが引っ張る。

「どうしたの?」
さっきまで も会話に適度に加わって楽しんでいたのに。
今の は険しい顔つきになって前方に見える天幕を睨む。
カシスは何事かがあったと察して小声で に問うた。

「先ほどからヤンチャ二人組の姿が見えん。予想される展開は唯一つ」

苦い口調でカシスに囁き返す
さり気なさを装ってフラットのメンバーを一通り見渡すと、ガゼルとハヤトの姿が見えない。

「あちゃ〜……」
なんとなく、 の訴えたいことがわかってカシスは額に手を当てた。


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 意外に庶民的な神様? 子供達とも仲が良いんです。ブラウザバックプリーズ