『異界の迷子3』
あっさり己達の非を認めた
にローカスが近づく。
「矛盾していないか?」
の発言内容に衝撃を受け、固まるハヤトに聖母プラーマを召喚するトウヤ。
二人の少年を横目にローカスが静かに言葉を投げかけるが。
は首を横に振る。
「いや。少なくとも僕とガゼルはこの『行為』が『正義』だとは認識していない。勝手に助けたくて助けたのだ。
カムランの元に行けば不自由で可哀想だという、僕等の持論を勝手に振りかざしてカムランを襲っただけに過ぎない。これを正義と称せるのか?」
剣先は団長へ向けたまま。
顔だけローカスの方を向き
は言うべき言葉を紡ぐ。
「……耳に痛い指摘だな」
腰に手を当ててローカスが自嘲気味に笑う。
「
! 先に交渉しちゃいなよ〜! カムラン達が目を覚ましたら面倒じゃない」
一番冷静に周囲を見ているのがカシスで、杖を振り回しながら
に交渉の先を促す。
「度々すまない。これを。モナティーの身柄を買うつもりはないが、汝にモナティー達を悪く思って欲しくない。これを受け取る代わりに僕の話通りの説明をしろ。いいな?」
上着の内側から取り出す大量の金貨。
団長の足元に無造作に投げ落として は交渉を続ける。
大量の金貨に団長は絶句し、それから急いで金貨を拾い始めた。
「ついでに付け加えさせてもらえば。モナティーに謝れ。モナティーを保護していてくれた事には感謝するが、使えないからと一方的に売り払うのは言語道断。
最後まで責任を取れないのなら拾うな。冷たいようだが、それが一番だ」
モナティーやハヤト達に聞こえないように、金貨を拾う団長の耳元へ。
はしゃがみ込んで団長の耳元に脅しとも命令とも、説教ともつかない台詞を押し込んだ。
「すまないな、モナティー。その茶色いの。こういった形でしか解決が出来ない」
次に
は立ち上がってモナティーと足元の茶色い物体へ深々と頭を下げる。
「あう????」
訳が分らないモナティーは、真っ赤に染まった鼻を押さえて首を傾げた。
「勝手に僕等がモナティーを助けてしまった。このまま団長の元に居れば、再びカムランが来るだろう。
それでは意味がない。モナティーは嫌だと言ったのだから。だから責任は僕が取る。一緒においで」
は常に浮かべる無表情を引き込め。
誰もが見惚れる柔らかい温かい笑みを浮かべてモナティーへ手を差し伸べる。
「……
さんってああいう顔も出来たんですね」
構えていた弓矢を下ろし、スウォンが呆然と呟く。
「時々見るけど、アレ、反則だぜ」
スウォンの隣のガゼルは心持ち顔を赤くして明後日の方角へ顔を向けた。
「か、格好良いような、可愛いような、綺麗な笑顔! 女心としては複雑っ!」
握り拳片手に悶えるカシス。
トウヤとハヤトは免疫が多少はあるので、ドキドキする胸を押さえつつも へ近づく。
ローカスはさっき近づいてきたばかりなのに、驚くべき勢いで五メートル程後ろへ下がっていた。
「モナティー、いらないって……役に立たないって」
気まずそうに目線を下げて。
悲しげな口調でモナティーは喋る。
「一生懸命頑張りましたの。モナティー、お役に立ちたくて一生懸命頑張りましたの。なのに、なのにっ……」
団長の言葉を思い出してモナティーは再び涙ぐむ。
「サーカス、楽しかったよ? 一緒に見に来ていた子供達も、モナティーとガウムの一生懸命を見て喜んでいた。モナティーの頑張りは無駄じゃない」
に倣い、手を差し伸べながらトウヤがモナティーを励ます。
「ああ!
