『異界の迷子2』




翌朝早く。
アルバ達フラットの子供に声援付きで見送られた 達。

サーカスのテントへ着くと、そこではもう騒動が始まろうとしていた。
「どうですか?」
揉み手をしながら金髪の男にモナティーを見せるサーカス団長。
訳も分らずにキョトンとした顔で立ち尽くすモナティー。

「素晴らしい!」
なんだかモナティーを気に入ったような、金髪の男。

サーカスの道具類の物陰に隠れ、彼等の遣り取りを聞きながら は眉を顰めた。

「時にローカス。あの中途半端ナルシストの男の名を知っているか?」

なよなよ、しているというか。
自分に酔っているというか。

非常に微妙なラインの発言を繰り返す金髪の男を遠慮なく指差して はローカスへ話を振った。
レイドが今回仕事で同行できていないので、 は情報通であろうローカスへ質問したのである。

あいつの名はカムラン。イムラン・キムランの弟、即ちマーン三兄弟の末弟だ」
上質のレースのハンカチで汗を拭うカムランに、ローカスは露骨に嫌な顔をした。

「道理で。頭のネジが数本抜けたような言動に聞き覚えがあったのでな」

事実だけを説明するローカスに が相槌を打てば、二人の背後でスウォンとガゼルがバランスを崩して転びかける。

スウォンとガゼルはトウヤとハヤトに助けられ、転ぶことだけは免れた。

「この話の流れから行くと、カムランは愛玩動物を探している。どうやらモナティーが気に入ったらしい。サーカス団でもモナティーの処遇に困っていた。渡りに船、となるか」

自体が飲み込めていないモナティーを他所に、値段の交渉に入る団長とカムラン。
は背後で脱力しているスウォンとガゼル・トウヤ・ハヤト・カシスに声を掛ける。

「どー見てもそうでしょう? 召喚師の価値がああゆうので決まるわけじゃないけど。召喚獣をコレクションするのが好きな召喚師は、多少いるらしいから」

飛び出しそうなハヤトの頭に杖を置いて。
カシスが努めて冷静に発言する。

「あの三兄弟に飼われるんじゃない? このまま交渉が成立すれば。悪趣味としか言い様がないけどね」

続けて言ったカシスの言葉で我慢は限界。
ハヤトはこれまで培ってきた戦闘訓練の成果を発揮して、一人飛び出して行った。

「行っちまったぜ、ハヤトの奴」
ハヤトの素早い動きに口笛吹いてガゼルが茶化す。
「お人好しの極みだな」
ローカスは別段何も感じていないように感想を漏らし。
「せっかちなんだから、ハヤト」
額に手を当てたトウヤが肩を落として項垂れる。

「誰もモナティーを助けないとは言っておらん。ハヤトはもう少し最後まで話を聞くべきだ」
一人憤慨する
全員の意見を静かに聞いたスウォンが、遠慮がちに言った。

「冷静に話し合っているのはいいんですが、もう戦いが始まってますよ?」と。
全員が慌ててハヤトを捜すが、ハヤトは警護兵やら天使らしき者に囲まれてしまい。
姿は見えなくなっている。

「スウォン、ガゼル。遠距離の攻撃担当を頼む。僕が合図を送ったらカムランを狙い撃て。あの悪趣味な服装なら目立つから狙いやすいだろう」
「「了解」」
の指示にスウォンとガゼルが揃って答え、物陰に隠れながら移動を始める。
は短剣を抜き放つとカシスへ目で合図を送った。
杖を構えたカシスが目を閉じる。

「我が呼びかけに応えよ!!! 召喚、ペンタ君」
カシスの杖が緑の光を放ち、現れるのは丸いペンギン型の爆弾。
細腕に似合わずカシスはペンタ君を人だかり目掛けて投げつけた。

 ぼがぁん。

ペンタ君が破裂して爆発が巻き起こる。

「後は各自戦闘。負けは認めんからな」
最後に不吉な言葉を残して爆風に紛れて消える

「……各自戦闘って……確かにそうだけど、なんかなぁ」
乾いた笑みを浮かべ腰に下がった剣を抜き放つトウヤに、無言で剣を取り出すローカス。
肩を竦めるカシスの三人も に叱られない為に行動を開始する。

