『話題休閑異界の迷子1その前』



フラットの子供達がサーカスへ行く日。
午前中。
はクラレットと一緒にサイジェントを散歩していた。

「異界へやって来て早一ヶ月と二週間。住めば都というが、先達の格言は的確だな」
はひとりごちる。
「住めば都、ですか?」
傍らを歩くクラレットが のつむじを見下ろす。
「どのような場所でも長く住めば愛着が湧くというもの。格言が当て嵌まる部分もあるが、寧ろ大きな要因はフラットの居心地が良すぎからだな」
言いながら、 はこの間の小競り合いが起きた工場地区の路地へ足を進めた。

「ええ、温かい場所です。元々元気なカシスは最近益々笑顔を見せるようになりました。わたし達の家ではなかった事です」
遠い目をしてクラレットが心なし寂しそうに呟く。
「温かい繋がりを否定されて育ってきた。わたし達には眩しい場所です」
ため息とともに吐き出されるクラレットの本音。

目だけを動かしクラレットを盗み見ても。
はクラレットの本音に対する考えを口には出さない。


 目的があってハヤトとトウヤに近づいた、この姉妹。
 我は姉妹が全てを自身の口で語ると言った約束を信用する。
 信用すると約束した。

 その代り我の能力の高さを追及しないと。
 姉妹がフラットに来たその日に交わした約束、我は護るぞ。
 だから今はまだ口を挟まぬ。

クラレットが妙に に対して寛容なのは、約束があるから。
加えて、 自身が発する年不相応な安心感が心地良いからだろう。

「ん? あれはウィゼルではないか?」
歩きながら は見覚えのある老人の姿を路地に発見する。
「まぁ、そうです。ウィゼルさんですね」
クラレットも多少驚きながらしゃがみ込むウィゼルを眺めた。

とクラレットに気がつくと、ウィゼルは立ち上がり相好を崩しながら近寄ってくる。

「また会ったのう」
目を細め とクラレットを交互に見詰めるウィゼル。

クラレットは愛想笑いを浮かべ、 は常のポーカーフェイスのまま深々と一礼した。

「折れた武器を眺めて何をしているのですか?」
クラレットはウィゼルの手にある折れた剣や弓矢・槍を不思議そうに見詰める。

ウィゼルは片手を挙げ、使い物にならない武器をクラレットと へ突き出した。

「武器がな、泣いておる。打ち捨てられた武器が訴えかけてくるのだ」

 愛しい。

ウィゼルは折れた剣の柄をそっと撫でた。

「武器にも心がある。心無い者に扱われた武器が泣いていると、そう言う訳か。
……僕が居た世界にも物に神が宿るという考えがあった。だから身の回りの物も大切にしろと。確かにこの武器達は気の毒だ。供養もなしか」

路地に散らばる武器の残骸へ顔を向け、 が応じる。

ウィゼルの言葉を理解した上での発言に、ウィゼルは目を細めクラレットは僅かに目を見張った。

「してウィゼル、汝一人で供養が出来るのか?」
道々に散らばる武器。周囲を一通り観察して がウィゼルへ問いかける。
「地道にやるかのう」
ゆったりした動作で折れた槍の先を拾上げるウィゼル。
は片眉を少し持ち上げ、灰色のサモナイト石に手をかざす。
クラレットは紫色のサモナイト石へ手をかざした。

 ポンッ。

召喚術独特の反応と、現れるライザーとポワソ。

「供養の段取りまでは出来ぬが、拾い集めるくらいなら出来る。それだけ手伝おう」
ウィゼルが口を開く前に自分の足元の武器を拾上げる
に倣ってクラレット・ライザー・ポワソも武器を拾い集めていく。

「ふむ……姿形は違うが、若しやあの子供は……」
黙々と作業を行う の小さな姿を眺めながら、ウィゼルは白くなった顎鬚を撫ぜた。

小一時間ほどかけて武器を拾い、ウィゼルに後を託して とクラレットは移動を開始。
今度は商店街へと歩(ほ)を進める。

「忙しい〜! どいたっ、どいた〜」
悲鳴ともつかない奇声を上げて ・クラレットに気がつかず商店街を駆け抜ける橙(だいだい)色の服の少女。
土煙をあげる勢いで走る様は何時見ても大迫力だ。

「アカネさんは相変わらず忙しそうですね」
声を掛ける暇もない。
走り去って行ったアカネの背中を見送り、クラレットが苦笑する。
「店長のシオンが厳しいのかもしれぬな? 人それぞれ、事情があるのだろう」
言いかけた の背後から飛び出してくる第三者。

前のめりにコケる と、突然の事態に驚くクラレット。

「ちょっと、邪魔よ!」
見慣れない衣装に身を包んだ赤毛の少女。
頭から生えた立派な二本の角が特徴的。

「……貴女はメトラル?」
少女の頭の先からつま先まで。
観察したクラレットが指摘すれば、少女は顔色を変えた。

「フン! アンタ達なんかに関係ないでしょっ!」
緑色の双眸を苛立ちの色で染め上げ、クラレットと立ち上がった を睨む少女。
鼻息も荒く喧嘩腰で言い捨て、駆け去っていってしまう。

「だが見捨てては置けぬ。一先ず行き先だけでも確かめるか」
気乗りのしない様子の に、クラレットが黙ってリプシーを召喚する。

額と鼻の頭を擦りむいた の姿は、通常の に似合わず。
可愛らしい。
腕白な子供が遊びすぎて怪我をしたかのような風貌になっている。

「困っている、風ではありましたからね」

少女の突っかかるような言い方は、一見、喧嘩を売っているだけに感じる。

けれど偽りを抱えてフラットで暮らすクラレットには手に取るように分かった。
あの少女の態度の半分は性格で半分は心細さを誤魔化す虚勢だと。

「仕方ないな」
自分に言い聞かせメトラルの少女を追いかけた だったが。

結局途中で少女を見失い、その日は留守番するべくフラットへ戻ったのだった。



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 サモナイ3への前フリ?? アカネ・エルカ仲間入りへの前フリ等。入れすぎ。ブラウザバックプリーズ