とトウヤの言う通りだぜ! 無駄じゃないし、これからだって役に立てるさ。俺達は二人を助けたい。だから……俺達と一緒に帰ろう」
とトウヤに倣い、ハヤトもモナティーへ手を差し伸べる。
「うにゅぅぅぅうううぅぅ! ご主人様〜!!!」
泣き声なのか、鳴き声なのか。
モナティーは叫びながら へ抱きつき、身長差もあって勢いで
を押し倒した。
「キューキュー」
茶色の物体。
トウヤがガウムと呼んだ生き物が身体を伸ばし、地面と の間に割って入り
を助ける。
「ご主人様???」
モナティーにギュウギュウ抱きつかれた格好で
は首を捻った。
「はいですの。ご主人様はモナティーを助けてくれましたの。だから、ご主人様です」
腑に落ちない理屈だが、モナティーの脳内には が新しいご主人だとインプットされたらしい。
助けを求めるべくハヤトへ目線を送るが、ハヤトに顔を逸らされた。
「実質、助けたのは
だから……」
トウヤも余所余所しい態度で言葉を濁す。
「大丈夫ですのっ。三人皆様で『ご主人様v』ですの〜っ!!!」
満面の笑みを湛えてハヤトとトウヤを指差すモナティー。
同意するように、身体を伸ばしたガウムもキューキュー鳴いている。
「あははは、楽しそうだな」
「微笑ましいですね」
「よっ! 色男〜!」
話題外にあるガゼル→スウォン→カシスの順の発言に。
「「「呼ばなくていいっ!!!」」」
なんて。
綺麗に三人ハモって声を返す『名も無き世界からの召喚組』達であった。
ローカスは我関せずでドコか遠くを眺めている。
「どうしてですの!? ご主人様はご主人様ですの」
拒否する三人にモナティーがむぅと口先を尖らせて食って掛かった。
「……別に主従関係になりたい訳じゃないんだよ? 俺達は」
モナティーを引っ張り起こしてトウヤがモナティーに訴える。
「そうそう。どっちかっていうと仲間だな、仲間!」
ハヤトは
の腕を掴み起こしながらモナティーへ畳み掛けた。
「うむ、生活を共にする仲間だ」
最後に
が助けてくれたガウムの頭を撫でながら、言葉を締め括る。
「うみゅうぅ……仲間、ですの??」
モナティーは眉間に皺を寄せて真剣に考え出す。
その間に団長からモナティーへ謝罪をさせ、
達は足早にサーカスの敷地を離れる。
「仲間……仲間」
トウヤに腕を引かれながら歩き、モナティーはブツブツ口内で『仲間』の単語を繰り返す。
はガウムを頭の上に乗せ、何故かその光景を見てカシスが大爆笑して。
矢張り笑いを堪えるガゼルとスウォンを引きつれ先頭を歩く。
ガウムはフラットまでの道を知らぬし。
両手がふさがっていては、いざという時に対応できぬではないか?
何が可笑しいのだ???
怪訝そうな雰囲気だけは体から出ている 。
それを感じ取って益々笑い続けるカシスに堪えきれずに噴出すガゼル。
ローカスは頬を引き攣らせ、ハヤトは肩を震わせた。
それにしても、比較的穏便に済んでよかったと考えるべきだな。
どうせハヤトとトウヤの事だ。
我が同行せずともモナティーとガウムを連れてきただろう。
己の信条に真っ直ぐなのは良いが、その信条が全て『善』だと言い切れぬ。
受け取り手によっては『悪』にもなる。
詰まる所、我が監視しておらねばならぬ訳か。
トウヤとハヤトが余計な『恨み』を買わぬようにな。
の頭上ではキュッキュッとガウムが機嫌よく鳴いている。
数分も歩けば
とガウムのセットに慣れてきてメンバーの笑いも納まった。
「似合うよな?」
具体的な名詞を入れずにハヤトがガゼルに耳打ちする。
「ああ、似合う、似合う」
ニヤニヤ笑ってガゼルが唇の端を持ち上げた。
「うんうん! 似合う、似合うよぉ〜」
お姉様にも見せなくちゃ。
内心だけで気合を入れてカシスが弾んだ声を発する。
そこへ丁度考え終わったらしいモナティーが自信満々に
を見た。
「ご主人様が駄目なら、ますたー、ですのっ!」
「却下だ」
得意げに言い切るモナティーへ、間をおかずに
が否定。
「うにゅぅうぅ……でも、でも」
恨めしそうに
を見詰めるモナティーに、トウヤがヤレヤレと頭を振った。
「ご主人様、よりはマシだろう? 妥協は必要だよ、
」
三度泣き出しそうなモナティーの頭を宥めるように撫で。
トウヤが を窘める調子で軽く睨む。
これ以上モナティーを泣かすんじゃない。
暗に言い含めて。
我は神だぞ。それをマスター等とは……世も末か。
数秒間だけ剥れる だが。
トウヤの言いたい事も分かるので、目を細めて渋々首を縦に振る。
こうして不本意ながらモナティー&ガウムの『マスター』となった ・ハヤト・トウヤ。
しかし本当に一番偉大なのは、何も言わずにモナティーの部屋と食事を用意してくれたリプレであろう。
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