一足先に乗り込んだ はサーカスの備品が入った木箱に乗り、全体を見下ろしていた。

「カムラン=マーン! 僕はサイジェントの街に住む という者だ。お前の悪趣味な趣向ではそのモナティーとやらは幸せになれぬ。大人しく手を引くなら穏便に済ませる」

良く通る の声。

美しくない展開に秀麗な? 細眉を顰めていたカムランは木箱に登った を見上げた。

「このわたしに指図をするとは、なんのつもりです!」
斜め四十五度の立ち位置を確保して を睨みつけるカムラン。

やや悦に入っているカムランに呆れ果てる乱闘中のハヤト&ローカス。
鳥肌が立ったようで慌ててシャンプーライムを召喚するカシスと、無言でビームロイドを召喚するトウヤ。
皆が皆、極力カムランを視野に入れないよう戦闘を続行する。

「うええぇっ……はえ?」
突然の身売りの話に動揺し泣きじゃくっていたモナティーは、ここにきて。
遅まきながら事態が変化しているのに気がついた。

目が溶け出しそうな程流した涙。
頬を伝う涙を服の裾で慌てて拭い木箱に立つ を呆然と見上げた。

「モナティーとやら? 一つだけ良い事を教えてやろう」
モナティーと視線がかち合うと、 は目を細めてモナティーに喋り始める。

「確かに汝はサーカス団長に恩がある。途方に暮れていた汝等を助けてくれたのだ。だが今はそれを捨て置け。汝は本来『自由』なのだ。
召喚され主を失った者を『はぐれ』と呼ぶそうだが、それは汝の都合ではない。勝手に『はぐれ』という枠に当て嵌めるのは召喚師やリィンバウムの者が傲慢だからだ。分るか?」

斜め四十五度のカムランに対し、逆光背負った が滔々と演説を行った。

「ふぇ……ほえええ????」
が、語られている側。
モナティーは の言葉が小難しすぎて理解に至っていない。

顔一杯に疑問符を飛ばしながら懸命に を見上げている。
とモナティーは数分間見詰め合ったまま膠着した。

「これから誰と一緒に暮らすか、好きに選べ。そう言っている」
必死に考えて唸るモナティーへ、 は手短にもう一度口を開く。

 すん。

鼻を啜ったモナティーは何度も瞬きを繰り返す。
拭ききれなかった目尻の涙がホロホロと零れ落ちた。

「キュー!! キュキュッ」
モナティーの足元。
茶色い塊がモナティーの足元で鳴き声を発する。

「モナティー、モナティーは……売られるのは嫌ですのっ!」
鼻声のモナティーの叫びに が口角を持ち上げて笑う。
笑顔を向ける先は当然カムランである。

「うぐっ……何故です! この激しい屈辱感を、どうしてわたしが味わうのです!?」
妙な敗北感に打ちひしがれて、ハンカチを噛み締めるカムラン。
「品位の差だ」
挑発的に言ってのけ、人差し指で来い来いと。
カムランを更に煽る の行動。

カムランは怒りで顔を真っ赤にしながら紫色のサモナイト石を手に飛び出す。

「ならば華麗なる我が召喚術の餌食となるがいい!! 召喚、エビルスパイク」
カムランが意識をサモナイト石に集中させた途端。
が手を上げて背後に合図を送った。

 ヒュンッ。

空を切る弓矢と投具の音。
弓矢はカムランの服の裾を板壁に縫いつけ、投具はカムランの髪を数本切り落とした。

「小物の悪魔で僕の相手が務まるか!! 痴れ者が!!!」
極めつけは
魔力を込めた短剣でエビルスパイクを横一文字に切断。
返す刀の反動で小悪魔本体にもダメージを与える。

「ひ、ひええええぇぇぇええ」
我に返ったカムランの目の前で次々倒されるマーン兵士。

「ううっ……」
召喚した天使兵も白目を向いて気絶。
肩に剣を担いだローカスが殺気立った瞳でカムランを見据えた時点で勝負はついた。

「命を大切にと、親に教わらなかったか?」
戦意を喪失したカムランの耳真横。
板に短剣を深々と突き刺し、 は目が笑っていない顔で単語を棒読みする。

「団長、命が惜しくば口裏を合わせろ。僕等がモナティーとその茶色を連れて行った。お前は気絶していて何も知らない。分かったな?」
板から短剣を容易く抜き取り剣先を団長へ向ける。

凄む に壊れた人形のように団長は何度も首を縦に振った。

の背後数メートルに弓矢を構えたスウォンと投具を持ったガゼルが居るせいもある。

「なっ、なんかあくどいぞ。
一人先走ったハヤトは怪我だらけ。
擦り傷掠り傷を大量に拵えて泥にを被った頬を、服の裾で乱暴に拭う。

「当たり前だ。僕等がしている事のどこが『正義』だ」
一際冷たい視線をハヤトに送って はきっぱりと言い切った。


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 モナティーへの愛故の三部構成〜。主人公の説得が分からないモナがツボですv ブラウザバックプリーズ